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【人事ライン】
カミナシ 松岡氏
思考を人事の領域に閉じない大切さ

公開日:2025.05.14

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株式会社カミナシ
執行役員VP of HR
松岡 広樹 氏

「他の会社の人事ってどうやっているんだろう」「同じような悩みを抱えているのかな」さまざまな企業の人事パーソンインタビュー『人事ライン』。今回はテレビ局やゲーム会社など多様な業種・組織フェーズで人事としてのキャリアを積み重ねてきた、株式会社カミナシの松岡 広樹さんです。松岡さんが感じる人事のやりがいや悩み、スタートアップにおける有効な人事アプローチなどについて、お話を伺いました。

困難にぶつかり続けた人事キャリア。だからこそ、逆境を回避できる視点が培われた

― 今までのキャリアと現在の仕事内容や役割を教えてください。

2010年に関西テレビ放送株式会社に新卒入社をし、主に新卒採用を担当しました。その後2012年にグリー株式会社へ転職し、採用やHRBP、人事企画、海外子会社人事など、後の人事キャリアのベースとなるさまざまな業務に携わりました。3社目となるSupershipホールディングス株式会社(現・Supership株式会社)では、人事責任者として人事機能全体をリードする経験を積みました。
カミナシには2023年2月に入社しました。転職を決めた理由は“一緒に働きたい人”と“やりたいこと”がカミナシにはあると考えたためです。具体的には「人・組織の力を信じ、成長フェーズにこそ強い組織づくりへの投資を惜しまない経営陣」と一緒に「日本の生産性にインパクトを出せるような挑戦をしたい」という思いを実現できると判断しました。
2024年7月に執行役員VP of HRに就任し、経営チームの一員として人事領域全般を担当しています。

― さまざまな業界・組織フェーズの企業で人事業務に携わられてきたのですね。その経験は現在どのように活きていますか。

これまでの人事キャリアは逆境の連続でした。事業撤退や拠点の閉鎖、希望退職だけでなく、ここでは言えない局面もいくつか経験しています。そんな困難に直面し続けたキャリアにおいて、意図したわけではありませんが「いつ・どのような分岐によって厳しい局面に至ったのか」という視点が培われてきたように思います。この視点は、今後起こり得る逆境を回避するための意思決定に反映されています。

経営陣と対話をするためには、事業への深い理解が必須

― カミナシのように多様なメンバーがどんどん増えるスタートアップにおいて、カルチャーを浸透させるために人事として意識していることは何ですか。

カルチャー浸透にあたって最も重要なのが経営陣の姿勢です。従業員は経営陣が本気で良いカルチャーを創り上げようとしているのか、それとも言葉だけなのか、その本心をすぐに見抜きます。経営陣の言葉が表面的なことがバレてしまえば、従業員のカルチャー醸成のモチベーションも下がってしまうことでしょう。だからこそ、人事としては経営陣に“カルチャーを具体的な行動で示し続けるように要求すること”が求められると思います。

また、経営陣だけでなく、一人ひとりの当事者意識も大切です。従業員一人ひとりがカルチャーの伝播者であり体現者であれば、新しいメンバーもそのカルチャーに染まっていくためです。人事としては、カルチャーに共感してくれる人材を採用すること、および既存従業員とカルチャーについて考える時間や思考の整理・棚卸しを行う機会を定期的に設けることが、当事者意識の醸成に有効だと思っています。

― 経営陣に人事から働きかけることが大切なんですね。一方、「人事の提言を経営陣が前向きに受け止めてくれない」と悩む人事も多いと思います。こうした悩みに対する処方箋はあるのでしょうか。

元も子もないかもしれませんが、まず「一定の曖昧性は払拭できないものの、それでも人・組織へ投資をしていく」という価値観を持つ経営陣がいる会社に入ることは極めて重要ですよね。カミナシの経営陣はそのような価値観を有しており、人事からの提言を極めて真摯に受け止めてくれます。
一方、人・組織への投資に必ずしも前向きな経営陣ばかりではありませんよね。それは、その経営陣が「人・組織への投資」と「事業成長」が結びついていることを人事がうまく提示できていないからかもしれません。
では、経営陣と建設的な対話をするために人事としてはどうすれば良いのか。私は、人事も経営陣と事業のディスカッションができる程度に事業への理解度・解像度を高めることが必須だと考えます。事業と人・組織は不可分であり、人・組織に関する有効な提案をするためには、事業について深く理解しなければならないためです。これは自戒を込めてですが、思考を人事の領域に閉じてしまっていては、経営陣と渡り合うことはできないのかもしれませんね。

― 組織規模が大きくなるにつれて組織のモニタリングも難しくなりますよね。松岡さんはどのようにモニタリングしていますか。

2つの方法を用いています。1つ目は、組織診断サーベイの結果や売上・離職率などの定量的なデータを通して組織や個人の状態を推し量るというもの。2つ目は経営陣と現場の結節点となるマネージャーと意見を交わしながら、組織の状態を確認するアプローチです。後者について、現在の当社の規模であればマネージャーだけでなく、人海戦術で全従業員と対話することもできるかもしれません。しかし、当社では今後の組織の拡大を想定して、主にマネージャーを通したモニタリング方法を採用しています。

― 人事の仕事において、松岡さんが悩むのはどのようなことでしょうか。

例えば「このサービスはどのプログラミング言語で作るべきか」という問いに対して、基本的にエンジニア以外の人間が意見を言うことはありませんよね。しかし、人事は「新卒採用をやるべきか」という問いのように、人事以外の領域の人でも意見を形成しやすいテーマが多く、その中で合意を形成し、意思決定をしなければいけません。そこに人事という仕事の特殊性があると思います。
この特殊性がゆえに、いかに他部門の知見を統合しながら、それでいて人事としてのスタンスを崩さず意思決定をしていくのか。併せて、強い意志を持って意見を表明できる“強い人事”であるためにはどうすれば良いのか。これらの問いにいつも向き合いながら仕事をしています。

― 一方で、どのような瞬間に人事としてのやりがいや楽しさを感じていますか。

従業員の個々の成長や会社の事業成長に寄与する意思決定に関与できたときです。自分が提供した情報や提案によって、従業員も会社も良い方向に進んだときは、自身の介在価値を感じられますね。
また、人事の仕事をすればするほど、人事が持つ影響力の大きさに気付かされます。とくに当社のような無形商材を取り扱っているような企業は、人・組織の在りようが事業成長にもたらすインパクトが非常に大きい。そんな人・組織の在りようを左右しているのが人事です。人事という仕事の影響力の大きさを感じながら、一つ一つの意思決定をデザインすることに責任感とともにやりがいを感じていますね。

― カミナシの人事部門では、そんな人事のやりがいを感じてもらう仕掛けがあると聞きました。

コミュニケーションツール「Slack」にてHR部門専用のチャンネルを作成し、人事にまつわるポジティブなニュースを適宜共有しています。例えば「○○部門にてAさんが初受注しました!」「Bさんは△△部門にアサインされてから、パフォーマンスが上がっています!」というようなニュースですね。
ちなみにこうしたニュースはHR部門のメンバーが各部門に入り込んで収集しています。それはカミナシのバリューの一つ「現場ドリブン」を体現するため。私たちHR部門にとっての現場は従業員の働く場であり、現場の声を一次情報として徹底的に集めることにこだわっています。

重なる自身のキャリア志向とカミナシの挑戦。ノンデスクワーカーの才能を解き放つ!

― 人事以外の仕事をしてみたいと思ったことはありますか。

あります。それは人事の仕事をしていて「仕事のアプローチは本質的にはどの職種も同じ」であり、「人事以外でも自分にできることがあるかもしれない」と感じたタイミングがいくつかあったためです。人事として培った仕事のアプローチは他の職種でも試してみたい気持ちはありますね。
一方で、私のキャリアの軸は、“何がしたいか”ではなく、“どれだけ貢献できるのか”。そう考えたとき、これまでのキャリアで磨き上げてきた領域が人事である以上、人事領域で根を張る可能性は高いとも感じています。もし貢献うんぬんを考えなくてもいいタイミングが来たときには、新たな領域でチャレンジをするかもしれませんね。

― 最後に今後の松岡さんのキャリアビジョンを教えてください。

カミナシはノンデスクワーカーの生産性を改善する挑戦をしています。ノンデスクワーカーは就労人口の約60%を占め、日本社会を支える大切な存在です。まさに「日本全体の生産性にインパクトをもたらしたい」という私のキャリア志向と会社の方向性がガッチリ噛み合っているんですね。引き続き、カミナシのミッション「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」の実現に向け、着々とできることに取り組んでいきたいと思います。

松岡さんが人事の仕事の特殊性について話をされたときに、以下のようにも仰っていました。曖昧性を言い訳にしない、逃げないこと。人事のキャリアに向き合う松岡さんの強い意志を感じました。

一見矛盾しているように聞こえるかもしれないですが、「曖昧性を言い訳にしない」こと。曖昧である中でも仮説は立てられるので、「こういう意思決定や投資をすることで、何年後に事業に影響する」「数値にこういうインパクトが出る」と思っているから、仮説の上に仮説みたいになってしまうけれど「こういう見立ての上で投資をしたい」「意思決定をしたい」と思っていることを「この領域は曖昧だから」というのではなく「できる範囲で磨ききる」というところは、逃げないでやるということを意識しています。

Profile

カミナシ 松岡 広樹 氏

株式会社カミナシ
執行役員VP of HR
松岡 広樹 氏

早稲田大学法学部卒業。2010年に関西テレビ放送株式会社に入社し、人事部で新卒採用を担当。2012年にグリー株式会社に入社し、5年間の在籍期間で採用、HRBP、評価・報酬、海外人事など幅広く従事する。2017年にSupershipホールディングス株式会社に入社、2019年に人事責任者に就任し、200名-600名の組織拡大や複数回のM&A/PMIを経験。2023年2月に株式会社カミナシに入社後は、HR組織のマネージャーとして拡大中の組織の人事制度等の整備に注力。2024年7月に執行役員VP of HRに就任。

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