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有給休暇取得で「休む文化」を醸成する

公開日:2020.02.10

企業の課題

働き方改革により、企業では社員に対する年5日の有給休暇の取得が義務化され、「休む文化」の醸成が求められています。政府は2020年までに有給取得率70%を目指していますが、現状は50%程度であり、この先も取得を増やす必要があります。どうすれば有給休暇の取得が進むのか、その方策について考えます。

有給休暇とは何か

有給休暇とは何か

年次有給休暇(以下、有給休暇)とは、所定の休日以外で、賃金の支払いを受けて仕事を休める日のことです。入社から6か月間継続勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤すれば、労働者には10日の有給休暇が付与されます。以降も要件を満たせば最大で20日の有給休暇が発生します。有給休暇は原則として利用目的を問わず、休養のためでもレジャーのためでも取得することができます。

有給休暇の取得は労働者の心身の疲労を回復させ、仕事と生活の調和を図るためにも必要です。一般に労働者が休暇を取得するメリットには「モチベーションアップ」「作業効率アップ」「創造力アップ」「メンタルヘルス不調の予防」などがあります。企業は有給休暇の取得が進むように仕事の属人化を防止し、業務の体制を整備しておく必要があります。労働基準法でも、企業は有給休暇を取得した労働者に対して、不利益な取扱いをしてはいけないと定められています。有給休暇は労働基準法で認められた権利であり、企業はその行使を妨げる行為はできないのです。

働き方改革により有給休暇5日の取得が義務化

働き方改革の一環として、2019年4月からすべての企業において、年10日以上の有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、有給休暇の日数のうち年5日について取得させることが義務付けられました。政府は2015年12月に決定した「第4次男女共同参画基本計画」(※1)の「雇用等における男女共同参画の推進と仕事と生活の調和」の項目において、「2020年までに有給休暇の取得率を70%にする」という目標を掲げており、有給休暇の年5日取得の義務化はそれを実現する手段となります。

有給休暇の取得に関する現状

現在の取得率は52.4%。政府目標は2020年70%。

厚生労働省の2019年調査(※2)によれば、有給休暇の取得率は全体で52.4%(付与日数18.0日、労働者1人平均取得日数9.4日)。企業規模別では、1000人以上は58.6%ですが、1000人未満では50%を下回っています。男女別でみると男性49.1%、女性58.0%でした。全体の取得率は5年前の48.8%から徐々に上昇していますが、政府目標である2020年70%の達成は大変厳しい状況と言わざるを得ません。

企業規模別にみた労働者1人平均有給休暇の取得状況(2019年調査計)
  • (厚生労働省「平成31年就労条件総合調査」より作成 ※2)

有給休暇の取得にためらいがある人が半数以上

厚生労働省「働き方・休み方改革の取組及び仕事と生活の調和の実現に関する調査研究」(※3)で、労働者に「有給休暇の取得へのためらいがあるか」と聞いたところ「ためらいを感じる」「やや感じる」を合わせると52.6%であり半数を超えています。

労働者の「有給休暇取得へのためらい」
  • (厚生労働省「働き方・休み方改革の取組及び仕事と生活の調和の実現に関する調査研究」より作成 ※3)

また、同調査の「ためらいを感じる理由(複数回答)」では、上位は「みんなに迷惑がかかると感じるから」62.6%、「後で多忙になるから」42.2%、「職場の雰囲気で取得しづらいから」28.4%、「上司がいい顔をしないから」22.5%と続いています。企業において休める雰囲気や配慮がなく、休める体制も万全でないために、社員が休暇取得をためらっているといった構図が見えます。これらを解消するには職場の風土改善、不在でも業務が回る仕組みづくりが必要です。

有給休暇の取得率アップに向けた施策例

「休む文化」をつくるためのさまざまな工夫

有給休暇の取得推進に向けて企業ではさまざまな工夫が行われており、特徴的な施策には次のようなものがあります。その軸となっているのは「休める体制づくり」「休みやすい雰囲気づくり」「休むことそのものへの評価」です。休みにくくしている要因を明らかにし、それらの障害を同時に乗り越えるために、単一ではなく複数の施策が実践されています。

休暇の取得促進に向けた特徴的な施策
施策 内容
休み方をアドバイスする役職を設置 社員に休み方をアドバイスする役職を設置。社員と面談を行い、休みを自分の人生について考えるきっかけにしてもらう。
労使による時短委員会を設置 労働組合との間で、労働時間の短縮に関する「労使時短検討委員会」を設置。年数回協議し、全社の有給休暇の取得目標や進捗状況を把握。
休み方に関する満足度や課題を聞くアンケートを実施 社員に休暇取得の満足度や、取得の課題をヒアリングするアンケート実施。「希望の時期に取得したい」などの課題を把握して対応を考える。
有給休暇の活用事例を社内報で周知 休暇中の体験を自身の業務に活かすなど、社員が休暇をどのように活用しているかの事例を紹介。
上司が率先して休むよう呼びかけ、取得状況を社内に公開 人事部門が各部の部長や課長に対し、率先垂範して有給休暇を取得するよう呼びかけを行う。役員や管理職の取得状況は社内に公開。
部下の取得状況を上司の評価に反映 部下および自身の有給休暇取得率100%を達成できなかった部門長は、期末に行われる人事考課で査定を受け、賞与が減額になる。 |
個人単位の有給休暇取得スケジュールを作成し、共有する 全員が状況を確認できる個人単位の有給休暇取得スケジュールを作成。有給休暇の取得日数と有効期限も一覧で確認できる。
全社での一斉休暇日を設定 所定休日以外に、全社で一斉に有給休暇を取得する日を設定。年末年始やGWの連休と連続で設定し、長期休暇をとりやすくしている。
一定期間の会議をなくし、連続休暇を取りやすくする 8月の会議を原則ゼロにし、会議日程を気にせず連続休暇が取れるように配慮。
地域ブロックごとに店舗要員の休暇取得状況を見える化し、ブロック全体でカバーする。 ブロック全体の休暇取得実績・今後の取得計画を管理し、取得状況を見える化。他店舗への応援体制を組むことで、効率的な業務運営を行っている。
会社と一切連絡を取らない長期休暇の取得を義務付け 社員の心身の健康確保、業務の属人化の防止のため、企業と一切連絡を取らない連続9日の休暇取得を社員全員に義務付け。引き継ぎシートに担当業務の内容を記入するなど、業務が滞らない工夫を徹底。

考えるべきは「休まない文化」をいかになくすか

有給休暇の取得が進まなかった日本企業には、これまで職場に「休まない文化」が存在していたと言えます。これを変えるには、誰もが同等に休むこと、そして個人が休みを前向きに捉えることが欠かせません。そもそも休むことは労働者の権利であり、企業は社員が気兼ねなく休めるように仕向けなければなりません。企業は休暇の取得が評価に影響しないと確約したうえで、上司は休暇のためのマネジメントを行い、休める体制を整備するようにしましょう。人の代替えができるよう必要な業務を皆で覚えるなどの配慮も必要。社員に休む暇がないのはマネジメント力の不足と考えるべきです。欧州の企業では連続休暇が基本であり、年度の始めに互いの休みが重ならないように調整しています。休暇取得スケジュールを全員で共有することも一つの方法です。職場の全員が休みに対して同様の価値観を持てることを意識して対策を考えましょう。
有給休暇の取得義務化は新たに生まれたルールであるだけに、取得を推進する企業では社員のさまざまな状況に配慮した施策が必要となります。企業には施策を通じて、休暇取得に対する一貫した考え方を示すことが求められます。そうした姿勢を継続することが社員からの信頼を生み、「休む文化」の醸成につながるのです。

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