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自分らしさで人を導く「オーセンティック・リーダーシップ」

公開日:2018.08.09

企業の課題

変化の激しい時代には、企業のリーダーが持つ価値観や倫理観の重要度が増します。そこで注目されているのが、倫理観を重視し、自分の価値観や考え方に根ざして人を導くオーセンティック・リーダーシップです。変革の時代に自分の価値観によって人を導くという考え方は、すべてのリーダーにおいて求められる要素といえます。オーセンティック・リーダーシップの概要、開発の手法について解説します。

オーセンティック・リーダーシップとは何か

自分の価値観や考えに根ざすリーダーシップ

「オーセンティック(authentic)」とは「本物の、誠実な、真正な」という意味です。オーセンティック・リーダーシップは、倫理観を重視し、自分とはどういう人間か、自分が大事にする価値観は何かなど、自分の考えに根ざしたリーダーシップを指します。提唱者の一人と言われるのは米国メドトロニック社元CEOのビル・ジョージ氏です。2003年に著書『ミッション・リーダーシップ』でエンロン社の不正会計を例に、CEOには倫理観や道徳観が必要であると述べています。近年、日本企業においても不正や不祥事の例が多く見られており、倫理観を重視するオーセンティック・リーダーシップはリーダーにおいて持つべき要素と言えるでしょう。

個人の特性に始まり、関係性へと進化したリーダーシップ論

リーダーシップ論についてはこれまでさまざまな議論が行われてきました。1960年代以前は、リーダーになるための特性や行動があると考えられていましたが、いかなる状況下でも有効とは言えませんでした。その後、80年代以降はビジョンや危機感を共有して社員の能力を引き出す「変革型リーダーシップ」が注目され、「オーセンティック・リーダーシップ」はそこから派生した1つの形と言えます。外部評価に影響されず、自分の倫理観を持って社会や組織、顧客に対して謙虚な姿勢で向き合えるリーダーシップです。

リーダーシップ論の変遷
年代 リーダーシップ論 内容
~1940年代 特性理論 優秀な統率者には共通する特性(生まれ持った資質)がある。
1940年代
~1960年代
行動理論 意識して適切なリーダー行動を取ることでリーダーになれる。
1960年代
~1980年代
条件適合理論 いかなる状況下でも有効な普遍的なリーダー行動は存在せず、組織や集団の置かれた状況によって取るべきリーダー行動は異なる。
1980年代
~現在
変革型リーダーシップ理論 ビジョンや危機感を共有して、社員の能力を引き出し、組織学習を促進することで変革を永続的に起こす。
1980年代
~現在
サーバント・リーダーシップ リーダーは部下に奉仕し、支援することで導く。
2000年代
~現在
オーセンティック・リーダーシップ リーダーは高い倫理観や道徳観を持ち、自分が大事にする価値観や考え方によって部下を導く
  • (トーマツ イノベーション編著『人材育成ハンドブック―いま知っておくべき100のテーマ』ダイヤモンド社を参考に作成)

オーセンティック・リーダーシップの特性

自分を冷静に見つめながら、周囲を情熱的に導くリーダーシップ

ビル・ジョージ氏は、オーセンティック・リーダーシップの特性として以下の5つをあげています。その特徴は、冷静に自分を見つめて、自分の価値観や倫理観を重視し、透明性の高いマネジメントを行うスタイルです。リーダーは自分の強みや弱みをしっかりと見つめたうえで、自分らしさに基づいてリーダーシップを発揮し、結果、部下や周囲はそのフォロワーとなり、自ら動いてしまうような状況が生み出されます。オーセンティック・リーダーシップは「リーダーシップの王道」とも言われますが、まさに周囲が自然と動き出す点において理想のリーダーシップと言えるでしょう。

オーセンティック・リーダーシップの特性
特性 内容
自らの目的を明快に理解している 自分を尊重し信じており、自らが果たすべき目的を十分に理解している。
自分が重視する価値観や倫理観に対し、忠実に行動する 外部に影響されず、自らが正しいと思える価値観、倫理観に基づいて、勇敢に行動することができる。
情熱的に人をリードする 周囲には本音で語りかけ、ときには自分の弱みを隠さずに、全力で人をリードする。
人とのリレーションシップを構築する 活気があり、互いが支援し合える人のネットワークをつくる。
自分に対する規律を守る 自らを律し、常に学び続ける姿勢を持つ。

女性リーダーの育成に有効

女性リーダー育成で知られるスイスのビジネススクールIMDのギンカ・トーゲル教授は、オーセンティック・リーダーシップが女性リーダーにとって有効なスタイルと述べています。環境が激変する現代において、企業は常に変革を求められています。そのような時代に求められるリーダーとは、自分だけでなくメンバーにも同様に、変革への意欲を持たせられるリーダーです。そのような環境下で有効と言われるのがオーセンティック・リーダーシップです。以下の「変革型リーダーシップに必要な資質」は、男性よりも女性のほうが得意という調査結果も出ており、人との関係性を尊重する特性がより活かされるリーダースタイルと言えます。

変革型リーダーシップに必要な資質
資質 内容
信頼 自分らしさが魅力となって尊敬され、周囲からはロールモデルと見られている。
モチベーション ビジョンを示して組織に活力を与え、周囲を巻き込む。
刺激 前提を疑い、皆の意見を聞きながら必要な変革を行う。
コーチング 個々がよりよく働けることを重視しつつ、成長を支援する。

政府は社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標を立てており、女性リーダーの育成は急務です。今後はオーセンティック・リーダーシップの考え方なども取り入れた、新しい形での女性リーダー育成が進むことが期待されます。

オーセンティック・リーダーシップを開発する手法

自分を理解することから始めるリーダーシップ開発

いかにオーセンティック・リーダーシップを身に付けるのか。そのステップは、自分の考えへの理解を深め、それを受けた行動を確認し、その考えを軸とした周囲との関係性をつくることにあります。具体的な手法としては、自分や周囲の中でもっともオーセンティック・リーダーにふさわしかったと思う行動をあげ、そのような行動を取った背景を分析します。

また、オーセンティック・リーダーの育成では研修などを通じ、企業が企業として存続していくうえで求められる価値観や倫理観を持つことが重要になります。個々が重視する価値観や倫理観について考えるワークを実施して各々の考え方について話し合ったり、社内で実際に起きた倫理が問われる事例を題材に倫理について考えるワークを実施することも有効です。

オーセンティック・リーダーシップを開発する4ステップ
ステップ 内容
1.自分を理解する 自分の強み・弱みについて考え、自分の態度がどのように周囲に理解されているかを把握する。また、自分がどのような行動を取ったときに、納得できるのか、または納得できないのかを確認し、自分はどのような行動をすべきと考えているのかについて観察する。
2.自分の倫理観を理解する 自分が社会や企業、周囲に対しフェアであるために一貫して持つべき倫理観について考察する。
3.自分の行動を確認する 自分の目標、重視する価値観や倫理観に合っているかを常に問いながら行動する。
4.周囲と透明性のある関係を保つ 周囲とのコミュニケーションや行動がフェアであり、秘密を持たずに、よい関係性を保つ。

オーセンティック・リーダーシップを発揮するには、そのスタイルが生まれてきた背景を意識しておかなければなりません。目先の利益に捉われることが、企業が持っておくべき価値観や倫理観を否定し、結果として将来顧客から得られた多くの利益をなくしてしまいます。そうならないために、企業が持っておくべき価値観や倫理観は何かを常に考え、それに対し正直な行動ができているかをチェックすることが求められます。ただし、企業の目標や環境が変われば、それに合わせて持つべき価値観も変わっていきます。リーダーシップも1つの定型スタイルに押し込まずに、柔軟に考えることが大切です。

瞑想を取り入れ、自分の考えや思いを探る

オーセンティック・リーダーシップでは、個人としてあるべき姿に対する気持ちの強さや安定が求められます。そのような強い気持ちを育てるうえで有効なのが、瞬時に集中し認識力を高める心のあり方である「マインドフルネス」です。その訓練法として、瞑想が多く行われています。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ、リチャード・ブランソンといった多くの経営者が瞑想を取り入れています。数分程度の瞑想を行い、自分の考えを整理してみましょう。

2000年代に入り、なぜリーダーの倫理観を問う「オーセンティック・リーダーシップ」という概念が生まれたのか。それは、企業には方向を間違う可能性が存在し、社員もまた、気付かぬうちに道を間違える可能性が存在するという事実があるからです。社員は誰しも仕事において健全に活躍したいという願望を持っており、それを実現してくれるリーダーを待っています。「自社らしいオーセンティック・リーダー」とはどんな人材なのか。そのことを考えながら、ふさわしい人材を育成することが企業にとって必要なのではないでしょうか。

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