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【ナレッジコラム】
人事担当者に知ってほしい女性特有の健康課題
公開日:2024.11.06
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あすか製薬株式会社
フェムテック事業推進室
三谷 ちひろ 氏
HRエキスパートのナレッジをお伝えする『ナレッジコラム』。あすか製薬株式会社 フェムテック事業推進室 三谷ちひろ氏による単発コラム。「人事担当者に知ってほしい女性特有の健康課題」をお伝えします。
人事担当者に知ってほしい女性特有の健康課題
「女性特有の健康課題」が取り上げられている背景
最近、女性の健康に関する話題をよく見かけるようになったと思いませんか。
まずは「女性特有の健康課題」が取り上げられている背景について説明します。
日本では少子高齢化・労働力人口の減少が進む中、持続的な成長のため多様な人材の育成を推進することが企業に求められています。
女性の社会進出や活躍を支援し、女性も男性も仕事・育児・介護を行いやすくするため、各企業における制度の充実や多様な働き方の実現が必要です。
女性が社会において活躍できる土台をつくるためには、職場での性差に対する男女の相互理解が必須であり、思いやりや相互フォローが重要です。
特に女性には生理や妊娠・出産・更年期など、男性は経験しないライフイベントや特有の事象・病気があります。これらは女性の人生に大きな影響を与えるのはもちろん、仕事におけるパフォーマンスやコミュニケーションにも少なからず影響を及ぼします。
さらに近年、男性にも更年期障害があることが分かってきました。
経済産業省は2024年2月の発表で、女性特有の健康課題による労働損失等の経済損失は社会全体で約3.4兆円になるとの報告をしています。

※引用 | 経済産業省レポート「女性特有の健康課題による経済損失の試算と 健康経営の必要性について」
なぜ、これほどまでの損失が生まれるのでしょうか。
個人差はありますが、女性は性周期のホルモン変動があるので、人によっては心身にさまざまな不調が生じることで仕事の効率が下がったり、休まなければならなかったりすることがあります。さらに、その状態の改善が容易ではない場合、仕事を続けることが難しくなる人もいます。
女性特有の不調はあって当たり前と考えられがちですが、実は日常生活の大きな妨げになっているのです。
相互理解の第一歩として、男女の体の仕組みや機能はそれぞれ異なり、女性特有の健康上の悩みがあるということを男女ともに理解することが大切です。お互いを理解することは、女性あるいは男性特有の病気の予防や早期発見につながるだけでなく、パフォーマンス低下やコミュニケーション不足を防ぎ、生産性の向上や組織の活性化をもたらします。結果的に、健康経営や持続可能な企業形成につながるきっかけとなるのではないでしょうか。
本コラムでは、女性特有の健康課題の解説とその対応のヒントを紹介します。
人事担当の皆さま、そして当事者の皆さまの一助となれば幸いです。
女性のライフステージとホルモン
年齢とともに変化する病気のリスク
女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)は、イキイキとした毎日をサポートする重要な役割をもっています。その一方で、ごくわずかな量で作用するため、ちょっとしたバランスの乱れがさまざまな不調へ影響を及ぼすこともあります。
また、2種類の女性ホルモンは年齢によって分泌量が変化します。特にエストロゲンの変化が、心身の不調へ与える影響は大きいといわれています。
思春期になり月経が始まると、月経不順や月経困難症といった月経に関するトラブルが起こる場合があります。性成熟期になると、子宮内膜症や子宮筋腫といった女性特有の疾患があらわれることがあります。卵巣の働きが急激に低下し、エストロゲンの分泌が減少する更年期では「更年期障害」とよばれる不調で悩みを抱える女性も少なくありません。さらに、更年期を過ぎて老年期を迎えると、エストロゲンで守られていた肝臓、血管、骨、皮ふなどの器官でのトラブルや病気のリスクが高まり、それまでは男性に多かった生活習慣病にかかりやすくなります。

※引用 | 女性のための健康ラボMint⁺「知っておきたい女性のカラダと健康のこと 年齢とともに変化!女性ホルモン」
月経(生理)に伴うさまざまなトラブル
月経の仕組み
女性の体は女性ホルモンの作用によって約28日に1回の周期で、妊娠に備えて卵子が育ち、受精卵のベッドとなる子宮内膜を着床しやすい状態に整えます。妊娠しなかった場合、この子宮内膜が剥がれ落ち、それにともなって出血が起こります。この現象のことを月経と言います。
月経周期には女性ホルモンの分泌により、卵胞期、排卵期、黄体期、月経期の4つの時期があります。特に黄体期、月経期には卵巣から出る女性ホルモンの影響により、痛みや気分の変化などさまざまな症状があらわれます。

※あすか製薬株式会社 疾患啓発資材より作図
月経困難症
月経困難症とは月経に伴う痛みや不快な症状が、日常生活に支障を来すほど強く出てしまう状態のことです。
月経困難症では、下腹部痛、腰痛、お腹の張り、吐き気、頭痛、疲労・脱力感、食欲低下、イライラ、下痢といった症状が強くあらわれます。月経時(または直前)から始まり、月経終了とともに治まります。
月経困難症は、原因となる病気がないのに症状があらわれる「機能性月経困難症」と、子宮の病気が原因で起こる「器質性月経困難症」の2タイプに分けられます。
PMS(月経前症候群)
PMSとは、月経の数日前(3~10日間)から月経が始まるまで続く、体やこころの不調です。月経が始まると、症状が軽くなったり治まったりします。
こころの症状が重く 、日常生活に支障を来す場合、月経前不快気分障害(PMDD)と診断されることがあります。PMS、PMDDの原因は、排卵を境に女性ホルモンのバランスが急激に変化するためと考えられています。
PMSの主な症状
体の不調:下腹部の張り、下腹部痛、頭痛、乳房痛、ニキビ、肌荒れ、食欲増加、食欲減退 など
心の不調:イライラ、のぼせ、怒りっぽくなる、落ち着かない、情緒不安定(突然悲しくなる、感情の起伏が激しくなるなど)、抑うつ気分 など
人事担当者の皆さまへ ~月経に関するサポートについて~
Q. 生理休暇を運用する際のポイントは?
- 生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、生理日に就業させてはなりません。(労働基準法第68条)
「生理日の就業が著しく困難な女性」に明確な定義はなく、月経痛、頭痛、腹痛、倦怠感などで出勤・就業が難しいすべての女性が対象です。
症状や感じ方には個人差があり請求者の主観的なものになりますが、企業側が「この程度なら就業できるだろう」といった判断をすることはできません。従業員から申し出があった場合、診断書の提出などを求めることなく、速やかに対応する必要があります。 - 休暇の請求は、必ずしも暦日単位で行う必要のあるものではなく、半日または時間単位での請求も可能です。
Q. 生理休暇制度を企業で利用しやすくするための方法は?
- 生理を知るための研修を実施
生理による痛みや不快な症状により仕事への影響を感じる従業員がいることを知り、職場での理解を深めましょう。 - 生理休暇の適用範囲の拡大
本来、生理日に就業が難しい場合に取得できる生理休暇を、生理のときだけでなく生理に伴う諸症状(月経前症候群:PMSや月経前不快気分障害:PMDD)の際にも利用できるよう休暇制度の適用範囲を広げ、利用者の利便性向上を図りましょう。 - 生理休暇の名称を変更する
制度名を変更することで利用に向けた精神的なハードルが下がるため「エフ(Female)休暇」、「健康休暇」、「ウェルネス休暇」としている会社もあります。また、名称を社内公募で決める企業もあり、愛着を持った名前で制度利用の向上を図ることもお勧めです。 - 時効によって消滅する年次有給休暇を生理休暇へ利用できる制度
時効によって消滅する年次有給休暇を一定の日数を上限として積み立て、生理休暇の際に利用できるような制度を取り入れれば、生理日の休暇が有給休暇となり、無給の休暇である場合よりも取得しやすくなります。
※出典 | 人事担当者に知ってほしい女性特有の健康課題(発行:あすか製薬株式会社)
更年期からの体の変化
更年期障害について
更年期は、閉経を挟んだ約10年間(45~55歳頃)のことで、すべての女性に訪れます。
更年期を迎えた女性の約8割がさまざまな心身の変化や不調を自覚しているといわれていますが、あらわれる症状やその程度は人によりさまざまです。その中でも、日常生活に支障を来すようなつらい症状を「更年期障害」と呼びます。
なお、子宮筋腫がある方は閉経が遅い傾向にあるなど、閉経の時期には個人差がありますので、上記の年齢はあくまで目安としてとらえてください。
症状とその原因
主な症状は、エストロゲンの減少による自律神経の乱れが引き起こす、のぼせやほてり、冷え、発汗などです。この時期に起こる仕事や家庭環境の変化などのストレスが重なって、憂鬱感、イライラ、不眠などの精神的な症状が見られることもあります。本人の性格などによる影響が大きく作用することもあるため、更年期障害のあらわれ方は一人ひとり異なります。
また、その他にもさまざまな症状がみられるがゆえに、つらさの原因が更年期障害であると分からず、色々な診療科の受診を繰り返すといったケースもみられます。

※あすか製薬株式会社 疾患啓発資材より作図
更年期障害のつらさは「あたりまえで耐えるべきもの」ではなく、適切な治療により和らげることができます。ひとりで抱え込まず、気になることがあれば一度、婦人科医に相談してみましょう。更年期障害の症状に隠れた別の病気を見つけることもできるかもしれません。
甲状腺疾患について ~更年期障害の類似疾患~
更年期障害とよく似た症状の疾患として、甲状腺疾患があります。
甲状腺とは、喉仏の下にある蝶のような形をした臓器で、甲状腺ホルモンを分泌しています。
通常、甲状腺ホルモンは多すぎたり少なすぎたりしないようバランスが保たれていますが、甲状腺の働きに異常があるとさまざまな症状(疲れやすい、汗をかきやすい、暑い、体重が減る、イライラ感、集中力低下、息切れ、動悸、筋力の低下、手指が震える、寒い、むくみ、体重が増える、眠気、記憶力低下など)が起こります。
また、甲状腺の病気は月経周期の異常や不妊・流産の原因になることもあります。
人事担当者の皆さまへ ~更年期症状に関するサポートについて~
更年期症状は非常に個人差が大きいため、正しい知識を身につけることや現状を把握することが大切です。例えば以下のような準備をしておくことが考えられます。
- 管理職を対象とした社内研修やeラーニングなどを活用し、更年期症状についての基本的な知識を身につける機会を設けること
- 人によっては業務に支障が出るほどの体調不良が起こり得ることを理解しておくこと
- 職場の実態把握のため社内アンケートを実施すること など
Q. 更年期の体調不良への支援として職場にできることとは?
- 休暇制度の新設・整備
更年期症状のための新たな休暇制度を新設することはハードルが高くても、例えば、生理休暇を「ホルモンバランスの乱れによる体調不良時に取得できる休暇」という解釈に広げてみることであればできるかもしれません。 - 社内外の専門家へ相談できる窓口の設置
通院するほどではないけれどもなんとなく体調がすぐれないような場合、気軽に相談できる窓口があると安心です。 - 時短勤務や在宅勤務、フレックスタイム制などの柔軟な勤務形態の導入
柔軟な勤務形態が実現すれば、定期的な通院が必要な場合でも治療と仕事の両立が可能になり、貴重な人材の退職を防げます。
Q. 職場で必要な配慮とは?
- 気軽に相談できる雰囲気づくり
例えば、上司は定期的に1on1面談の機会を設けて部下とのコミュニケーションを密に取る工夫をしたり、保健師など専門家の相談窓口を設置している場合には、不安に思うことがあれば気軽に窓口へ相談してほしい旨を職場全体に分かりやすく周知するなど、いつでも気軽に相談できる環境を整えましょう。 - 更年期症状に対する周囲の正しい理解と支援
集中力の低下や無気力感などの更年期症状は単なるなまけと受け取られ、陰口などを助長し、やがてはハラスメントに発展することも考えられます。
更年期世代には知識・経験が豊富な人材が多く、会社にとっては貴重な戦力です。更年期症状への正しい理解を深め、制度の充実を図り、この世代を職場全体で支えて寄り添っていくという姿勢や配慮を示すことが重要です。
※出典 | 人事担当者に知ってほしい女性特有の健康課題(発行:あすか製薬株式会社)
【引用・参考元文献】
経済産業省レポート「女性特有の健康課題による経済損失の試算と 健康経営の必要性について」
女性のための健康ラボMint⁺「知っておきたい女性のカラダと健康のこと 年齢とともに変化!女性ホルモン」
あすか製薬株式会社「人事担当者に知ってほしい女性特有の健康課題」
Profile

あすか製薬株式会社
フェムテック事業推進室
三谷 ちひろ
2015年、新卒としてあすか製薬株式会社に入社。
営業部門にてMR(医薬情報担当者)として8年間従事し大学病院等基幹病院を担当。医師・医療スタッフを対象に産婦人科領域に関する製品や疾患を中心とした説明会、講演会を多数実施してきた。
2023年より、女性活躍推進に関する新規事業開発を行う部署で、医療用医薬品とは異なるベクトルから女性の健康課題解決に向けたサービスの企画開発に従事。
事業の一環として一般企業に向けた疾患啓発セミナーも実施している。
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