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【ナレッジコラム】企業価値向上にむけて女性の健康推進に取り組む重要性

公開日:2024.10.18

更新日:2024.10.22

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【ナレッジコラム】企業価値向上にむけて女性の健康推進に取り組む重要性

Flora株式会社
代表取締役CEO
アンナ・クレシェンコ 氏

HRエキスパートのナレッジをお伝えする『ナレッジコラム』。Flora株式会社 代表取締役CEOアンナ・クレシェンコ 氏による単発コラム。「企業価値向上にむけて女性の健康推進に取り組む重要性」をお伝えします。

企業価値向上にむけて女性の健康推進に取り組む重要性

注目を集める女性の健康課題

女性特有の健康課題による経済損失額は3.4兆円*1――2024年2月、経済産業省から驚くべきレポートが発表されました。ジェンダーギャップ指数が先進国最低レベルである日本では、女性活躍の必要性が叫ばれ、政府主導で取り組みが進められています。そのなかで、女性の働き方に大きく影響する要因として、月経・更年期といった健康課題への対処が近年注目を集めています。
また、このような流れを受け、健康経営優良法人の認定制度にも女性の健康推進が認定要件として盛り込まれたことから、生理休暇・ピル費用補助など女性の健康課題に合わせた制度の整備や、社内でリテラシー向上のための研修に取り組み始めた企業が増加しています。

女性の健康課題に優先して取組むべき理由

今、企業が女性の健康課題に優先して取り組むべき理由は主に3つあります。

一つ目は、女性活躍です。政府が女性管理職比率30%の目標を掲げていることもあり、女性の昇進は多くの企業にとって重要課題になっています。後ほど紹介しますが、企業の女性の健康支援に関する環境整備がエンゲージメントや昇進意欲にも影響するため、今から取り組みを始めることが必要です。
二つ目は、業務やキャリアへの支障の大きさです。2022年の大塚製薬による調査*2では、PMSや更年期といった女性特有の健康課題によって、昇進を辞退する人や辞退を検討した人が多いという調査結果が出ています。女性の健康課題が昇進や定着に影響していることは明らかで、企業としてサポートできることを検討することが重要です。
三つ目は、ヘルスリテラシーの低さです。特に女性特有の健康課題については、非当事者が当事者の課題を理解しておらず、適切な支援ができていないことはもちろん、当事者も自身の症状を理解し、必要な時に医療機関を受診することができていないケースも多くあります。学校での教育も含めて積極的な啓蒙が行われてこなかった課題であるため、全体的にリテラシーが低い傾向があり、企業においても啓蒙を進める必要があります。

女性の健康推進こそが企業価値向上を実現する

一方で、企業における女性の健康推進の意義や効果を正しく理解し、経営レベルの課題として施策に取り組んでいる先はまだ多くありません。人事の方に施策の推進状況について話を伺うと、「他社を真似して制度を整えたが全く活用されない」「研修は実施したものの、次の打ち手をどう検討すればいいか分からない」といった声も多く耳にします。
また、経営課題の解消という意識がないまま推進すると、効果の見えない短期的な施策が乱立することになり、上層部からは「単にコストのかかる施策女性だけ優先している」と捉えられてしまい、上手く取組みが進められないという企業も多いと思います。
女性の健康課題に関する施策を、福利厚生や認定取得に向けた一過性の取り組みではなく、経営課題に紐づく長期的な投資施策として捉え推進することで、企業価値向上を実現するという意識が重要です。

女性の健康に投資することによって、当事者の支障改善による生産性の向上はもちろん、当事者が働きやすい環境づくり・ラインケアを職場全体で進めることで、従業員のエンゲージメントの向上につながります。更に投資を続けることで、長期的には優秀な人財の採用・定着・活躍にも効果が生まれ、属性に関わらずパフォーマンスを最大限に発揮できるDiversityに富んだ組織が実現できます。このような組織からは、多様な視点を活かしたアイデアが活発に生まれてイノベーションが起こりやすくなり、結果的に企業価値が向上します。

女性の健康投資は本当に生産性を上げる

上記のようなロジックは、机上の空論のように思われがちですが、フェムテックを軸に多くの企業に対し支援を行ってきた当社では、実際に一部の投資効果を実現してきました。例えば生産性の改善です。
事例として、経済産業省の令和5年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」における当社の取り組み*3を紹介します。
日本とベトナムの工場で、ミシンの針にIoTデバイスを付け、月経中の針数と通常時の針数を比較する実証実験を行いました。結果としては、月経時は通常時よりも8.2%ほど針数が低下しており、女性の健康課題が生産性に影響していることが客観的なデータでも証明されました。さらに、工員の方々に対し、リテラシー向上のための研修や吸水ショーツ等セルフケアアイテムの配布・活用を促したところ、施策後には針数の落ち込みは0.04%まで改善することができました。
この結果から試算すると、100名規模の工場では年間約4,200万円の生産性損失改善につながったことになり、企業として女性の健康支援に取り組む重要性が分かります。

エンゲージメント・昇進意欲にも影響?

また、当社が行った企業内でのサーベイにおいて、女性の健康支援施策は、女性管理職比率に関連する指標にも影響があることが分かっています。ある企業のサーベイでは、下の図のように、今の職場が女性の健康課題を抱えながらでも働き「やすい」と回答したグループは、働き「づらい」と回答したグループよりも、エンゲージメントスコアが高いという結果が出ました。

また、今の職場で女性の健康課題を持ちながら働き続ける自信が「ある」と回答したグループは「ない」と回答したグループよりも、昇進したい割合が高いという結果も出ています。

これらの結果から、女性の健康に関する組織満足度を上げることにより、エンゲージメントや昇進意欲の向上も期待できることが分かります。多くの企業で女性管理職比率の上昇が求められている今、女性社員のエンゲージメントや昇進意欲の向上につながる施策を実施されている企業も多いと思いますが、女性特有の健康課題に対する支援もその一つとして検討されてみてはいかがでしょうか。

自社の課題をデータで可視化することが第一歩

女性の健康支援施策は以下のステップで進めることで、経営課題解決・企業価値向上につながると考えています。

企業価値向上につながる施策推進のために最も重要なのは、自社のデータ・課題を可視化したうえで、施策を検討することです。一見すると当たり前のことのように思えますが、女性の健康推進において、データドリブンな施策検討が行えている企業は現状ほとんどありません。業界・業種や、働く場所(自社オフィス、工場など)、女性の年代、女性比率といった様々な要因によって、女性が抱えている課題は異なります。社内で調査を行い、データに基づき課題を可視化することによって、自社として対処すべき課題が特定できます。
データという共通言語を用いることで、経営レベルの課題・人事レベルの課題・現場レベルの課題に関連性を持たせ、社内の意識統一を図ることも可能になります。そのためにも、社内の会議や研修といった場を活用し、可視化したデータを発信して社内に認知してもらうことが重要です。
具体的に施策を推進するにあたっては、データを基に優先順位をつけて対処することが重要です。手当たり次第に制度やツールを用意するのでは経営課題の解決にはつながらないため、当事者の数が多い課題や労働損失額が大きい課題を見極め、優先的に対処する必要があります。
課題への対処としては、自社の既存のリソース・制度を活用する方法や、不足しているものは外部のツールを活用する方法が考えられます。
さらに、実施した一連の施策について定期的に効果検証を行うことで、取り組みの意義を定量的に可視化することができます。労働生産性や当事者のエンゲージメント、職場環境への評価(制度の活用しやすさ・周囲への相談しやすさ等)を施策の前後で比較することで、施策の改善点や次に取り組むべき課題が明らかになります。

このように、データを活用し効果検証まで徹底的に取り組むことで、「なんとなく」「やりっぱなし」ではなく、企業価値向上につながる本質的な成果を出せる女性の健康推進の取り組みが実現できます。

【引用・参考元文献】
*1 引用 | 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」
*2 参考 | 大塚製薬株式会社「働く女性の健康意識調査」
*3 参考 | Flora株式会社プレスリリース経済産業省 令和5年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」への採択およびコンソーシアム協定締結のお知らせ)

Profile

Flora アンナ・クレシェンコ 氏

Flora株式会社
代表取締役CEO
アンナ・クレシェンコ

ウクライナ国立オデッサ大学の国際関係学部を卒業。2017年に文部科学省の奨学金を受賞し来日。2022年に京都大学法学部卒業。2020年にS&R Foundationに選抜されKingfisher Leadership Programでシリコンバレーに渡航。同年に京都のフェニクシーインキュベーションに選抜。身近な人の妊娠うつ発症により、女性の体とメンタルケアを目的にFloraを日本で創業。2022年に関西経済連合会や関西経済同友会が主催する関西財界セミナーの輝く女性賞を受賞。同年に京都府総合計画策定検討委員会の委員に就任。2024年に「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に選出。

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