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障害者雇用とは?制度内容や企業が障害者を雇用する際に必要なことを解説

公開日:2025.06.12

法律

障害者雇用とは、障害がある人でも一人ひとりの能力を有効に発揮できるようにするための制度です。障害者雇用は事業主の務めとして法律で定められており、障害者を雇用する場合には、一般雇用とは異なるルールがあります。

本記事では企業向けに、障害者雇用と一般雇用の違いや、企業が障害者を雇用する際に必要なことを解説します。

障害者雇用とは

障害者雇用とは、雇用において障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇を確保し、障害者が一人ひとりの能力を有効に発揮できるようにするための制度です。障害者雇用は、事業主の義務として法律で定められています。

(以下引用)

障害者の雇用の促進等に関する法律 第五条 

全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。

※引用元:障害者の雇用の促進等に関する法律

障害者雇用枠と一般雇用枠の違い

障害者雇用枠とは、企業が障害者を雇用するために設ける求人枠のことです。企業は合理的配慮を提供することを前提に募集を行い、応募者側は障害があることを開示します。

合理的配慮とは一例として、視覚障害がある人に対して点字・音声を用いた採用試験を実施することなどが想定されます。また採用後も、例えば肢体不自由がある人のために机の高さの調節などで作業をしやすくするなど、一人ひとりの事情に適した環境を提供することが義務付けられています。企業から合理的配慮が提供される観点から、障害がありながらはたらく人にとって、はたらきやすい環境が形成されやすいため、定着率が高くなる傾向があるといえます。

その一方、一般雇用とは、障害者向けではない一般の求人枠を指します。一般枠の場合、応募者は障害の有無を開示しません。またこの場合、企業は合理的配慮を提供することは義務付けられていません。

障害者雇用の条件

ここからは、障害者雇用の条件について解説します。

障害者を雇用する義務が障害者雇用率制度で定められている

従業員を40人以上雇用している企業は障害者雇用率制度によって、一定の割合以上の障害者を雇用することを義務付けられています。

厚生労働省は、障害者の自立・社会参加のために雇用・就業は重要な柱であると位置づけており、障害者が能力を最大限に発揮し、適性に応じてはたらくことができる社会を目指すとしています。障害者について一般労働者と同じ水準で常用労働者となり得る機会を確保するために、障害者雇用枠が設けられました。また、常用労働者の数に対する割合(=障害者雇用率)を設定し、事業主に障害者雇用率達成義務などを課すことで、障害者雇用の機会を保障するものとして「障害者雇用率制度」を制定しています。

法定雇用率について

従業員数が一定数以上の規模である事業主は、社員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。(障害者雇用促進法43条第1項)

ここで言う「法定雇用率」とは、民間企業の場合は2.5%です。例えば、社員を40人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用する必要があります。

なお、雇用義務を履行しない事業主に対しては、ハローワークから「障害者雇用率達成指導」が行われます。

法定雇用率を達成しない場合には障害者雇用納付金が発生する

障害者雇用納付金制度とは、事業主間の障害者雇用に関する社会連帯責任を果たすための制度です。障害者の雇用が少ない企業は納付金を支払い、障害者の雇用が多い企業は調整金を受け取ることができます。この制度を通じて、企業全体の障害者雇用を促進し、障害者がはたらきやすい社会を目指しています。

納付金とは、法定雇用率を達成していない事業主から徴収される金銭のことで、常時雇用労働者数が100人を超える事業主が対象となり、不足1人あたり月額5万円です。

一方、調整金とは、法定雇用率を超えて障害者を雇用している事業主に対して支給される金銭のことで、法定雇用率を達成している事業主が対象となり、超過1人あたり月額2万9千円です。

2025年度法改正のポイント

2025年4月1日に施行された、障害者雇用促進法の改正内容は以下の通りです。

除外率制度の引き下げ

障害者雇用が困難とされる特定業種に適用されていた「除外率」が、各業種において一律10ポイント引き下げられ、企業の実質的な障害者雇用義務が強化されました。これは、より多くの障害者がはたらく機会を得られることを目的としています。

業種 除外率
非鉄金属第一次製錬・精製業 5%
貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) 5%
建設業 10%
鉄鋼業 10%
道路貨物運送業 10%
郵便業(信書便事業を含む) 10%
港湾運送業 15%
警備業 15%
鉄道業 20%
医療業 20%
高等教育機関 20%
介護老人保健施設 20%
介護医療院 20%
林業(狩猟業を除く) 25%
金属鉱業 30%
児童福祉事業 30%
特別支援学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) 35%
石炭・亜炭鉱業 40%
道路旅客運送業 45%
小学校 45%
幼稚園 50%
幼保連携型認定こども園 50%
船員等による船舶運航等の事業 70%

参考:障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について

障害者雇用を行う企業が受けられる助成や支援

障害者を雇用する企業は、さまざまな助成金や支援を受けることができます。制度を活用することで、障害者雇用を促進し、障害者がはたらきやすい環境づくりを進めることができるでしょう。ここでは、主な制度を紹介します。

助成や支援の名称 概要
特定求職者雇用開発助成金 障害者など、就職が困難な人を雇用した場合に支給される
障害者作業施設設置等助成金 障害者のために作業施設を設置・整備する費用の一部が助成される
重度障害者等多数雇用安定化奨励金 重度の障害者や精神障害者を多数雇用し、雇用を安定させている場合に支給される
障害者雇用安定助成金 障害者の雇用を安定させるための措置(職場環境の改善など)を行った場合に支給される

助成金以外にもハローワークや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターといった機関が障害者雇用に関する相談や支援を行っており、ジョブコーチと呼ばれる専門家が職場での適応を支援します。

なお、助成金にはそれぞれ支給要件があるため、事前にハローワークや高齢・障害・求職者雇用支援機構に相談することが推奨されます。助成金を活用することで、障害者雇用にかかる経済的な負担を軽減し、より積極的に障害者雇用に取り組むことができるでしょう。

障害者を雇用する上で企業が取り組むべきこと

ここからは、障害者雇用に際して企業が取り組むべきことについて解説します。

障害者雇用の事例の理解

「障害者の雇用経験がなく、障害者を雇用するためのノウハウがない」と考えている企業に向けて、「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構」がWEBサイト「障害者雇用事例リファレンスサービス」で事例を紹介しています。「自社の業種では、具体的にどのようなはたらき方が考えられるだろうか」とイメージを掴むために、さまざまな事例を知ることができます。

※参考:障害者雇用事例リファレンスサービス

管轄のハローワークとの連携

ハローワークでは障害者雇用を支援する目的で、就労を希望する人、受け入れを希望する企業の双方に対する支援を提供しています。以下のような取り組みがその一例です。

面談会 職場体験実習を希望する障害者と障害者雇用を推進する企業との出会いの機会を設けることが目的
職場体験実習 雇用前の職場実習の推進
職場実習を経て雇用することで、障害者本人と事業主との相互理解を深め、よりよい雇用環境整備を後押しするもの

障害者雇用に対して理解を深め、取り組みを実際に進めるために、まずは管轄のハローワークへ相談してみてください。地域内での連携を深め、就労を希望する人と接点を持つことが大切です。

障害に対する理解と合理的配慮

企業は障害者の採用において均等な機会を提供し、不当な差別的取扱いを行わないことに留意する必要があります。

募集・採用・賃金・配置・昇進など雇用に関するあらゆる局面で、障害者であることを理由とする差別が禁止されています。例えば、単に「障害者だから」という理由で、求人への応募を認めないことや、業務遂行上必要でない条件を付けて、障害者を排除することは禁止されています。

また、障害者から申し出があった場合には、必要な配慮について話し合いを行うことも重要です。

採用後の定着支援

採用後、労働能力などを適正に評価することなく、単に「障害者だから」という理由で異なる取り扱いをすることは禁止されています。また、障害特性に応じた職場環境の整備も必要です。例えば、知的障害者向けの分かりやすい業務マニュアルの作成などが挙げられます。

定期的な面談(月1回など)や、就職後2〜3ヶ月は集中的な支援を行い、その後は個別のニーズに応じたフォローアップに取り組みましょう。はたらく人をサポートできる社内のキーパーソンの見極めと連携も大切です。

職場環境の整備

障害者がはたらきやすい職場環境の整備も必要です。職場環境の整備にかかるコストは助成金などの支援制度を活用することで、企業の経済的負担を軽減できるでしょう。以下で紹介するのはその一例ですが、あくまで参考としてお読みいただき、一人ひとりに応じた配慮をすることが重要です。

聴覚障害者を雇用する場合の例

聴覚障害者を雇用する場合の職場環境整備の一例として、階段の踊り場など死角となる場所の周辺に「衝突防止用ミラー」を取り付けることが考えられます。曲がり角の向こうから人が近づいてきた場合に、音が聞こえずとも視覚によって察知できるでしょう。

加えて、オフィス火災などの非常時に、聴覚に障害のある社員にもわかるような配慮も必要です。感知器に連動してテレビ画面に文字でアラートを表示できる「非常音声放送」や、非常用の「発光フラッシュ」を設置することも推奨されます。

障害者雇用について適切に理解しよう

本記事では、障害者雇用について企業向けに解説しました。

障害者雇用は、多様な価値観や考え方を職場にもたらし、誰もがはたらきやすい環境づくりや組織の成長につながります。

多様性を大切にする社会の実現に向けて、まずは自社と同業界の取り組み事例を知るなどして適切な理解を深め、積極的に推進していきましょう。

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