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労使協定方式とは?均等均衡方式との違いについてご紹介

公開日:2023.11.27

法律

「同一労働同一賃金」は、同一企業・団体における、いわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消を目指して導入されました。この考えは派遣スタッフの待遇や賃金を決定する「労使協定方式」と「均等均衡方式」の基本となるものです。派遣先企業は、人材派遣会社が「労使協定方式」または「均等均衡方式」に基づいて派遣スタッフの待遇を確保するための情報提供を求められます。

本記事では、労使協定方式とは何か、均等均衡方式との違い、派遣先企業が派遣スタッフを受け入れる際に求められる対応などについて詳しく解説していきます。

労使協定方式の前提となる同一労働同一賃金について

同一労働同一賃金とは、正規労働者(無期雇用フルタイム労働者)、非正規労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣スタッフ)といった雇用形態にかかわらず、同じ仕事をしている場合は同じ賃金を支払うべきという考え方です。「パートタイム労働者だから給料を低く設定する」「無期雇用フルタイム労働者だから手当を割増する」といった不合理な待遇差の解消を目指します。

労使協定方式とは

労使協定方式とは、厚生労働省が毎年夏頃に発表する「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」(職種別で定める、派遣スタッフが従事する業務と同種の業務に従事する正社員の平均的な賃金水準)以上の賃金等にすることを定める労使協定を、人材派遣会社と派遣スタッフの過半数代表者が結び、同一労働同一賃金を図る方式です。

<労使協定方式の概要>

労使協定方式の概要

均等均衡方式との違い

同一労働同一賃金を実現するために定められたのが、派遣スタッフの賃金の決定方法に関する規定です。労働者派遣法による同一労働同一賃金の適用には、「(派遣元)労使協定方式」と「(派遣先)均等均衡方式」の2種類があります。

均等均衡方式とは、比較対象となる派遣先企業の正社員の給与水準と均等を図り、その結果を給与に反映させて同一労働同一賃金に対応する方式です。派遣先企業の正社員と派遣スタッフの間に不合理な格差が生じないように賃金を決めます。

「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇格差を禁止する」という同一労働同一賃金の本来の目的を考えると、均等均衡方式のほうが妥当に思われるかもしれません。しかし、均等均衡方式の場合は、同じ業務内容であっても派遣先企業が変わると賃金も変わってしまい、派遣スタッフの賃金が下がる可能性が生じます。一方で、労使協定方式は派遣先企業が変わっても業務が同じであれば、賃金を一定にできるメリットがあります。

<均等均衡方式の概要>

均等均衡方式の概要

労使協定方式の特徴

労使協定方式は、均等均衡方式と比較して以下の特徴があります。

  • 適当な賃金単価を適用することが可能
  • 情報提供する項目が均等均衡方式に比べて少ない

適当な賃金水準を適用することが可能

均等均衡方式の場合、派遣先企業が正社員に高水準の賃金を支払っていれば、派遣スタッフの賃金もそれに準じます。一方、労使協定方式を採用すると、人材派遣会社の労使が合意すれば、派遣先企業の賃金水準に合わせることなく、地域・職種別の平均賃金額を目安とした賃金単価が適用されます。

労使協定方式で派遣スタッフの報酬と比べるのは派遣先企業の正社員の賃金単価ではなく、国が定めた一般労働者の賃金単価です。派遣スタッフにとっては賃金が一定水準以上に安定するため、モチベーションが維持されて生産性が上がることを期待できます。

情報提供する項目が均等均衡方式に比べて少ない

均等均衡方式の場合、派遣先企業の正社員と賃金を含む待遇面での均等・均衡が必要です。そのため、派遣先企業は賃金や交通費などの手当、賞与などさまざまな情報を書面で提供することが法律で定められています。厚生労働省が作成した「比較対象労働者の待遇に関する情報提供」に設けられた項目の事項を網羅して派遣元に情報を提供する等、派遣先均等均衡方式を採用する場合よりもより多くの情報の提供が必要となるため、実務面での処理に手間がかかることが見込まれます。

一方、労使協定方式において派遣先企業が情報提供する内容は、業務の遂行に必要な能力を身に付けるための教育訓練、給食施設、休憩室、更衣室などの福利厚生施設に限られます。均等均衡方式と比べて情報提供項目を簡略化できるでしょう。

労使協定方式による一般賃金の算出方法について

労使協定方式において人材派遣会社は、派遣スタッフの賃金を派遣先企業の地域内にある「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」と同等以上に設定する必要があります。
また、派遣スタッフの賃金は「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」を基準値とし、以下の計算方法で算出されます。

「職種別の基準値×能力・経験調整指数×地域指数」

派遣先企業がすべきこと

派遣スタッフを雇用しているのはあくまで人材派遣会社のため、派遣スタッフの待遇などについて検討するのは人材派遣会社のみと思われがちです。しかし、同一労働同一賃金が施行されたことにより派遣先企業も一定の義務を負っています。

また、派遣先企業の採用した方式が労使協定方式か、均等均衡方式かによって、担当者が取るべき各種対応は異なります。同一労働同一賃金で派遣先企業が対応するべきことを詳しく解説していきます。

派遣料金に関する配慮

労使協定方式の場合、派遣先企業は派遣スタッフの同一労働同一賃金が確保できるよう、派遣料金について配慮することが義務付けられています(労働者派遣法第26条第11項)。つまり、派遣スタッフの必要な待遇を確保するために人材派遣会社から要請があるにもかかわらず、派遣先企業が誠実に対応しなかった場合、配慮義務を尽くしていないものとして行政指導の対象となるケースがあります。派遣先企業は自社ではたらく派遣スタッフが十分な待遇を確保できているか、配慮が求められます。

また、契約時・更新時だけでなく、一般賃金が改訂された場合も派遣料金についての交渉があった場合には誠実な対応が必要となります。

福利厚生施設の利用機会の付与

派遣スタッフが実際に就業するのは派遣先企業であるため、福利厚生施設の利用などの待遇改善については派遣先企業の協力が必要です。福利厚生は2種類があり、提供義務があるものと配慮義務があるものに分かれます。

  • 提供義務が必要な福利厚生施設

派遣先企業は、自社の正社員が利用する「給食施設」「休憩室」「更衣室」の提供義務があり、派遣スタッフに対しても利用の機会を与える必要があります。

  • 配慮義務が必要な福利厚生施設

配慮義務が必要な福利厚生施設とは、提供義務のある「給食施設」「休憩室」「更衣室」以外の、派遣先企業の正社員が通常利用している福利厚生施設です。具体的には、診療所や保育所、図書館、娯楽室、浴場、運動場などです。これらの施設についても、派遣スタッフが利用の機会を持てるよう配慮しなければなりません。

教育訓練の実施

派遣先企業は自社の正社員と同じように、派遣スタッフにも業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施する義務を負っています(労働者派遣法第40条第2項)。

派遣先企業は、派遣スタッフに対して業務の遂行に必要な能力を付与する場合、人材派遣会社から要請があったときは派遣スタッフに教育訓練を実施するなど、必要な措置を講じなければなりません。ただし、人材派遣会社が実施可能な教育訓練の場合は除外されます。

情報の提供

均等均衡方式を採用している場合、人材派遣会社は派遣先企業から情報提供を受けて派遣スタッフの待遇を決定します。そのため、派遣先企業は人材派遣会社に待遇に関する詳細な情報提供をしなければなりません。つまり、労使協定方式か均等均衡方式かで、待遇に関する人材派遣会社への情報提供の内容は異なります。提供義務のある情報はそれぞれ以下の内容です。

労使協定方式 派遣先企業で雇用される派遣スタッフに対して実施する教育訓練、派遣スタッフが利用できる福利厚生施設に関する情報。
均等均衡方式 派遣先で雇用される派遣スタッフの待遇に関する情報。具体的には、職務内容、配置変更の範囲、各待遇の内容などについて。

労使協定方式と均等均衡方式との違いを理解する

派遣スタッフの同一労働同一賃金の実現のためには、派遣スタッフを雇用する人材派遣会社のみならず、派遣先企業もさまざまな対応が必要です。

派遣法により、同一労働同一賃金の実現を図る方法には、派遣元労使協定方式と派遣先均等均衡方式の2種類があります。労使協定方式とは、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」以上の賃金に定める方法です。均等均衡方式は、派遣先企業の給与水準に準じることで同一労働同一賃金に対応する方法です。

派遣先企業は派遣スタッフの十分な待遇の確保のために同一労働同一賃金の内容を十分に理解し、人材派遣会社と協力しながら配慮・取り組みを進めることが重要です。派遣スタッフにとってはたらきやすい職場となるように、しっかりと準備していきましょう。

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