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高齢者雇用安定法とは?概要や改正内容についてわかりやすく解説

公開日:2023.11.09

法律

少子高齢化が進む中、人材不足に悩む企業も増加しています。人材確保にむけた高年齢者の雇用対策は、日本企業にとって欠かせない課題となっています。高年齢者雇用安定法は、はたらく意欲のある高齢者が増えたことや、年金の受給開始年齢が引き上げられたことなどの社会的背景も相まって、段階的に改正されてきました。2021年4月1日の改正では、70歳までの就業確保措置を講じることが努力義務となりました。この改正を受け、企業がどのような対応をするのが望ましいか、どのようなことに留意すべきか、などを解説します。

高年齢者雇用安定法とは

少子高齢化に伴い生産年齢人口(15~64歳)の減少が予想されるなかで、労働意欲を持った高齢者が長く活躍できるように、労働機会の確保や労働環境の整備を目的に制定された法律が、高年齢者雇用安定法です。高年齢者雇用安定法は1971年に制定された「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」に始まり、1986年に「高年齢者雇用安定法」に名称が変更されました。
高年齢者雇用安定法の改正は、定期的に行われているので、これまでの改正内容について詳しく見ていきましょう。

2012年の改正について

2013年度から老齢厚生年金の受給開始年齢が、60歳から65歳に引き上げられることに備え、年金受給の開始まではたらけるよう、2012年8月に高年齢者雇用安定法の改正案が成立し、2013年4月1日に施行されました。

この改正では、以下のような内容が改正されました。

  • 60歳未満定年の禁止
  • 65歳までの雇用確保措置
  • 中高年齢者離職の際の措置

各改正内容について詳しく解説します。

60歳未満定年の禁止

2012年の法改正では、定年を60歳以上に設定しなければならないという義務が設けられました。ここでいう「定年」は、就業規則・労働協約・労働契約のいずれかに定められたもののことを言い、自社において一定年齢での退職が慣習化しているケースは、「定年」には該当しません。

定年を設ける場合は就業規則に明記しなければなりません。就業規則の作成義務がない常時雇用の社員が10人未満の企業では、労働協約・労働契約に定年の規定を記載することになります。

65歳までの雇用確保措置

定年を65歳未満に設定している企業は、「65歳までの定年引き上げ」「65歳まで継続雇用制度を導入」「定年制の廃止」の3つのいずれかを実施することが義務化されました。
継続雇用制度には、一度退職して雇用契約を再度結ぶ「再雇用制度」と、定年時に退職せずに継続して雇用する「勤務延長制度」の2つがあります。

2012年の改正により、定年後もはたらくことを希望する社員全員を継続雇用の対象とすることが義務付けられています。高年齢者雇用確保措置の3つをいずれも実施せず、高年齢者雇用安定法に違反している企業は、厚生労働大臣により企業名を公表することが可能となりました。厚生労働省から企業へは指導・助言、勧告とステップがあり、それでも改善されなかった場合に企業名が公表されることとなります。

中高年齢者離職の際の措置

45歳以上65歳未満の中高年齢者(以下、中高年齢離職予定者)を、企業都合や、継続雇用制度における対象基準に該当しないなどの理由で離職させる場合、企業は求職活動支援書の交付、再就職援助措置、多数離職届の提出という3つの措置をとらなければなりません。「求職活動支援書」というのは中高年齢離職予定者が再就職を希望する場合に実施する、再就職援助措置の内容などを記した書類です。

また、求職活動支援書の内容に基づいて、再就職先の紹介や求職活動に関する経済的支援など、再就職援助措置をとるように努める必要があります。なお、中高年齢離職予定者を1ヵ月以内に5人以上離職させる際には、「多数離職届」をハローワークに提出しなければなりません。

2021年の改正について

2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行されました。少子高齢化の急速な進展と、労働人口が減少する環境下で経済社会の活力を維持するために、70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整えることを目的とした改正です。企業には従来義務であった65歳までの雇用確保に加えて、70歳までの就業機会確保について努力義務が課せられました。

この改正では、以下のような内容が改正されました。

  • 高年齢者就業確保措置
  • 創業支援等措置
  • 70歳までの就業確保措置(努力義務)

各改正内容について詳しく解説します。

高年齢者就業確保措置

高年齢者就業確保措置は、「定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主」または「65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入している事業主」が、事業者に対して行わなければならない措置です。

これらに該当する事業主は、「70歳までの定年引上げ」「定年制の廃止」「70歳までの継続雇用制度」のいずれかの措置を講じることが努力義務となりました。これまでの高年齢雇用措置では定年引き上げや継続雇用制度は65歳までが対象でしたが、2021年の改正で70歳までに引き上げられました。

創業支援等措置

今回の改正では、高年齢者に対する創業支援措置もあらたに追加されました。具体的には、「70歳まで継続的に業務委託を締結する制度の導入」と「70歳までに事業主が自ら実施する社会貢献事業もしくは事業主が委託、出資などをする団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入」です。

「70歳まで継続的に業務委託を締結する制度の導入」は、社員として雇用契約を締結しはたらくのではなく、高齢の元社員がフリーランス・自営業者という立場になり、業務委託契約を締結してはたらけるようにする措置です。

また、「70歳までに事業主が自ら実施する社会貢献事業もしくは事業主が委託、出資等をする団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入」は、「社会貢献事業」とは「不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業」とされていますが、社会貢献事業にどの事業が該当するかといった判断は事業主に任されています。

70歳までの就業確保措置(努力義務)

2021年の法改正で、70歳までの就業確保が努力義務となりましたが、2025年には高年齢者雇用安定法による、65歳までの雇用確保義務の経過措置が終了します。終了すると、事業主には、65歳まで継続雇用を希望する社員について「希望者全員雇用」の義務が発生します。現行制度では、2012年の法改正により、継続雇用制度の適用年齢を段階的に引き上げる経過措置が取られています。

<継続雇用制度の経過措置による適用年齢の段階的な引き上げについて>

段階的な引き上げの期間 継続雇用の対象者を限定する基準
2013年4月1日~2016年3月31日 61歳以上の従業員に対して限定可
2016年4月1日~2019年3月31日 62歳以上の従業員に対して限定可
2019年4月1日~2022年3月31日 63歳以上の従業員に対して限定可
2022年4月1日~2025年3月31日 64歳以上の従業員に対して限定可
2025年4月1日~ 経過措置終了=65歳までは、継続雇用を希望する従業員全員を雇用する義務が発生

努力義務とは強制力を伴わず、その名の通り当事者の努力を促すことを指します。努力義務には強制力がないため違反しても罰則はありませんが、守らなくても構わないということではありません。努力義務を怠ると、監督官庁(この場合ハローワーク等)から指導を受けることがあります。

法改正による影響

高年齢者雇用安定法の改正により、企業はどのような対応が求められるのでしょうか。就業規則を整えたり、賃金や人事の体制について見直すなど、事前に準備を進めておくべきことが多数あります。

就業規則の変更が必要となる場合がある

退職や解雇に関する事項は、就業規則への規定が義務付けられているため、変更があった場合には必ず記載内容を改める必要があります。また、就業規則を改定した際には、所定の労働基準監督署へ提出をすることとなっていますので、提出が漏れないよう気をつけましょう。

定年年齢引き上げによって人事制度を見直す可能性がある

定年年齢の引き上げに伴い、高齢者がこれまでより長く勤務する可能性が高まります。その場合、キャリアを積んだ高齢の社員の賃金設定、勤務体制、人事制度などをあらためて検討する場合も考えられます。

高年齢者就業確保措置の留意点

高年齢者就業確保措置を行う際の留意点はどのようなことが挙げられるでしょうか。高齢者の方々のはたらく環境が大きく変わることも考えられるため、はたらく条件に関して事前に協議するなど、留意すべき点があります。

労使で協議するべき事項について

高齢者就業確保措置の中でも「70歳まで継続的に業務委託を締結する制度の導入」と「70歳までに事業主が自ら実施する社会貢献事業もしくは事業主が委託、出資等をする団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入」を行う創業支援等措置のみを導入する際には、過半数労働組合等の同意が必要となります。それ以外の場合であっても、過半数労働組合等の同意を得ることを目指して協議を行うことは、労働環境の整備の観点からは好ましいでしょう。

高年齢者就業確保措置対象者の基準について

基準を定めて対象者を限定する場合には、事業主の指揮監督を受けることなく業務を適切に遂行する能力や資格、経験があることなど、予定される業務に応じて具体的な基準を定める必要があります。この場合の「基準」に関して、企業の都合で定めることはできません。基準に対して対象外とされた社員が、納得できる内容であるかに関してもきちんと検討すべきでしょう。

研修・教育・訓練への取り組み

高齢者がこれまでのキャリアとは別の業務にあたるというケースもあるため、その場合あらたな業務を行うにあたっての研修や訓練が必要になります。教育担当者を配置しサポートするなど、スムーズに業務を開始できるように準備してください。

災害防止への取り組み

厚生労働省の「令和4年の労働災害発生状況」によると、労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者の占める割合が増加傾向です。高齢者が安全にはたらける環境づくりのため、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」を参考に、職場環境の改善や健康や体力の状況把握とそれに応じた対応など、就業上の災害防止対策に積極的に取り組むようにしましょう。

高年齢者雇用安定法に関連する助成金について

年齢にかかわりなくはたらくことができる社会を実現するため、65歳以上への定年引上げや高齢者の雇用管理制度の整備、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対しての助成金があります。これからご紹介する3つのコースで構成されています。

65歳超継続雇用促進コース

65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかを実施した事業主に対して助成するコースです。

65歳超継続雇用促進コースについて詳しく知りたい方は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)をご覧ください。

高年齢者無期雇用転換コース

高年齢者向けの雇用管理制度の整備等にかかわる措置を実施した事業主に対して助成するコースです。

高年齢者無期雇用転換コースについて詳しく知りたい方は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)をご覧ください。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業主に対して助成するコースです。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コースについて詳しく知りたい方は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)をご覧ください。

高年齢雇用継続給付の見直しについて

雇用保険の被保険者だった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の労働者で、60歳以後の各月に支払われる賃金が原則として60歳時点の賃金額の75%未満となった状態で雇用を継続する高年齢者に対して、高年齢雇用継続給付の見直しが行われます。

65歳に達するまでの期間について、60歳以上の各月の賃金を給付する制度である高年齢雇用継続給付の給付率は、平成7年4月の創設時には25%、平成15年の改正で15%、令和7年には10%に縮小される予定です。

<制度変遷>

※引用:厚生労働省|高年齢雇用継続給付の見直し(雇用保険法関係)

高年齢雇用安定法の概要や改正により影響について理解する

生産年齢人口減少の中、労働意欲を持った高齢者が長くはたらけるように定められた法律が高年齢雇用安定法です。事業主は、70歳までの雇用を目指し段階的に法改正が行われています。事業主も、法改正を理解し、すべての世代がはたらきやすい環境を整備するように心がけましょう。

企業の人手不足を解消する手段でもあり、高齢者の暮らしを守るための手段でもあるのが高年齢雇用安定法です。企業の課題である高年齢者の雇用に関して、積極的に取り組んでいくことが大切です。

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