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【人事ライン】
三井化学 小野氏
人や組織は必ず変われる【後編】

公開日:2023.04.12

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【人事ライン】 三井化学 小野氏 人や組織は必ず変われる【後編】

三井化学株式会社 グローバル人材部 部長
小野 真吾 氏

「他の会社の人事ってどうやっているんだろう」「同じような悩みを抱えているのかな」
ちょっと知りたい、知っておきたいさまざまな企業の人事インタビュー『人事ライン』。
三井化学株式会社 グローバル人材部 部長 小野真吾さんのインタビュー【後編】です。
【前編】では小野さんが考えるミッションや、人事として会社組織を変化させるために心がけていることなどをお聞きしました。【後編】ではご自身のことや人事ナレッジについて伺います。

― 現場のさまざまな部門に自らコミュニケーションをとることについて、意識されていることはありますか。

世の中は知らないことだらけです。人事として正しいことをやっているのかも、他社の事情もよく知りません。それを前提としたとき、まずは聞く。それが一番早くて正確だと思っています。社内でHRBP(HRビジネスパートナー)に携わる中で、事業を理解しているつもりであっても、現場は常に変わるものです。そもそもデータが間違っていると正しい情報を導き出せないので、データが現場に近いところにあると考えたらそこに近づいていくことは自然なことです。また、誰と会ってみるかについて、「あまり特定のセグメントの人と会おう」などと考えてはいません。なるべく異なる視点を持っている方に広く会おうと心がけています。それは社内外問いません。

私自身、ネットワーク型かコラボレーション型かと言えば、コラボレーション型だと思っています。実は私にとって、知らない人に会いに行くことは意外とハードルが高いのです。異業種交流会で名刺交換をして関係を広げていくよりも、何かを行う中での信頼関係をもとにして、じわじわと広がっていくほうが性格的に合っていると感じます。

例えば、初めての人事の集まりに参加したときに、「何を話せばいいだろう?」と構えてしまう事があると思うのですが、「ここに行って損することはあるの?」だとか「一度行って嫌だと思ったらやめればいいんだ」と気楽に考えるようにしています。その中で、自分なりの楽しいつながりを見つけ、その経験を積み重ねていくようにしています。楽しくないことは続かないですからね。
また、どちらかと言うと楽観的ではなく、悲観的だからゆえに無鉄砲に飛び出すことはなかなかしません。それでも着実に5年、7年とやっていけば、成し遂げられないことはほとんどないと思っています。いつかは達成可能な目標となると。私はトップダウンで何かやってみるというよりは、ボトムアップ・ミドルアップで仕掛けることが多いのですが、一つひとつのプロセスはそんなに難しいことをやってはいません。すごく当たり前のことを、ちょっとずつ進めているイメージです。

何かを1人でやることが難しいと感じれば、仲間をちょっとずつ増やしていきます。「急に友達を作ろう」ということも簡単ではないですが、月に1人でも2人でもいいので、今まで自分が知らなかった人と接点を持ってみます。それが月に1人とだとしても、1年で12人、10年で120人と広がり、そこから紹介が生まれれば一気に240人、360人と増えていきます。3日坊主でも続けていれば、365日のうち90日くらいにはなるかもしれないので、それなりの変化が生まれますよね。実は私自身も3日坊主なので、

ずっと続けるのは苦手です(笑)。自分の癖を理解し気長にできることからスタートしたほうが、自分の行動変容、自己変容を促す上では大事なのではないかと思っています。

また、10年後などに「こういう姿が理想」ということを言語化しておきます。 まずはイメージを持っておくことが重要だと思います。それはすでに実現している人たちや、成功している人の話を聞くとイメージが持てます。セミナーに出かけることもその一つです。セミナーに出かけて、例えば「それは大企業だからできるのだ」とは思わず、「自分たちの組織がそうなったときにどうするか」と想像するのです。まずは自分ごとに落とすプロセスが必要です。
セミナーや交流会、本もそうですし、自ら仕掛けなくてもインプットを得られる機会があります。別の世界観を情報として仕入れる機会があるので、まずは知ってみるということが大事。常に新しいことを得ようという気持ち、学び続けるだけでも視野が広がると思います。

自社のやっていることと、世の中でやっていることが異なるということを理屈的に、理論的に学ぶ。それを上司や同僚に発信してみるのです。返ってくる答えから「上司はこういう考えなのだな」ということがわかり、議論を経て組織としての学びにするのです。
そしてあまり無理することなく、1個1個ターゲットを決めていくことも重要です。例えば、新しい人に会ってみるといったことも難しい人は「何を怖がっているのだろう」と紙に書き、言語化してみる。言語化してみれば大したことはなく、行動に移しやすくなる。このプロセスで、自分ができることが増えるだろうと思います。それでも、そこで必ず壁は生まれると思います。あとはしつこく続けること。1年、2年、3年とやれば、必ず変化が生まれてくるはずです。

― 最後に「人事にとって大事なこと」は何だと思われますか。

「人のことを考えられる人事」でないと難しいと思います。制度はこのようなものを入れました、変革しました、と言えば目立つのですが、その後ボロボロになっている組織をよく見かけます。誰のための制度で、誰のための変革なのか、と言ったとき、人が置き去りになっているケースが多々あるので、本質的には「利他の精神」でやっていくことが大切です。自己内省を繰り返しながら、そうした気持ちでそれぞれのポジションを全うする人が増えれば、日本企業はまだまだ変容すると思います。

そして、人事には倫理観が求められると思います。ニュートラルでセンシティブな話をたくさん扱うためです。人間は良いところもたくさんあり、ポテンシャルだらけのところもあれば、もろくて汚い部分もあるので、そこを扱う上で倫理観は必要だと思います。

本質的には人間は変わるエネルギーを持っていると思います。私たち人事は、人を変えられないので、誰かの変わりたいという気持ちをどれだけ応援してあげられるか、それに尽きると思います。そうすればきっと変わるはずです。それが難しいと思っている人も、どうにかできるようになると思います。

よく「トップがコミットしたらすべて動く」ということは言われますが、そんなに簡単ではありません。自分でも常にもがきながら思考を深堀りし、シナリオの修正を繰り返しながら他の人もぶつかり一緒に考えて「こうできるのではないか?」という対話が生まれて、それが変容につながるのではないかと思うのです。
人事リーダーシップのベースはそこにあるのではないかと思っており、良い姿を想像した上で必ず壁があるということも折り込みます。感覚的な部分も含めて刺激をもらいながら「こういう世界観を作りたい」ということをイメージすることが大事だと考えています。

【前編】【後編】の2回に渡りお届けした、小野さんのインタビュー。内省し自分を知り、長期的に取り組まれる小野さんと、自ら赴いて社員の話を聞き、社外にも自分自身の知見やフィールドを広げるエネルギッシュな小野さん。静と動の両面を持ち合わせ、日々を積み重ねていらっしゃることを感じました。先を予測し洞察しながら行動していくことは難しいことですが、自らも組織の人たちも「人は変われる」ということを信じ真摯に取り組み続けつづける小野さんに人事パーソンとしても一個人としても大切なことを教えていただきました。

Profile

三井化学 小野 真吾 氏

三井化学株式会社
グローバル人事部 部長
小野 真吾 氏

三井化学株式会社にて、ICT関連事業の海外営業・マーケティングおよびプロダクトマネジャーを経験後、人事に異動。組合対応、制度改定、採用責任者、M&A人事責任者、HRビジネスパートナーを経験後、近年では人材戦略、グローバルタレントマネジメント、後継者計画の仕組み作りに従事。
その他グローバル人事システム展開、リーダーシッププログラム、グローバルポリシーの推進、HR変革等に従事。2021年4月よりグローバル人材部長に就任し、グローバルレベルでHR機能の強化及び指名・役員報酬制度、企業文化変革にも着手中。

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