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【解説】早期退職制度の企業と社員側の3つのメリット

公開日:2023.01.20

更新日:2024.04.26

企業の課題

近年、よく耳にする「早期退職制度」という言葉に「定年前に辞めてもらう制度」「リストラの一種」というようなネガティブなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では早期退職制度の意味や企業側・社員側のメリット、懸念点や実施の流れ、注意点についてご説明します。

早期退職制度とは社員が定年よりも早くかつ自主的に退職するための制度

早期退職制度とは定年前に退職を希望する社員が、自主的に退職できるようにするための制度です。一般的に退職希望者は退職金の割増しや勤務の免除、キャリアサポートなどの優遇措置が受けられます。

社員は退職を強要されることはないので、早期退職制度があったとしても定年までその会社で勤めることは可能です。

早期退職制度の目的とは?

早期退職制度は福利厚生の一環として活用されるケースが多いです。今や定年まで一社で勤める終身雇用・年功序列の時代ではなくなりつつあります。転職・独立・開業・早期リタイヤなど、社員が自身の理想とするさまざまな人生を歩んでもらうことを目的として、早期退職制度を活用している企業が増えてきています。

また、組織の若返りや長期的な人件費の抑制を目的として早期退職制度を活用している企業もあります。

希望退職制度との違い

早期退職制度と似たような制度として「希望退職制度」があります。早期退職制度は社員が自主的に退職できる制度で、希望者を恒常的に募集します。希望退職制度は期間を限定して希望者を募るというのが大きな違いです。

早期退職制度は福利厚生の一環として活用されることが多いですが、希望退職制度は経営状態が悪化した際に人件費の抑制策として実施されるケースが多いです。退職勧奨の有無という点に着目すると、早期退職の場合は、退職勧奨がある場合と無い場合がある、希望退職の場合は、ほとんどの場合退職勧奨がある、という違いが挙げられます。

選択定年制との違い

選択定年制は60歳から65歳の間で、自分が定年退職する年齢を決めることができる制度です。早期退職制度は定年前に退職することが前提ですが、選択定年制は定年まで勤めることが前提となっています。

早期退職制度のメリット

ここからは早期退職制度を活用するメリットについて考えてみます。

企業側のメリット

早期退職制度は福利厚生として活用している企業が多いですが、社員が早期退職することで経営改善にもつながります。また、人件費を抑えることも可能です。

若手社員のキャリア形成促進による組織の若返りを実現できる

社員の年齢に応じて昇給・昇格させる人事制度をとっている企業は多くあります。年長者が早期に退職することで、若手社員に重要ポストを任せ、昇給させられるようになり、組織の若返りを図ることができます。

社員側のメリット

次に社員の立場から早期退職制度のメリットについて考えてみます。

退職金額が増える

社員が早期退職する大きなメリットとして挙げられるのが退職金です。早期退職制度は早く辞めてもらう代わりに退職金を多く支払う制度とも言えます。独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表している「事業再構築と雇用に関する調査」によると、早期退職制度を活用している企業の9割が退職金の割増しを実施しており、平均値で月給に換算して15.7ヶ月分、中央値で12ヶ月分を割増しして退職金を支払っているという結果が出ています。

次のキャリアを踏み出せる

転職して新たな環境で仕事をする、経験や特技を活かして独立・開業するなど、一社にとらわれない、自由なキャリアを形成できます。もちろん、早期退職して家族との時間や趣味を楽しむことも可能です。退職を決めてから勤務の免除をしてくれる企業もあるので、自分の人生を自由に歩めるように考えることもできます。

早期退職制度実施時の懸念点

早期退職制度はよいことばかりではありません。企業が早期退職制度を活用する際、あるいは社員が早期退職する際には、以下のような点に留意することが必要です。

企業側の懸念点

まずは早期退職制度を活用するにあたって企業側の懸念点を見ていきます。

生産性の低下

社員が早期退職することで人材が減少していきます。特にスキルや知識が豊富な社員が早期退職すると、生産性が低下する可能性があります。早期退職前に他の社員に引き継ぎを行ったとしても、同じパフォーマンスが出せるとは限りません。

早期退職制度を活用しても業務が円滑に進むか、生産性が低下しない体制が整っているかを検討する必要があります。

一時的なコスト増加

早期退職者には退職金を支給し、さらに割増分を上乗せする必要があります。そのため、一時的にコストが上昇することがあります。特に早期退職希望者が複数人いるケース、定年退職者とタイミングが重なったケースなどでは、資金繰りが悪化するリスクもあります。

早期退職制度は人件費が削減できるメリットがある一方で、一時的にコストが増加する可能性もあることを念頭に置く必要があります。

経験や実績が豊富な人材の流出

全社員を対象として早期退職制度を実施すれば、経験や実績が豊富な社員も退職しかねません。併せて生産性が大きく低下するおそれがあります。また、退職した社員が競合他社に転職したり、独立・開業した場合のリスクも考えられるでしょう。

職種や年齢、勤続年数、募集人数などの条件を絞ることで、こうしたリスクの軽減につながります。

社員側の懸念点

ここからは社員が早期退職制度を利用する場合の懸念点についてご説明します。

再就職がスムーズに決まるかわからない

退職する際に大切なのは「辞めた後にどうするか」ということです。希望の仕事に就くことは時間を要することもあり、独立・開業するにしても、成功するためには入念な準備が必要です。

年金が下がる可能性がある

年金の支給額は加入期間に応じて決まります。早期退職することで加入期間が短くなると、受け取れる年金も減ってしまいます。また、現在年金の受給開始年齢は65歳が原則となっていますが、60歳から繰り上げ受給することも可能です。しかし、前倒しした分毎月の受給金額は減ってしまうことにも注意が必要です。

年金は老後の重要な収入源です。加入期間や受給年齢も考慮して退職時期を見極めます。

退職金の割増しが少ない可能性がある

早期退職のリターンとして退職金の割増しという優遇措置を設けている企業は多くあります。しかし、その額は法律で決まっていません。早期退職したのはいいものの、思ったよりも割増額が少なくて後悔したというケースも少なくありません。そもそも、退職金の割増しが制度に盛り込まれていない場合もあります。

早期退職制度を利用する前に、退職金がどのくらい割増しされるのかを確認する必要があるでしょう。

早期退職制度を実施する流れ

早期退職制度を活用するだけでは、思ったような成果は得られません。前章で挙げたような懸念点が現実化し、企業側も、社員側も、不幸な結果になってしまうリスクが高まります。そこで、以下のような流れで早期退職制度の活用を検討していきます。

1.制度の目的や対象者、条件を定める

まずは「なぜ早期退職制度を活用するのか」という目的をしっかりと定めます。そして、その目的に沿って対象者や条件(職種、年齢、勤続年数など)あるいは制度の内容を決定します。例えば「組織の若返りを図る」という目的があれば、高年者が対象者となるでしょう。「社員の自由なキャリア形成」を目的とするのであれば、キャリアサポートや再就職先の紹介といった優遇措置を設ける進め方もあります。

目的を定めないと適切な対象者や条件の設定ができなくなってしまいます。また、社員に「リストラするのではないか」「経営状態が悪いのではないか」という誤解を招く可能性があります。

2.社員との協議・取締役会で決議する

制度の大枠が決まったら話し合いやアンケートなどで社員の意見を聞く場を設けます。早期退職制度は社員のその後の人生にも大きく関わります。社員目線で制度について考えてもらうことで、新たな課題や問題点の発見につながります。

早期退職制度は会社法362条4項の「重要な業務執行」に該当する可能性があります。制度を開始する前には取締役会で決議を得ましょう。

3.社員に周知・説明する

早期退職制度を実施する前に社員に周知・説明を行います。社内報やメールで周知する、部署ごとに部門長が通達する、説明会を開催するなど、さまざまな方法を用いて社内に浸透させる必要があります。

早期退職制度はリストラ施策と誤解されるリスクも高いため、目的や制度の内容を正確に伝え、疑問点や不安点には真摯に対応することが大切です。

4.制度の運用を開始する

実際に制度を開始し早期退職希望者が現れたら面談を行い、退職日や退職金の支給、優遇措置(退職金の割増しや職務の免除、キャリアサポートなど)について話し合いをし、双方で認識のズレがないようにします。また、制度を開始することで、新たな課題点が見つかる可能性もあります。PDCAを回して企業側にも社員側にもプラスになるよう制度をブラッシュアップしていくことが大切です。

早期退職優遇制度を活用する際に気をつけたい3つの注意点

早期退職制度を活用する際に特に気をつけたい点はこちらの3つです。

守秘義務を徹底する

早期退職に限らず、社員が退職する際には守秘義務を徹底させましょう。特に早期退職の対象となり得る中高年の社員は会社のさまざまなノウハウや内部情報を把握している可能性があります。こうした秘密情報が競合他社に漏れることで、会社の利益が阻害されるおそれがあります。

また、社員が競合他社に就職したり、会社で得たノウハウを活用して独立・開業したりすることで、自社の不利益につながるケースもあります。守秘義務や競合避止義務については退職時にしっかりと書面で取り決めておくことが大切です。

社員への説明は入念に行う

退職金の支給額や業務の免除、有給の消化日数など、さまざまな点で見解の相違からトラブルになるリスクもあります。早期退職制度を使って退職する社員に対しては面談を行って十分に説明をし、制度に対して理解を深めてもらうことが大切です。

会社の承認を必須条件とする

早期退職制度を設けることで、会社の中核を担う幹部社員、経験や知識が豊富で現場の主力となっている社員が辞めてしまうおそれもあります。「会社の承諾を得ることで早期退職できる」というように、制度のルールとして承認制を盛り込むことで中核を担い主力となる社員の退職を防ぐことができます。

雇用調整施策の一つとして早期退職制度を検討する

早期退職制度の目的や内容があいまいであったり、説明が不十分であったりした場合、思ったように効果が得られない、社員の不信感を招きトラブルに発展してしまうといったリスクもあります。

一方で企業としては長期的な人件費の抑制につながる、組織の若返りを実現できるというメリットが、社員にとっては退職金の額が増える、人生を自由に選択できるといったメリットが考えられます。

社会情勢や人々の価値観の変容から、企業のあり方も変わってきています。雇用調整施策や福利厚生施策の一環として、早期退職制度という選択肢も考慮に入れておきましょう。

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