わたしの生きる道

第86話 よりよい人生を手助けする

葬儀を終えてから折に触れて病室の光景を思い出した。寝たきりの母をかいがいしく世話してくれる看護師やヘルパーさん。老人の介護や病人の看病は、心だけではなく技術の問題なのだと知った。

仏語で「生老病死」と言う。人間は生まれて死ぬまで様々な苦しみに出合う。その苦しみを少しでも和らげることができれば、どんなにいいだろう。助産師だった母もそのために生きた一人だ。

母が亡くなってから、在宅介護や企業向けに看護師を派遣する子会社を設立した。この会社はいま品川区で認知症のお年寄りのグループホームを運営している。4階建てビルの3、4階がお年寄りの住まいで1,2階が都の認可保育所になっている。

併設の保育園を運営しているのは社内ベンチャーから育った会社だ。2000年に募集を始めたら、若い男性社員が「保育の仕事をやりたい」と提案してきた。「命懸けでやれる?」という問いに「はい」と答えた彼は、首都圏に5つの直営保育園を持ち、保育士の派遣、学童クラブや児童館、地域交流施設の運営受託などを手掛ける会社に成長させた。

(日本経済新聞朝刊2013年6月30日掲載の『私の履歴書』より引用)