わたしの生きる道

第82話 こちらが少し損をするくらいがいい

2008年9月15日、米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した。これをきっかけにした世界同時不況の波は株安、円高となって日本経済を襲う。

日本企業は業種を問わず生産、流通、販売に急ブレーキがかかり、人材派遣業界も直撃を免れなかった。新たな派遣依頼がぱたりと途絶え、派遣契約期間が終わったら継続してくれない。

テンプスタッフも09年3月時点で、前年度に比べて派遣依頼が半減した。求人広告を大幅に手控えたため、新規登録スタッフ数も減った。赤字にはならなかったが、非常事態だった。

その年から事業連携の動きが活発化し、当社はピープルスタッフと経営統合してテンプホールディングスを設立、富士ゼロックスキャリアネット、コベルコパーソネルなどの株式を取得した。

私はどんな会社とのお付き合いでも「対等」を基本にして臨むことにしていたから、交渉を担当する役員や社員に「こちらが少し損するくらいでいいの。その方が後々、気持ちよく一緒に仕事ができるから」と言った。

(日本経済新聞朝刊2013年6月29日掲載の『私の履歴書』より引用)