わたしの生きる道

第81話 テンプスタッフは東証1部に上場した

準備が大詰めを迎え、東証の審査担当者による事前面談があった。「ガバナンスはどうなっていますか?」「コンプライアンスの現状を教えてください」「その点について経営者としてどんな指示をしましたか?」

上場の可否は最後の東証役員による社長面談で決まる。佐分さんは「相手は東証の専務以下7,8人です。私たちは同席しますが、発言できるのは社長だけです」と言う。

万全を期すために証券会社の人たちに何度も来てもらって、面談のポイントについて猛勉強し、模擬面接も経験した。「みんなが頑張って準備してくれたのに、私が最後にこけたら面目が立たない」思ったからだ。

東証専務との面談、いわば口頭試問はあっけなかった。東証はすでに私のことを含めて当社の全てを承知だったようで、1時間の面談はずっと和やかだった。

06年3月17日、テンプスタッフは東証1部に上場した。初値は17万1000円。初日の終値は19万7000円。社内で拍手が鳴り響いた。

わずか8坪のアパートに小さな看板を掲げて32年がたっていた。長かったような気もするし、ついきのうのような気もする。

(日本経済新聞朝刊2013年6月28日掲載の『私の履歴書』より引用)