わたしの生きる道

第80話 私は株式を公開することに決めた

だからというわけではなかったが1999年、ある監査法人にいた公認会計士、佐分紀夫さん(現テンプホールディングス常務)に入社してもらった。いずれ決断するとき彼が必要になる。彼には取りあえず会社の財務を点検してほしかった。

佐分さんは何度か「上場した方がいいんじゃないですか?」と言ってきた。しかし会社は我が子同然。そのいく末を考える時間がほしい。92年に準備がほぼ終わっていた店頭公開を中止したが、いまも時期尚早のような気がする。

2004年の初めになって、私は株式を公開することに決めた。どうせ公開するなら、多くの人の目に触れる東京証券取引所にしたい。佐分さんに聞くと当社の株式の時価総額は1000億円を超えるので東証1部に上場することになるという。

05年を上場準備に費やした。書類審査は厳格を極め、質問状が何度も届いた。その都度、佐分さんたちが兜町に足を運んで説明を重ねた。株式を上場するということは不特定多数の投資家に株を買ってもらうことだから、企業の経営状態が健全でなければならない。審査が厳しいのは当然だろう。

(日本経済新聞朝刊2013年6月28日掲載の『私の履歴書』より引用)