わたしの生きる道

第77話 情報管理のために あえて不便さを選んだ

いまは登録そのものが個人情報のため「そのようなスタッフがおりましたら、スタッフから連絡させます」と答えている。もしも電話の主がストーカーや悪意を持った人物だったら、連絡先を教えた「無意識で善意の人(社員)」が「加害者」になってしまう。善意の加害者を生まない責任がある。

テンプスタッフの本社・支店には3000台のパソコンがあるが、社員用は全てデスクトップ型。特別の許可がなければ記憶媒体をつなげないから、一切のデータが外部に持ち出せない。

出先でスタッフや顧客企業の担当者と話をするときも、当社の社員はノートパソコンやタブレット端末を使わない。いったん話を持ち帰りデータを見て返事をする。二度手間だが、情報管理のためにあえて不便さを選んだ。

情報管理の担当役員や社員が「こうしたい」と言ってくると、私はどんなささいなことでも「進めて」と答えてきた。その結果、私も含めて全社員が地味な会社支給のカバンを持つことになった。会社の資料を持って外出するときには、必ずこのカバンに入れ替え、肌身離さず持っていなければならない。すると必要最小限の資料しか持たない習慣が定着してきた。

(日本経済新聞朝刊2013年6月27日掲載の『私の履歴書』より引用)