わたしの生きる道

第64話 初めての新卒採用

男性5人の連判状を受けとった1990年の4月、初めて新卒採用に踏み切った。どんな色にも染まっていない白いキャンバスのような若い人たちが入ってくるのを機に、会社を根本的に変える決意を固めた。
新卒社員が入ってきた(前列右から4人目が筆者)

新卒社員が入社する前日付でかつてない規模の人事異動を発令し、数人の支店長をバックオフィス(管理部門)に配属して、後任に若い男性社員を充てた。

バックオフィスに移ったある支店長から毎晩のように自宅に電話がかかってくる。「社長がそんなに冷たい人とは思いませんでした」「これまでの苦労はなんだったんですか」という悲鳴のような声に心が痛んだ。やがて彼女は辞めていった。

支店でも数値目標を立てて顧客開拓をしようとする支店長と、従来のやり方を捨てきれない社員との間で理屈と感情を交えた応酬が続いていた。私はそれぞれの気持ちもわかったが、ぶつかり合いこそエネルギーの源。手出しせずにじっと会社が新しい形に順応するのを待った。

(日本経済新聞朝刊2013年6月23日掲載の『私の履歴書』より引用)