わたしの生きる道

第62話 攻めと守りのせめぎ合い

とたんに彼らから声があがった。「数字が公表されていない」「数値目標がない」「顧客志向がない」。彼らの理詰めの批判は、あうんの呼吸と強烈な仲間意識で会社を急成長させてきたと自負する女性たちの感情にトゲとなって刺さった。

「営業にインセンティブをつけて業績向上を図ったらどうでしょう」と男性が提案すると、すかさず女性が「お金で釣ってもうまくはいかないわよ」と反論する。だがそれは単純な男性対女性の構図ではない。新と旧の、攻めと守りのせめぎ合いだった。

私は会議が荒れても仲裁しなかったし、よほどのことがない限り発言しなかった。いま会社で何かが動き始めている。どっちに転ぶのかわからないけれど、じっと目を凝らしているときだと思った。

(日本経済新聞朝刊2013年6月22日掲載の『私の履歴書』より引用)