わたしの生きる道

第57話 今の会社には何かが足りない 赤信号が点滅し始めていた

ここまでは良かったのだが、支店が増え社員も100人ほどになったころから、いやな空気を感じ始めた。社員は登録スタッフの中から採用した人を含めて女性ばかりだ。彼女たちは「同僚」を超えた一枚岩のような集団になっている。しかし経営環境は激しく変化してきた。このままでいいのだろうか。

労働者派遣法が施行され私たちの業界が公式に認知されたのは86年のことだった。すると新規参入組も含めて、一挙に競争が激しくなった。当社の売り上げは伸びてはいたが、業界トップ企業との差はじりじりと開き、後ろを見れば他社の追い上げも激しい。

私の中で赤信号が点滅していた。いまの会社には何かが足りない。どこかが違う。でもその正体がわからない。

売り上げが思うように伸びないとはいいながら、支店はどこも殺到する派遣依頼に忙殺され「どんな注文も断らない」という創業当時からのモットーさえ崩れてきた。

支店長たちに「何とかならないかしら」と話しかけても、とまどったように「私たち、一生懸命やっているんですけど」と口をそろえる。

(日本経済新聞朝刊2013年6月20日掲載の『私の履歴書』より引用)