わたしの生きる道

第56話 私が決めるのは支店が入るオフィスだけ

83年になって本社を青山に移転した。青山通りに面したビルの4、5階の2フロアで計100坪。六本木で起業したときが8坪だったから夢のようだった。そして社員は37人になった。

84年、名古屋と札幌に支社開設。85年、銀座と新宿に支店開設。86年、渋谷、東京駅前支店開設。

銀座と新宿の支店長は社内で公募した。応募期間は1週間だったが最終日になっても音沙汰なし。「無理だったかな」と思っていた私のところに、夜になって2人の社員がやってきた。

ひとりは手紙を書いていた。顧客企業とスタッフをマッチングさせる仕事をしていたが、出産を機にバックオフィス(管理部門)に回った。しかし子どもを両親が見てくれることになったので、もう一度以前のような仕事に戻りたいという。私は彼女に銀座支店を任せることにした。もうひとりには新宿支店。

私は支店が入るオフィスだけを決める。支店長以外の人数は最低限。人数が多いと、ぶら下がる社員が出てくるからだ。そして特に教えないし、指示もしない。最初から崖っぷちに立たせれば、おのずと道を切り開いてくれる

(日本経済新聞朝刊2013年6月20日掲載の『私の履歴書』より引用)