わたしの生きる道

第46話 まじめで誠実な 社員第1号

会社を始めて半年後、電話番をしていた大学生の姪(めい)が学業に戻ることになった。スタッフがスキルを持った友人を紹介してくれたり、顧客企業から「あの会社がスタッフを探しているよ」という情報が入ったりして、次第に忙しくなってきた時期だった。

新聞に求人広告を出したら苗村悦子さんが応募してくれた。どこかの会社を辞めた後で、簡単な出納簿はつけられるというのですぐに採用した。社員第1号だった。

外回りの営業と登録スタッフへの職場紹介が私の仕事。スタッフへの賃金支払いを悦子さんに任せた。土日は顧客企業への請求書作りに充てる。それが終わると人目がないのをいいことに、スカートをたくし上げて事務所の掃除に汗を流した。

新聞広告に応じて仕事を手伝ってくれることになった悦子さんだが、来てみたら会社といっても私ひとり。しかも事務処理請負サービスという聞き慣れない仕事だ。いま思えば不安を隠して通ってくれていたのかもしれない。

でも真面目で誠実な彼女は私と差し向かいの机で黙々と仕事をこなし、お昼になると家から持ってきたお弁当を広げた。たった2人の会社だったが、2度目の決算で売り上げは9600万円と前年度の3倍になった。だが少しもうれしくなかった。

(日本経済新聞朝刊2013年6月17日掲載の『私の履歴書』より引用