わたしの生きる道

第43話 家庭にうずもれる 優秀なスタッフ

受話器を置いて外に飛び出した私は、地下鉄の六本木駅に向かう道を駆けた。当時の六本木は行く人もまばらだったから、それらしい後ろ姿はすぐに見つかった。

彼女は村田美和子さんといい、20代ながら英文タイプはもちろん英語にも堪能で速記もできた。彼女を雇った外資系企業はその働きぶりに驚嘆したらしい。

村田さんの周りには同様に能力や技能を持っている女性が何人もいた。村田さんの紹介で彼女たちがスタッフに登録してくれたおかげで、事業は滑り出した。

目覚ましい経済成長を続ける日本。そんな日本の市場を目指して外国企業が猛烈な勢いで東京などにオフィスを構え始めていたのだが、英語がわかり英文タイプが打てる日本人スタッフは限られ、確保に苦労していた。

一方で、相変わらず男性優位の日本企業に勤める女性社員の多くは、同僚が次々に結婚退社すると居づらくなって会社を去った。彼女たちは4年とか5年の会社勤めで身につけた技能を持ったまま、家の中にうずもれている。

(日本経済新聞朝刊2013年6月16日掲載の『私の履歴書』より引用)