わたしの生きる道

第35話 会社勤めを経てシドニーで就職

仕事はドイツ人社長の秘書だった。社長とは英語で話すものの、20人ほどの日本人社員とは日本語だ。やがて、せっかく身についた英語力がさび付くのではないかという不安が芽ばえた。それに外国生活で英語以外に何を学んだのだろう。確かに毎日充実はしていた。しかし大事なものをつかみそこねたまま帰国してしまったような気がしてならなかった。

「何とかもう1度外国に出たい」。じりじりするような思いで、目を皿にして英字紙の求人欄を読んでいたら、豪州の市場調査会社「PRSA」が日本進出に備えて日本人秘書を募集している。一も二もなく応募した。 やがてシドニーのオフィスから日本に出張してきたPRSA社の幹部と面談した。採用通知が届き、日本ワッカーを退社することにして渡豪の準備を始めたのだが、どういうわけか労働ビザがなかなか下りない。10月の声を聞いてやっとのことでシドニーの土を踏むことができた。

(日本経済新聞朝刊2013年6月13日掲載の『私の履歴書』より引用)