わたしの生きる道

第27話 前だけを見ていれば何とかなる

私が就職先を探していることを知った東洋電業の社長が「戻ってこないか」と声をかけてくれた。寿退社しておきながら独身で復職するのは恥ずかしかったが、そんなことは言っていられない。再びお世話になることにした。

アパートを引き払い、横浜の家から新橋の会社に通う日々が戻ってきた。同僚たちは以前と同じように温かく接してくれた。私も前と変わらず仕事をこなしたが、新しい何かが私の中に芽ばえたような気がした。

「前に進む。前だけを見ていれば何とかなる」。そんな確信めいた思いが1本の芯になって背中に通ったと言えばいいのだろうか。

会社がある新橋で英会話教室を見つけた。中学時代の「カムカム英語」以来、ちょっとした中断はあったが、ずっと勉強してきた英語に打ち込んでみよう。これは敗北感から逃げるのではない。前進するためにやることだ。

会社を終えると英会話教室。家に戻ってテープを聴く。ほかには何も考えなかった。

(日本経済新聞朝刊2013年6月9日掲載の『私の履歴書』より引用)