わたしの生きる道

第26話 疑うことより信じることを選ぶ

そのまま家族と暮らすわけにもいかず、大井町のアパートに戻った。夜中に暗い天井を見詰めていると「人生の敗残者」という言葉が浮かんだ。2度も結婚を理由に会社を辞め、その都度回りに祝福されながら、1度も実を結ばなかった。いまは惨めな体をこうして横たえている。

私のどこがいけなかったのだろう。答えはみつからず、身の置き所がない気持ちになってくる。ふと顔に手をやると、皮膚が白い破片になってぽろぽろとはがれた。

でも婚約が破談になったとき、誤解はされたが後ろめたいことは何もなかった。今度も彼を信じた私がいけないのかもしれないけれど、疑うより信じることを私は選ぶ。

不思議と誰かを恨む気持ちは起きなかった。そして過ぎ去ったことを思い悩むのがだんだん意味がないことのように思えてきた。悩んで解決することなら悩もう。でも悩んだところで時間はもとに戻らない。ならば前向きに生きていくしかないじゃないの。

そう思うと、ふわっと体が軽くなった。済んだことは済んだこと。仕事を探そう。

(日本経済新聞朝刊2013年6月9日掲載の『私の履歴書』より引用)