わたしの生きる道

第17話 婚約、そして結婚準備

彼は中肉中背、まあまあハンサム。真面目な人柄がにじみ出ていた。何より私のことを真剣に思ってくれている。この人と一緒になれば平和な家庭が築けるような気がした。彼はお兄さんに私を引き合わせてくれた。

何度か家に遊びに行き夕食などをごちそうになったが、いつも楽しい団欒(だんらん)になった。幼いころ父を亡くした私は、うんと年上のお兄さんが父親のように思えた。お兄さんも私を気に入ってくれたようだった。

両家、両人の間でとんとんと話は進み、婚約を取り交わして、私は結婚準備のために退社することになった。いまでいう寿退社だ。会社からお祝い金をもらい、同僚には何も言わずに辞めた。

私は目前に迫った結婚と家庭と未来の生活のことを考えながら、その日を待った。そんなさなか、彼のお兄さんに突然、呼び出された。

(日本経済新聞朝刊2013年6月6日掲載の『私の履歴書』より引用)