わたしの生きる道

第16話 22歳 4歳年上の男性との出会い

18歳のときに玩具店の跡取り息子との縁談を断ってから、男友達はいても恋人と呼べるような男性は現れなかったし、縁談が持ち込まれることもなかった。仕事は相変わらず課長の秘書役だったが、習い事や工場の行事で忙しく、毎日が目まぐるしく過ぎていった。そんな私は22歳になって、ある男性に見初められた。

会社の取引先の部品工場を経営する人の弟で、私より4歳上。職場の資材部には部品の納入業者が毎日出入りする。彼もそんな1人だったから顔は見知っていた。その日、仕事を終えて事務所を出ると、彼の軽トラックが止まっている。通り過ぎようとする私に、彼が運転席から顔を出して言った。「駅に行くの?」「ええ」「じゃあ、送るよ」それがきっかけになって、お茶を飲んだり食事をしたりするようになった。

自分のことを美人だと思ったことはないけれど、おしゃれに夢中だったので目立ったのかもしれない。それに職場での私は「明るくて元気な娘さん」という評判だった。若い女性が会社に入るのは結婚までの腰かけで、勤めは行儀見習いみたいなもの、というのが当時の常識だった。私にその常識や風潮への疑いはなく、同僚と同じようにぼんやりと結婚を考える年ごろに差しかかっていた。

(日本経済新聞朝刊2013年6月6日掲載の『私の履歴書』より引用)