わたしの生きる道

第13話 2歳年上の親戚づきあいとの縁談

入社していくらも日がたっていない私に縁談が持ち込まれた。相手は戦争中、私の家に疎開していた横浜の玩具店の跡取り息子で、その家とは親戚づきあいをしていた。2歳年上の彼はとても真面目な人だった。知り合ったころ少女だった私は、その人を男性として意識したことはなかったが「そろそろお嫁さんを」と考えた先方は、年ごろになった私を思い浮かべたらしい。

母と己拔(きばつ)兄は乗り気で、先方と話を進めている。私ははっきり断ったわけではなかったけれど、その縁談を受けるとも言わなかったはずだ。
まだ高校を卒業したばかりで結婚というものに対するイメージが湧かない。それに玩具店の奥さんになるというのはどういうことなのだろう。答えが見つからないまま時間が流れていき、結納や式の日取りがそろそろ具体的になろうとしていた。

いよいよとなって私は母に言った。「やっぱり結婚はいや」

(日本経済新聞朝刊2013年6月5日掲載の『私の履歴書』より引用)