わたしの生きる道

第12話 食費くらい家に入れなさい

白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫が「三種の神器」と呼ばれるのはもう少し先のことだが、それでも電化製品を求める人は増えていて、グループ割引で買える三菱電機の製品の人気が高かった。

母が「食費くらい家に入れなさい」というので仕方なくそうしていたけれど、心では「私が稼いだお金なのに、どうして?」と思っていた。

私が就職した翌年の1954年、ハリウッド映画「ローマの休日」が日本で公開された。それを見た私はたちまち主役のオードリー・ヘプバーンのファンになった。かわいい。ステキ。容姿もそうだがファッションがたまらない。
欧米のファッションがどんどん入ってきていた。中でも当時流行のニュールックがお気に入りだった。ウエストがぎゅっと締まって、スカートがふわーっと広がった服が着たくて、雑誌の付録の型紙を元に、家のミシンで縫った。地味な事務服を着ていても、美空ひばりの歌をくちずさみながら、おしゃれに夢中になっていた。

(日本経済新聞朝刊2013年6月4日掲載の『私の履歴書』より引用)