わたしの生きる道

第72話 すみませんと ひたすら頭を下げ続けた

男性のパソコンの中からある人物のアドレスが見つかった。それは前年に我が社のシステムを再構築したとき、開発を外注した会社の若い社員のものだった。自由に出入りできたことをいいことに、登録スタッフのデータを持ち出したらしい。

翌日、その男性の自宅に行って詰め寄ると渋々認めたため、すぐにパソコンを開けさせデータを消去した。問題のHPからリストを買った100人近い人物には購入費用を払うことでデータ消去を求め、全員が応じた。

週刊誌の中づり広告が出た。「容姿ランキング付きリスト流出」とある。確かに個人別にA、B、Cのマークを付けていたが、それは職能や接遇・マナーなどを評価した分類だった。

容姿で派遣の優先度を決めていたら事業は成り立たない。そもそも9万人ものスタッフを誰がどうやって判定するのか。ばかげた話だ。

28日、旧労働省の記者クラブで会見した。大勢の記者を前にするのは初めてだった。私たちは経過や原因に関する矢継ぎ早な質問に答えたのだが、最後は「すみません、すみません、すみません」とひたすら頭を下げ続けるほかはなかった。

(日本経済新聞朝刊2013年6月25日掲載の『私の履歴書』より引用)