わたしの生きる道

第53話 忙しくも楽しくて仕方ない日々

スタッフへの給与は毎月15日締めと月末締めの2回で、振込日も月に2回だった。振込日が近づくとスタッフごとに違う金額を振込用紙に書き込まなければならない。

振り込み処理日は、社員4人がスニーカーで出社した。銀行は午後3時で窓口を閉めるが、事前に通知して待ってもらっている。振込用紙ができあがると、その束を抱えて一斉に走り出す。銀行の裏口に駆け込んで、やっと胸をなで下ろした。携帯がない時代だったから仕事をしてもらいたいスタッフと電話連絡が取れないときは電報を打った。「アシタカラシゴト シキユウデンワコウ」。すると数時間後、電話がかかってくる。いつも綱渡りだった。

こんな日々だったが私は楽しくて仕方がなかった。仕事に追われているという意識はなくて、20代から30代の社員たちの口からも「休みたい」とか「辞めたい」という言葉を聞いたことがない。

デスクに置いた小さな缶にポケットマネーを入れ、午後8時になると誰でもそのお金でビルの1階にある喫茶店に好きな物を注文していいことにしていた。社員は缶から代金を持って下の店まで食べ物や飲み物を取りに行った。

(日本経済新聞朝刊2013年6月19日掲載の『私の履歴書』より引用)