パーソルテンプスタッフのスタッフ労務部に所属する井川は、派遣社員からの申請に対応していました。

井川:「社保給与一室」という部署名のとおり、社会保険関連の申請を受けています。申請の種類は多岐にわたりますね。

事業推進本部 スタッフ労務部
スタッフ社保給与一室
井川 知子

ひとことで申請といっても、「奥が深い」と井川は言います。

井川:産休・育休・介護休といった休業の申請だけでなく、スタッフの労務管理に関する申請は色んな種類があります。たとえば、「ハローワークに出す書類を書いて欲しい」「就労証明書を書いてほしい」「保育園に出す書類を書いて欲しい」などもそうです。

井川:あと、「移住補助金の申請」や「保険会社への証明書」とかも。本当に色んな申請があるんですよ。

テンプスタッフは派遣社員の数も10万人を超えるため、出される申請の数としても膨大なものになります。

井川:たとえば2025年7月は、産休の申請をされたスタッフの方だけでも200人以上いらっしゃいました。

数こそ多いものの、井川はそれらを単なる“数字”として考えていませんでした。

井川:産休の申請だったら、「ご体調が十分じゃないのにホームページを見て問い合わせてくれたんだな」と思いますし、保育園に出す書類だったら「赤ちゃんが泣いているなかで一生懸命申請を出してくれたんだな」とか考えちゃいますね。

なぜそのように考えるかというと、井川のテンプスタッフでの経歴が関係しているようです。

井川:私は1991年の入社で、当時のテンプスタッフの社員は300人ぐらいでした(※2025年3月31日現在、パーソルグループ全体で約78,000人以上います)。新卒でいうと2期目ですね。

同期入社には、なんと2025年現在の社長も肩を並べていたのです。

井川:同期が今の社長の木村くんです。「木村社長」って呼ぶのはなんだか違和感がありますね(笑)かえって照れくさい(笑)

テンプスタッフの木村社長(パーソルテンプスタッフ公式サイト「社長メッセージ」より)

井川は営業を1年半ほど経験すると、営業とコーディネーターの兼務を長らく担当していったのです。

井川:いくつかの大きいクライアントを担当して、自分で営業に行って求人の話をもらい、持って帰ってきたら自分で人選して仕事紹介をしていました。忙しいけど楽しかったですね。当時はシステムも携帯電話もないので、履歴書を見ながらスタッフのご自宅に電話してご家族に勤務地・時間・時給・仕事内容なんかを伝言したりして。

忙しいなかで多くのスタッフに接していましたが、そこで気づいたことがあったのです。

井川:履歴書を見ていると、ビジネス系の資格や検定をきちんと取っている方が多いんです。そういうのを見ながら「皆さん忙しいなか頑張っているんだな……」っていうのを、なんかひしひしと感じていましたね。

スタッフの大変さや努力を肌で感じる一方で、井川は自分自身の「矛盾」が気になっていきました。

井川:自分の中ですごく「矛盾してるな」って思うことが増えていきました。自分は転職したこともないのにスタッフの仕事の相談に乗っていたり、資格も持っていないのに「資格はあったほうがいいですよ」とか口にしたり。

その矛盾を消し去るかのように、井川は動き出します。

井川:友達が転職したりすると、「なんで転職しようと思ったの?」「今の会社を選んだきっかけは?」って詳しく話を聞くようになりました。それから、「私もなにか努力して資格や検定を取ろう」って思ったんです。まずは秘書検定からトライして、並行して趣味に関連する「世界遺産検定」「美術検定」「日本城郭検定」「国宝検定」「戦国真田検定」なんかを勉強しながら取っていって。

そうしてスタッフの気持ちを理解しようとしていった井川ですが、50歳を過ぎた頃に大きな転機が訪れます。

井川:ずっと営業やコーディネーターをやってきましたけど、50代になってから社会保険を扱う今の部署への異動を告げられました。法律とかも知らないし、「50代前半で全く畑違いの部署に異動させるの?」って正直かなり動揺しました。

異動を告げられた時は、断ろうとしていたといいます。

井川:すごく驚いて、マネージャーに「それって断れるんですか?」って抵抗したんです。

井川:ただ、そこで創業者の篠原さんのことを思い出しました。

井川は、テンプスタッフの創業者である篠原とも仕事をしたことがありました。

井川:篠原さんはすごくポジティブな人で、座右の銘が「置かれた環境で一生懸命、必ず光は見えてくる」だったんです。それを私も意識していたので、「まあ、とりあえず置かれた環境で一生懸命やってみるか。チャンスだと思えばいい。合わなかったら異動願いを出せばいいや」と思って異動を受け入れました。

しかし、異動してからは苦労があったようです。

井川:社会保険まわりの法律とか、厚生労働省から出ている公式の文章ってすごく回りくどかったりするんですよね。そういったものを読み解く力が必要なので、大変でした。関連する検定や資格も取ろうと思って、勉強をしましたね。ヨロヨロの頭に気合いをいれて(笑)

そうして知識をつけるだけでなく、スタッフが申請しやすいような流れの検討もしていったといいます。

井川:もともと産休や育休の申請は紙ベースだったんですけど、WEB上から申し込みができるような運用の企画とか、検証とか、そういった部分にも携わっていきました。

実際、申請や問い合わせを受けるにあたっては、現代ならではの苦労もあるようです。

井川:社会保険まわりって法律もよく変わったりするんですけど、古い情報がネット上に残っていてそれをみて申請されたり問い合わせをいただくことも多いんです。ネットの情報が古いとAIが出してくる回答も古かったりしますし……。でも、スタッフの生活にも直接的に関わることだから、正しい処理や正しい回答をしないといけない。一方で、なるべく早く回答しなきゃいけないし……、その辺りがすごく難しいなと思っています。

難しさを感じながらも、やはり常にスタッフの気持ちは忘れないようにしているという井川。

井川:「こういう質問をしてくるっていうことは、本当はこうして欲しいのかな」とか、そういう、『質問の裏にあるスタッフの気持ち』みたいな部分はいつも考えなきゃいけないなって思っていますね。

そして、気がつけば「50代前半で全く畑違いの部署に異動」してから3年が経っていました。

井川:私を異動させたってことは「現場の感覚を持っている人が欲しい」って求められていたからだと思うんです。だから、知識なんて後からつければいい。それよりも、営業やコーディネーター時代の経験をしっかり生かして貢献しよう、と思いながら仕事をしています。

そんな井川に、「仕事で大切にしていること」は何なのか、聞いてみました。

井川:仕事で大切にしているのは、働く人を支えて、その人が楽しい気持ちでいてほしいな、ということですね。まあ、人材ビジネスの基本ですけども(笑)

あとは、50歳を過ぎて畑違いの部署で新しいことを学んだりしてきましたけど、私の周りでも60歳を過ぎて大学に入り直したとか、60歳を過ぎて社労士の資格を取ったとか、元気な人が多いんですよね。

だから、自分自身もまだまだ活躍して、若い世代に貢献するとか応援するようなことをしたい。ちょっと話が大きいですけど、「日本がいい国であり続けるために私にできることは何だろう」って考えるようになっています。