ある朝、派遣営業をしている丸山に派遣スタッフから1本の電話がありました。そのスタッフは、あるコールセンターに入ったばかりで研修中の女性でした。

丸山:「当日で申し訳ないんですが、今日お休みできますでしょうか? どうしても休みたいのですが……」という内容の電話でした。

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ソリューション営業本部 丸山 奈緒子

入ったばかりで研修中の身ながら“当日休”となると、就業先からの印象が悪いだけでなく研修の内容にもついていけなくなる恐れがあります。

丸山:事情を聞くと、お母様が自転車で転んでしまい、顔から落ちてしまったようで「心配だから一緒に病院へ行きたいので、今日はお休みしたいんです。休めますでしょうか?」と泣き声まじりに説明されました。

その連絡を聞き、丸山はこんなことを口にしたのです。

丸山:「それは心配ですよね。どうか気になさらず、今日はお母様に付き添ってあげてください。就業先へはお電話しておきますよ。私からも謝っておきますから安心してください」とお伝えしました。

なぜそのようなことを口にしたかというと、実はその時、丸山も病気のお母様に付き添っている状況だったのです。

丸山:新潟にいる母が心臓を悪くして、私も新潟まで行って付き添っていました。ちょうど母の手術が終わるのを病院の控室で待機していたところだったんです。

お母様の病気に不安を感じながら病室の近くで待っている状況で、丸山は同じ気持ちを共有できることに安堵感さえ覚えていたといいます。

丸山:「実は私も今、母親が手術中で付き添っているんですよ。お揃いですね」って言ったらスタッフの方も驚きながらすすり泣いて、私もつられて泣いて……。「一緒にお母さんたちを応援しましょうね」って言いながら、二人で泣き笑いしていました。

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電話を切った丸山は、すぐに就業先のクライアントに連絡をします。

丸山:もう本当に土下座をする勢いで、「本人からも連絡あると思うんですけど、こういった状況でして……」と説明して。「戻ってきたら研修もしっかり私が責任を持ってフォローしますので、申し訳ありませんがどうかよろしくお願いします」とお伝えしました。

実は、丸山がそこまで熱を持ってスタッフに寄り添う理由は“ちょうど自分も同じ状況だったから”だけではありませんでした。

丸山:私はいろんな仕事を転々とやってきて、占い師の仕事も5年くらいやっていました。だから、毎日のようにいろんな方の悩みを山ほど相談されていたんです。

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そして、5年やってきた占い師を辞める時に出会ったのが「派遣」でした。

丸山:恥ずかしながら、貯金もないなかで急遽辞めることになってしまったんです。それで、「明日からどうしよう……」という状況の時に「派遣ってどうなんだろう?」と思い立ち、登録に行ったらすぐに仕事を紹介していただいて。

そこで、大手企業のグループ会社がやっている派遣会社に登録した丸山。やがてその会社がパーソルグループに入り、現在に至っているといいます。

丸山:だから私は、派遣という働き方に人生を助けられているんです。派遣という働き方がなかったら私は生きてこられなかった。なので、派遣というものに対する“恩返し”だと思いながら日々仕事をしているんです。

だからこそ丸山は、派遣で働くスタッフの気持ちに熱を持って寄り添うようになったのです。

丸山:スタッフの中にも、昔の私のように「明日からどうしよう」という方がいるんじゃないかなって。だから、そういった人たちの生活を守るのも私たちの仕事じゃないかって、強く感じています。

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結局、当日に休んだスタッフは、お母様のケガも回復され、就業先からも問題なく受け入れられたようです。

丸山:本人が研修も頑張って、すぐに巻き返すことができましたね。その後も、会うたびにお互いの『お母さん情報』を共有していました。「今はもう元気で、また自転車乗ってますよ」とか、「うちも無事に退院したよ」とか。

――しかし、5年後に丸山のお母様は亡くなってしまいます。

それからさらに1年が経った、ある日のことでした。

丸山:あるクライアントから「テンプスタッフでこういう派遣スタッフはいませんか?」といった相談をいただきました。それが、「まずはテンプスタッフに頼むけど、いなければ他も当たりますね」という状況で。

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相談されたポジションは「コールセンターのスクリプト制作経験者」であり、簡単に見つかる人材ではありませんでした。

丸山:その時に、あのスタッフのことを思い出したんです。「彼女、コールセンターのスクリプト制作を経験しているはずだ」と。

そう、6年前に電話で一緒に泣き笑いをしたスタッフです。しかし、丸山は電話をする前から半ば諦めていました。

丸山:実は、彼女は『無期雇用』の打診も『給料アップ』の打診も受けているのに「もう別の仕事をしたいから大丈夫です。自分で探します」と断っていたらしくて。だから、連絡をするのも“ダメ元”でした。

彼女の今の仕事からすると時給も下がってしまう話であり、普通に考えたらまず断られるような案件でした。


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丸山:営業からも「彼女は無理だと思いますよ……」と言われていたし、まあ半分は「久しぶりに声が聞きたいな」くらいの感じで電話したんです。

諦めまじりに事情を説明すると、そのスタッフは驚くべき返答をしたのです。

丸山:一瞬だけ悩んだあと、「丸山さんが担当してくださるなら、やります」って。「え?本当にいいの?」って聞いたら、「はい。私は丸山さんのファンなので」って言ってくれて。

丸山は驚き、何度も確認しましたが、揺らぐことなく快諾の返答だったといいます。

丸山:彼女、こう言ってくれたんです。「私はあの時のことを忘れません。あの時、丸山さんがいてくれたおかげで頑張れたんです」って……。私はあの時、共感できる相手がいて嬉しかっただけだったんですけど、そこまで慕ってくれていたなんて、宝物のように感じました。

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通勤にも時間が掛かり、時給も下がってしまったスタッフでしたが、今も継続して頑張ってくださり、少しずつ時給も上がりつつあるようです。

丸山:もう、非の打ち所がないほどに頑張ってくれています。本当にありがたいですね。

そして丸山は、今回の出来事をひとつの「戒め」と捉えていました。

丸山:今回、6年前に起こったことが、6年後に私を助けてくれました。だから「じゃあ今の私は、6年後に誰かに助けてもらえるような仕事ができているのかな」っていうのは常に意識しています。

そんな丸山に、「仕事で大切にしていること」は何なのか、聞いてみました。

丸山:3つあって、ひとつは『許す』こと。「休みたい」と電話してくるスタッフは、どこかで「許されたい」という気持ちを持っていると思うので、厳しく当たらず「許す」ことは大切かなと。

それから『共感』すること。“あのこと”があってから、共感することの重要性を強く感じています。占い師も含めいろんな経験をしてきましたけど、やっぱり相手に共感できるところはどんどん共感してあげることが大事だと思いますね。

それと、『笑い合う』こと。冗談でも愚痴でも何でも、一緒になってスタッフと笑い合える関係になること、そういう関係性を作り上げていくことは大切だなって思います。

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