メキシコの都市、カンクンの旅行代理店で働いていた中村さんは、メキシコで結婚し2人のお子さんを育てていました。しかし、現在は三重県の四日市で派遣スタッフとして働いています。
なぜ中村さんはメキシコで子育てをし、日本で派遣スタッフとして働くようになったのか。お話しを伺いました。

英語を活かせる会社のはずが、まったく使わなくて不満に

中村さんはメキシコでお仕事をしていたということですが、昔から海外に行きたかったんでしょうか。

はい。ずっと海外で英語を使う仕事をしたかったんですよね。

それは、学生時代から？。

ええ、生まれも育ちも三重県なんですけど、飛行機でよく旅行に行くうちにCA（客室乗務員）さんになりたくなって。そのためには英語の習得が必須だろうと思って、高校生の時にニュージーランドに1年留学したんです。

それで、大学はどちらへ。

国際協力の分野を学ぶ名古屋の大学に進みまして、それから「英語を活かせる会社」と聞いて、名古屋にある移動通信会社に入社しました。

その会社では英語をバリバリ使ったわけですか。

使うと聞いていたんですが、実質は使わなくて（笑）それで、3年後には「やっぱり英語が使いたいな」と思うようになって……

転職したわけですか。

そうです。オンライン上で、旅行代理店のメキシコ現地支店と面接をして合格しました。それで、「観光地だから英語を使う」ということでカンクンへ配属になりました。　

片言で会話をしながらも、メキシコ人と結婚

カンクンの旅行代理店ではどんな仕事をされていたんでしょうか。

はじめはガイドからですね。それこそ空港の送迎から、『チチェン・イッツァ』などのピラミッドに行ったり、『セノーテ』という泉に行ってお客様と一緒に泳いだり。

まさに『ツアーガイド』のお仕事ですね。

そうです。ガイドを3年ほどやってから昇進で内勤に移り、その時期に結婚もしまして。

ちなみに、お相手はどんな方ですか？

メキシコで知り合ったメキシコ人で、旅行代理店と取引のある車両会社の人でした。車両会社を経営している家族で、そこの息子さんですね。ほぼ毎朝一緒に仕事をしていたので、すぐに仲良くなりまして。

会話はどうしていたんでしょうか。

はじめはスペイン語が全然できなくて、相手もGoogle翻訳を使って英語で必死になりながら話してくれていました。「片言のスペイン語」と「片言の英語」で会話していましたが、なぜか成り立っていましたね（笑）

そうでしたか。マネージャーになったということですが、部下もたくさんいたんでしょうか。

はじめは日本人のスタッフは4人しかいなかったんですけど、最終的には日本人とメキシコ人、合わせて50人ほどの組織になり、20～30人のマネージメントを経験しました。

4人から30人まで！それは大変でしたね。

育休制度の無いメキシコで2人を出産

そんななか、子どもを2人授かりまして、子育てもしていました。

じゃあ2度、育休を取って。

いえ、メキシコには育休という制度が無いんですよ。

え、そうなんですか！？

ええ、なので出産の時は「せっかくだから」と日本に帰国して、オンラインで仕事を続けていました。だから産休とか育休とかではなくて、普通に働いて給料をもらっていた形ですね。

じゃあ、出産の前後も仕事を？

はい。子どもを産んで3時間後には緊急対応があって携帯で仕事したり、3カ月の赤ちゃんを連れて帰国した後も夜中に電話で起こされて子どもを抱っこしながら対応したりしてました。

えー！？　大変でしたね、それは。

「子どもができたら女性は会社を辞める」というのが当たり前の国だったので、ある程度は覚悟してたんですが……　観光業の盛んな街ということもあり、特にホテル業界では私のようにベビーシッターを雇って最前線で働くママもいましたので、立場上からも仕方なかったかな、と今は思ってます。

でも、オンラインで仕事ができて良かったですよね。

それは本当に運が良かったですね。私の上司である支店長は男性でしたが、2人目を産んだ帰国後は子どもを連れて出社できるようにキッズスペースも作ってくれたりして。とはいえ、その後のコロナ禍は大変でしたが……

コロナ差別、ハリケーン、悪臭、治安の悪化……

コロナ禍、どう大変でした？

出産して子どもが5カ月ぐらいの時にメキシコに戻ったんですが、ちょうどその頃に世界中でコロナ禍になりました。それで、子どもが熱を出したので病院に行ったら、お医者さんから「コロナでしょ！来ないでくれ！」って言われてしまって。

子どもが熱を出しただけで？

ええ。おそらくアジア人だから、いわゆる「コロナ差別」を受けたわけですね。

ああ、ニュースでは見ていましたが、やっぱり本当にあったんですね。

はい。その後も上の子が幼稚園にようやく行ける歳になったのですが途中入園して9日後にはコロナで休園になってしまって……　「オンライン授業をやる」とは言われたんですけど、3歳ですからねえ。

ひとりでは授業を受けられないですよね。

そうなんです。だから退園せざるをえなくて。他にも、スーパーで買い物しようとしたら「家族のうち1人だけ入場」という制限があって、子どもを連れて買い物ができなくて。

それは不便ですね……

さらに2021年の夏にハリケーンが直撃しまして、4日間くらい断水してしまいました。シャワーも浴びることができないので、泉に行って水浴びをしてましたね。

まるでジャングルのような生活……

その時に、家庭ゴミが溜まりすぎたせいでゴミ収集の人たちがリコールを起こしてしまって、ゴミ捨て場のゴミが山積みになったりもしました。家から外に出ると辺りに悪臭が漂っていて……

うわあ、それもつらい……

あとは、近所で強盗が起きたりもしました。

え……　それもコロナ禍のせいで？

そうですね。コロナで仕事を失ってお金が無くなり、悪いことをする人が増えてしまったんだと思います。もともと治安は悪くない地域だったんですけどね。

いやあ、もう大変なことの連続ですね。

日本に帰国しようとするも、悪いことが重なる

住みにくくなってきたし、「このままだと危ないな」ということで、三重の実家に家族で移住しようと決めたんですよ。

それで日本に。

とはいえ戻る時も大変でした。日本の領事館はコロナで閉まっているので、主人はビザが間に合わず後から遅れて日本に来ることになってしまいました。それで、やむなく私と子どもだけ先に帰ったんですけど、公共交通機関の利用制限があったので成田まで家族に迎えに来てもらわなきゃいけなくて……

ああ、ちょうど制限が厳しい大変な時期だったんですね。

そうなんです。それで、父に迎えに来てもらう予定だったんですけど、帰国する数日前に急に父が亡くなりまして。

え！！……

悪いことって重なるもんですよね。お葬式が終わった翌日に、弟たちに成田まで迎えに来てもらって、なんとか帰国できました。

それはそれは。……本当に大変でしたね。

ええ、主人もようやく入国できて、父の四十九日も終えて、落ち着いたタイミングで「仕事を探そう」と思って、仕事を探しはじめたんです。正直、私がしたいと思う仕事は東京や大阪の都市ばかりで……　そうしたら外資系で英語を使う仕事を見つけて、それがたまたまテンプスタッフでした。見つけてすぐテンプスタッフの方から連絡をもらって、職場見学をして3日後には決まりました。

3日後に決まったんですね。どんなお仕事ですか？

外資系の企業で出張手配などをする一般事務の仕事です。でも、「四日市でこんないい会社があったのか」と思うぐらいの良い会社でビックリしました。

派遣のイメージは悪かったけど、今の満足度は93％

どんなところが良い会社だと思いましたか。

普段に仕事をしていて正社員と派遣社員との区別があまりないんです。福利厚生も充実してますし、社員だろうが派遣だろうが一緒の扱いをしてくれて。

そうなんですね。もともと派遣の印象は悪かったんでしょうか。

ええ。正直、「必要のない時に切られるんだろうな」とか、「空いているところを埋めるための派遣なんだろうな」と思ってました。コロナ禍ということもありましたし。

でも実際は違った？

はい。オフィスには派遣社員も多くて、一人ひとりが重要視されているというか、大きな仕事を任されている方もいます。だから、会社として「必要としているよ」っていう気持ちが伝わってくる環境ですね。

じゃあ結果的には派遣で良かった、と。

本当にそうですね。自分1人ではこんな会社は探せなかったですし。すぐに連絡くれて、待つことなくとんとん拍子で決まりましたし。満足度で言えば93%ぐらいはありますよ。

残りの7%は？

子どもの体調不良で急に休まなきゃいけない時に、同じオフィスで働く派遣社員に迷惑をかけちゃうことがあって、本当に申し訳ない気持ちになるのでマイナス点をつけました。

日本で働きだして、お子さんとの関係はどうでしょうか。

メキシコで働いていた時よりも働く時間は短くなったので、子どもと一緒にいられる時間が長くなりましたし、心にも余裕ができるようになりましたね。一緒に勉強もしますし、遊ぶ時間もあって嬉しいです。

それは何よりですね。

以前は平日に仕事をして土日になってから溜まっている家事をしていました。でも今は、平日に家事ができるようになったので、土日が丸ごと空くんです。だから、家族みんなで遊びに行っていますよ。

四日市での生活を満喫されているようで良かったです。中村さんの今後の活躍も期待していますね。ありがとうございました！