これは、派遣社員である松田さんのお話です。

松田さんはIT企業で役員経験があり、有名な外資系コンサルティング会社のコンサルタントとしても活躍されていました。
いまは派遣社員として働いているのですが、どうして松田さんは派遣社員になったのでしょうか。IT企業で役員になった経緯や、外資系コンサルタントになった経緯など、様々なことを探っていきました。

松田さんは外資系コンサルタントですから、さぞかしエリート街道まっしぐらという感じでしょうか。

いえいえ、そもそも私は高卒なんですよ。

え、そうなんですか?

大学を中退、コンビニでバイトしながら、麻雀、競馬

子どものころから別居してる父がいて、「金を出してやるから大学ぐらい行け」と言われて行ったんですが、学費の仕送りが続かなくて。それで仕方なく大学を辞めて、コンビニでバイトをしながら遊んでました。

遊ぶ、というのは具体的には?

麻雀や競馬ですね。特に麻雀はハマってました。もともと兄の影響ではじめたんですが、祖父が麻雀牌を持っていて、小学生時代から家族で麻雀をやっていました。「麻雀で食べていきたい」と考えた時期もあったほどです。

それほど没頭したんですね。

でも、そんな生活も長くは続きませんでした。それで知り合いの電気工事会社の人から誘われて電気工事の会社に入ったんです。

電気工事の会社って、どんなお仕事でしょうか。

「きつい・汚い・危険」という、いわゆる3Kの仕事でしたね。ヘルメットをかぶって腰道具つけて、鉄板入りの安全靴を履いて、朝から晩までいろんな現場で電気周りのあらゆることをしていました。

そこから外資系コンサルタントになるなんて想像もつかないんですけど……

そうですよね。その時に、以前にバイトしていたコンビニで一緒だったパートの主婦の方から受けた「ある相談」が転機になって。

パートの主婦の方から受けた「ある相談」?

旦那さんが会社員を辞めてコンビニのフランチャイズをはじめたそうなんですけど、「人手が足りなくて困ってるから手伝ってほしい」と。でも、電気工事士として働いてて無理だから断ろうと思って。

まあ、そうですよね。朝から晩まで電気周りのあらゆることをしているんだから。

それで店舗に行ったら、オーナーである旦那さんが真っ青な顔で出てきて「夜勤は1人で全部回してて、人手が足りなくて……」って泣きつかれて。断ろうと思って行ったのに「じゃあ、手伝いますよ」って引き受けてしまいました。

引き受けたんですか!

電気工事士からコンビニに舞い戻り、店長へ

よく聞くと、単に人手が足りないだけじゃなく、利益が出ていなくて。そもそも旦那さんは自動車ディーラーの営業だったから、商売とか経営とかっていうのを分かってない。奥様も、コンビニでただパートをやっていただけ。集めたスタッフも「アルバイト初めてです」とか「接客は初めてです」とか、そんな感じで。

それは厳しそうですね。

そうなんです。売上が上がる以前にオペレーションがまともに回ってない状態で、見ていられなくて。

松田さんはコンビニでのバイト経験が豊富だったわけですか。

4年ほどやっていて、スキルには自信がありました。コンビニのアルバイトって世間では評価が低かったりしますけど、体はもちろんのこと、発注だとか品出し品揃えとかで頭も使います。それに、接客だとか従業員間においても心を使いますし、「どのスキルも等しく必要」な仕事なんですよ。

確かに。でも、なぜそれが得意になっていたんでしょう。

経験を積んでいたこともありますけど、麻雀も関係しているかもしれないですね。

麻雀も?

ええ、先を読んだり、周りの動きを読んだり、あと流れを感じとるっていうスキルは麻雀でも身につきますから。

なるほど。それで、その後はどうなりましたか?

電気工事士と並行してやっていたんですが、途中からコンビニに専念して。それで、店長として1年ぐらいやって売上利益も目標額に達したんで辞めました。

コンビニを辞めて、次はどうしたんですか。

ビジネスコンサルタントをしている中学時代の親友から「コンサルをやってみれば?」って言われたんです。「いや、俺、大学中退だぞ」って言い返しましたけど(笑)

コンビニとか、電気工事士とか、異業種な経歴ではありますよね。

ビジネスコンサルタントを目指してIT業界へ

そう、ホワイトカラーの仕事を一切したことがないわけです。パソコンもまともに触ってないですし。でも、友人に「第三者のために経営面で支援して立て直したっていうのは、すごい実績だ」って言われて。

確かに、適性は十分ありそうですよね。

それで「こっちの業界に来ないか」って言われたんですけど、ITスキルだけでなくビジネススキルもないので、「まずはIT業界に入ろう」と思って。それで、100人くらいの規模のIT企業がヘルプデスクの要員募集をしていたので、そこに入りました。

そこで修行する感じですか。

ええ。でもその仕事が、コンビニ向けにPOSレジ系システムを担当するヘルプデスク業務だったんですよ。

わあ、経験が活かせそうですね。

そう、すごくフィットしまして。コンビニの経験はあるわ、電気工事士の経験はあるわ。すごく入りこみやすかったです。そのせいか評価されて、より難易度の高い仕事も任されるようになりました。その後フリーになって、案件単位でお仕事をするようになって。

フリーの経験もあるんですね。

ええ、でもそれからまた別のITコンサルティング会社に入りまして、スーパーマーケット向けヘルプデスクの構造改革プロジェクトのリーダーを任されたりしました。

コンビニもそうでしたけど、“業務立て直し系”が得意なんですね。

そうですね。困っている人を見ると助けたくなる性格で……。それで、コスト改善をして会社の業績も上がってきたら、社長が「後継者候補として執行役員を3人たてる」といって、そのうちの1人に選ばれたんです。

なるほど、そこで役員になったわけですね。

ええ。ただ、部下も数十人になって、プロジェクトをいくつも見なきゃいけないし、採用もしなきゃいけないし、営業して仕事も取らなきゃいけないし、もう休みなんてないような感じで。

めちゃくちゃ忙しそうですね。

そしてついに、外資系コンサルタントへ

そうするうちに、ビジネスコンサルの親友が、別の外資系コンサルティングファームへ移籍していて。「全社的に人手が足りていないから来ないか?」って誘われたんです。

ついにビジネスコンサルタントの親友と合流するわけですね。

はい。人事の方からは「高卒で入社する人は初めてだ」って言われましたけどね(笑)

前代未聞でしたか。でも、外資系コンサルティング会社も変わらず忙しそうですけども……

そうですね。プロジェクトの業務はもちろん、若手社員への勉強会をしたり、プロジェクトマネージャーのサポートや代行も任されたり、何役もやる感じでした。朝は10時からでゆっくりめですけど、深夜から早朝まで働いて、タクシーで帰って1日平均3時間とかの睡眠で働き続けて。休みは正月だけでしたね。

うわあ、体とか大丈夫だったんでしょうか。

いや、おかしくなりましたね。常に背中が痛い、内臓が痛い、どこかが痛い、みたいな。気持ちとしては仕事が楽しいので一生懸命やるんですけど、体がついてこない状態になっちゃったんですね。

あららら……

それで、病院に行ったら「ちょっと休職しましょう。異常ですよ、この状態は」って言われて休職することになりました。

まあ、体は大事ですからね。

それで「次は、自分のペースで仕事をしよう」と思って、知り合いの会社から個人的に案件単位のお仕事をもらってやっていたんですね。そんな時にコロナ禍になって、自分も感染してしまって。

え、感染してしまったんですか。

はい。そこからまたずっと療養です。無理せずに、静かに暮らして。それで、だんだん良くなってきたんで「仕事しよう」と思って、また知り合いの会社に声をかけたら、どこも仕事がないんですよ。コロナ禍で。

それで、引き続き休養を?

役員経験もある外資系コンサルタント、派遣で働く

さすがに仕事がしたくなって。でも忙しすぎるのは嫌だなと思って。それで初めて派遣会社ってどんな感じだろうなと思って、大手5社ぐらいに登録したんです。

なるほど、そこで派遣を。「自分のペースで働くため」だったんですね。

そうですね。登録に際しては“一般事務希望”みたいな感じで登録したんです。「無理したくないな」と思ったんで。

役員経験もある外資系コンサルタントが「一般事務希望」……

いや、本当にマイペースでやりたいなと思ったんで。でも、書類選考が通らなくて。それで、ヘルプデスクとかコールセンターのオペレーターまで範囲を広げてチェックを入れたんですけど、それでも通ったのは1社だけで、そこも結局、就業には至りませんでした。

うーん、経験がありすぎるのがアダとなってしまったんでしょうかねえ。

結局70件ぐらいの案件に応募したのですが引っかからなくて。「どうしよう」と。そうしたら、テンプスタッフから「外資系のEC企業でオペレーターの仕事がありますが、どうですか?」って声をかけてくれたんですよ。

それで派遣で働きはじめた、と。

はい。まあ、最初はオペレーターとして業務をはじめましたけど、結局いろいろと任されるようになって。徐々にマネージメント側のお仕事のお手伝いもするようになりました。それで、最近になってから「正社員でどうですか?」って言われまして。

お、直雇用ですか。どうしたんですか?

「自分のペースで働けて、それで評価いただけるならいいかな」と思って、直雇用になることにしました。

そうですか。自分らしく働けて、それでいて求められるならいいですよね。

ええ、本当に。だからこのご縁をくださったテンプスタッフの担当者の方には感謝しかなくて。こんな複雑なキャリアの私を受け入れてくださって、「担当者さまさま」ですよ。

いやあ、すごい経験をお持ちの松田さんに派遣を活用いただいて、「自分らしくいられる場所」が見つかって本当に良かったです。今後の活躍も期待しています!