「指揮命令者様のことが、ちょっと怖いんです」
渡辺が担当する40歳の女性スタッフの方は、そう悩みを口にしました。

渡辺:派遣先の指揮命令者の方とうまくコミュニケーションが取れない状態でした。それによって、業務上で本来聞かなきゃいけないことや質問しなきゃいけないことが聞けずにいたのです。そのまま作業を進めてしまい、ミスを起こしてしまうこともありました。

第二営業本部 名古屋一課渡辺 裕太

渡辺:のちに直接雇用に切り替えていただくような契約内容だったのですが、ご本人が「切り替え自体もどうしようかな……」と躊躇する状態に陥ってしまいました。

直接雇用に切り替えていただけるのは、スタッフの方にとって絶好のチャンスです。しかし、それでもスタッフの方から終了を希望するような言葉が出てきてしまった。そんな状況を打破するために、渡辺はその企業の窓口担当の方へ働きかけることにしたのです。

渡辺:まずは率直に、派遣スタッフがなかなかコミュニケーションを取りづらくなってしまっている現状について企業の窓口の方へご報告をさせていただきました。もちろん言い回しには注意して、「少しご配慮をお願いしたい」といった形で相談をさせていただきました。

しかし、窓口担当の方からの回答は渡辺の予想に反するものでした。

渡辺:指揮命令者の方が長く在籍されている方ということで、「指摘をするのはなかなか難しい」と言われました。「指摘したとしても、なかなか改善につながるのは難しいんじゃないか」ということで、行動にまでは移せないというようなご反応でした。

「このままではスタッフの方は期日を迎えて辞めてしまう」
一度は断られたものの、渡辺は覚悟を決めて自ら動くことにしました。

渡辺:私から直接、指揮命令者の方とご相談させていただくことはできないか、と頼み込んでお話をさせていただきました。

渡辺:コミュニケーションの改善について相談をすると、最初の指揮命令者の方の反応は、「自分は間違っていない。スタッフの方のコミュニケーション能力が低いことが原因だから、こちらを改善するつもりはない」という第一声でした。

頑な姿勢を崩さない指揮命令者の方。しかし、渡辺には引けない理由がありました。それは、スタッフの方のご家族事情を伺っていたからです。

渡辺:スタッフの旦那さんは外国籍の方ということで、なかなか安定した働き口が見つかっていない状態だと伺っていました。

さらに、保育園に預けているお子さんも元気がなく、スタッフの方はその事でも悩んでいたのだといいます。

渡辺:ご自身の仕事でも悩みを多く持ってしまうと、お子さんにも影響してしまう可能性があります。だから、仕事の悩みをまずは解決していくことが優先だと考えました。

「本人が望むなら、なんとか仕事を続けて欲しい」
渡辺は、一歩踏み込んで指揮命令者の方に思いをぶつける必要に迫られていたのです。

渡辺:私自身の経験から、「コミュニケーションというのは一方からの歩み寄りだけでは改善に向かわなかった」というお話をさせていただきました。そのうえで、「スタッフの方からも改善をしていきますが、逆に指揮命令者の方からも歩み寄ってほしい」とお願いしました。

なんとか仕事をうまく回していくためにも、今の状況を変えていきたい。渡辺の強い想いが、相手の方の心を揺り動かしていきました。

渡辺:「具体的にはどうすればいい?」と逆に相談を受けたので、私から3つのお願いをしました。まず1点目が、もしスタッフが困った様子だったら、「何かあった?」というひと言だけで良いので一度声を掛けていただきたい。2つ目が、逆に褒めていただけるようなことがあった時には必ず「ここ良かったよ」と声を掛けていただきたい。

渡辺:そして3点目は、1点目と2点目が何もない状態であったとしても、1週間に1度は「最近調子どう?」ぐらいの軽いものでいいので声を掛けてください。この3点だけ、あと一カ月程度やってみてください。それで状況が変わるかどうか見て欲しいです、と。

この渡辺の提案により、その後の状況は徐々に変化していくことになりました。

渡辺:スタッフの方からは「困ったことがあった時に相談をしやすくなりました」という話がありました。また、指揮命令者の方からは「仕事上でのミスや遅れは減ってきた」というフィードバックもいただけました。

そして、派遣期間満了を迎えたスタッフの方は、このまま正社員となって働くことが決まったのです。

渡辺:1年ぐらい経ってから「その後、状況はどうですか? お変わりないですか?」というご連絡をさせてもらいました。そうしたら「あの時、本当に辞めなくて良かったです。今すごくいい状態で仕事もできているし、子どもの状況も改善してきたので、問題なく過ごせています」とのことだったので、胸をなでおろしました。

渡辺が仕事において大事にしていることを聞いてみました。

渡辺:パーソルのグループビジョン「はたらいて、笑おう。」のように、笑える仲間を増やすことです。

どんな仕事でも、「はたらいて」いれば苦しい事や辛い事というのは間違いなく存在してくると思っています。ただ、そういったものが積み重なりながら、どこかでやりがいが見つかるとか、「この仕事をして良かった」と思える瞬間が必ずやってくると信じています。

そんな瞬間が来た時に、本当の意味で“笑える”状況ができてくるのかなと思っています。