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コンピテンシー評価とは?4つのメリットと留意点を解説

公開日:2024.04.26

企業の課題

多くの企業が導入している職能資格制度(能力評価)は、人材の持つ能力やスキル、知識を評価します。しかし、評価基準が「責任感」や「協調性」など抽象的なものであることから、評価者の主観が入りやすく曖昧な基準という課題がありました。そのような課題を解決する評価方法が「コンピテンシー」です。具体的な評価基準は、会社と社員に大きなメリットを提供します。一方で導入までのプロセスが多岐にわたるといった留意点もあります。今回はメリット・留意点、導入までの方法を解説します。

コンピテンシーとは?

英語「competency」の意味は「能力、適性」ですが、ビジネスにおける「コンピテンシー」の意味は、「能力やスキルを発揮するための行動特性」を示します。

コンピテンシーの歴史

コンピテンシーの概念は、1970年代にアメリカで誕生しました。学歴や知能が同レベルの職員に対して成果を挙げるうえで大きな差が生まれる要因について調査をしたものです。その結果、高い業績をあげている社員は、共通する特性を持っていました。この発見により盛んに研究が行われるようになりました。

民間企業においても、これまでの職務記述書の補完ツールとして導入されるようになりました。担当する職務内容や責任の範囲についてだけではなく、思考や価値観も含めた個々の能力を評価できるコンピテンシーが注目されるようになりました。

コンピテンシーが注目されている背景

日本でもバブル崩壊後、1990年代から導入する企業が見られるようになりました。戦後、日本で当たり前だった年功序列の賃金制度ですが、勤続年数や年齢の上昇とともに、職能が上がる前提で賃金が上昇します。しかし、能力が賃金に比例しないケースが発生することもあり、人件費が高騰していくという事態が散見されたのです。

バブル期が終わり、高騰し続ける賃金制度の維持に限界を感じた企業が、それまでの能力重視から成果重視へのシフトを検討し始めました。能力主義と成果主義の両方をかなえるものとして、コンピテンシーが取り入れられました。

コンピテンシーのモデル一覧

コンピテンシーモデルの構築は極めて重要です。自社の成功事例から学び、高い成果をあげる社員の行動特性を把握し、組織全体で一貫性のある評価基準を築くことで、優れた成果と育成の方針を確立することが可能です。

一般的にコンピテンシーモデルを設定するためは、高い成果を生み出している社員にヒアリングし、その成果の要因となっている行動特性を確認します。さまざまな職種・役割で実施すると、評価実施の際に役立つでしょう。注目するのは、成果を出すためにとった行動やその理由です。どのように考え、どのように業務を行っているかという思考における共通項も見出せると、よりよいコンピテンシーの設定につながります。ヒアリングで得た情報をもとに、評価基準のモデル像を作成します。このモデルには次の3つのタイプがあります。

タイプ
理想型 自社における人材像の理想をベースに作成するモデルです。
理想をベースに進めるため、高い成果をあげる社員が実在しなくとも作成できます。実現可能な人材像を設定するように気を付けてください。
実在型 実在型モデルは、コンピテンシーを活用する多くの企業で採用されるモデルの型です。
高い成果をあげる社員をベースにモデルを作成します。作成されたモデルの行動特性が、他の社員での再現が困難な場合は、モデルの内容を見直す必要があります。
ハイブリッド型(実在型+理想型) 実在型モデルに、理想型モデルの要件をプラスしたモデルです。すでに高い成果をあげている社員にとっても、さらにどんなことが求められているかを明確にすることが期待できます。

コンピテンシーの活用場面

コンピテンシーの活用場面は多岐にわたります。具体的にどのような場面が想定できるのかご紹介します。

人材育成

モデル例の提示や高い成果をあげる社員の行動特性を伝えることにより、「どのような思考・行動をすれば高い成果につながるのか」の理解を深め、会社全体でのパフォーマンス向上につながります。この仕事にはどのような能力・思考が必要かということを細かく設定することにより、会社から求められていることが明確になり、社員自身も行動により移しやすくなるでしょう。

人事評価

コンピテンシーは人事評価にも活用されます。人事評価は、目標を設定し、その目標に対しての成果を評価する「MBO(目標管理制度)」が一般的です。コンピテンシーの特徴は、成果はもちろん、明確な基準を示すことが難しいとされていた業務プロセスに対しての客観的な評価が可能です。目に見える成果だけでなく、行動特性の基準も明確になるという点も、これまでの評価方法と異なる点と言えます。

またMBOと比較されるOKRについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
>>OKRとは?KPIやMBOとの違いや導入するメリットを解説

人材採用

あたらしく採用する社員に関しても、コンピテンシーを活用できます。コンピテンシーモデルを示すことにより、まず面接官に「会社がどのような人材を求めているか」を明確にでき、共通の認識を持てます。面接官の主観による判断を防ぎ、客観的な視点で採用を実施することができます。

コンピテンシー評価のメリット

人事評価にコンピテンシーを導入することは、どのような考え方や行動が評価されるか、どのようなスキルが求められるかが明確になります。具体的なメリットは以下の4点が挙げられます。

人事評価の公平性を保つことができる

先述の通り、コンピテンシーを人事評価に導入すると、会社が社員に求める基準が明確になり、公平で正しい評価につながります。評価する社員の主観が入り込みにくいため、会社全体で評価基準が統一され、公平な評価を行うことができます。

人事計画が立てやすくなる

今後の組織の戦略に合うコンピテンシー設定を行うことで、今後どのような人材がどのくらい必要かという人事計画も立てやすくなります。

社員が目標を明確化しやすくなる

社員自身にもメリットがあります。モデルを通して行動特性やスキルを示されることで、目標を明確化しやすくなります。業務のプロセスも明確化されるので、「頑張っているのに評価につながらない」といった悩みも発生しにくいでしょう。

生産性が向上する

求められている行動特性・スキルを明確化し具体的な評価を行うため、社員が自身に足りないことや、できていない行動などを理解できます。それによって、社員は改善する行動を具体的に起こすことができ、すべての社員がその行動を取ることができれば、業務の生産性向上が期待できます。

コンピテンシー評価の留意点

前述でメリットについて述べてきましたが、コンピテンシーの留意点もあります。主な留意点は以下3点が考えられます。

導入するのに時間や工数がかかる

コンピテンシーを導入するためにはかなりの時間や工数がかかります。正しくコンピテンシーを把握するために、高い成果をあげる社員を部門や業務ごとに設定し、その観察を客観的に行い、丁寧にヒアリングし、行動特性を調査・分析して明らかにします。その結果から、自社にとって最適なコンピテンシーを抽出します。

どのコンピテンシーが自社にとって最適かを判断するためには業務への深い理解が必要となり、行動特性と成果の結びつきの分析が大きなカギを握ります。即決できる内容ではないため、この決定には多くのリソースが必要となるでしょう。

定期的にモデルの改善が必要になる

コンピテンシーは自社の事業環境や外部環境の変化に合わせて、評価基準そのものの見直しが求められます。導入時のままの評価項目では上位者と下位者が固定化されたり、本来は評価すべき人材が評価されなかったりすることで、社員のモチベーション低下や離職につながってしまう可能性があります。企業がその時に求める人材像に合わせて、評価項目も見直す必要があります。同じ評価項目を継続することは、今後の企業成長を妨げるリスクもあります。

社員が評価制度に不信感を抱く可能性がある

コンピテンシーは会社がモデルを設定し、その行動特性を表記基準とします。そのため、社員の考える理想と会社が考える理想にギャップがある場合、評価制度そのものに不信感を持たれてしまう可能性があります。導入の際には、モデルへのヒアリングのほか、モデルとなる社員以外の意見も取り入れ、偏りのない基準を設けるように心がけます。

コンピテンシー評価の導入方法

コンピテンシーを導入する場合、どのようなステップが必要になるのでしょうか。4つのステップを解説します。

評価項目を設定する

まずは評価項目を設定します。項目の種類は大きく分けて全社員共通の項目と、業務ごとの項目に分けましょう。モデルとなる高い成果を出す社員の行動特性を分析し、そのコンピテンシーを会社の経営戦略やビジョンとすり合わせ、設定します。

モデルを作成する

高い成果をあげている社員からヒアリングし得た行動特性をもとに、モデルを作成します。他の社員とどのような点が異なっているのか、どのような行動が成果につながっているのかなどを分析しながら進めます。

評価シートを作成する

コンピテンシーモデルを設定した後は、そのモデルから、評価項目を抜き出し、評価のためのシートを作成します。それぞれの項目に関して、達成度合いを測る評価基準を作ります。シートには、「コンピテンシー群」や「コンピテンシー項目」「目標設定」「自己評価」「人事評価者による評価」などを記載します。「自己評価」や「人事評価者による評価」は、数字で評価できるようになっていると、結果を可視化でき、運用しやすくなるでしょう。

導入を開始する

ここまでの準備ができたらいよいよ導入開始です。社内へ新しい評価基準の導入を周知し、目指すべきモデル像を認識してもらう必要があります。また、企業を取り巻く環境やニーズの変化によって、アップデートが求められる評価方法のため、導入後も最適な状態が保てるようにする必要があります。

コンピテンシーについて理解する

導入やアップデートなどの運用には大きな労力が必要なコンピテンシーですが、導入すれば社員や会社への大きなメリットが得られる評価方法です。会社が求める成果だけでなく、業務を進行するための思考や業務プロセスなどを示せる、可視化できるということが大きなメリットです。自社の評価方法を見直す際には、コンピテンシーでの評価も検討してみるとよいでしょう。

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