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派遣の抵触日とは?抵触日の種類や派遣先企業の注意点について解説

公開日:2022.09.22

更新日:2024.01.29

法律

抵触日とは、派遣可能期間が満了した次の日のことで、自社(派遣先)は抵触日を人材派遣会社(派遣元)に対し事前に通知する義務があります。2015年9月30日に施行された「労働者派遣法」にて、派遣可能期間は3年と定められており、抵触日を超えて派遣スタッフを受け入れることはできません。

人材派遣の活用を検討している企業は、コンプライアンスの観点から適切に抵触日を通知し、管理をしなければなりません。しかし、はじめて人材派遣を活用する方の中には、「抵触日をどのように通知し、管理すべきなのか」や「注意すべき点は何か」など、疑問を持つ方も多いでしょう。

本記事では、抵触日の基本的な情報と、抵触日の種類、抵触日はどのように通知をするのか、抵触日通知書の例を用いて分かりやすく解説します。

人材派遣の抵触日とは派遣可能期間が満了した次の日のこと

人材派遣の抵触日とは、派遣スタッフを受け入れられる派遣可能期間が満了した次の日を指します。2015年9月30日に施行された「労働者派遣法」にて、派遣可能期間は3年までと定められています。

例えば、2021年10月1日にはじめて派遣スタッフを受け入れた場合、3年を過ぎた2024年10月1日が抵触日となります。

自社(派遣先)は、人材派遣会社(派遣元)に対して抵触日を通知する義務があります。

派遣の期間制限が設定された理由

派遣スタッフを受け入れる期間に制限が設定された理由は、派遣スタッフの雇用を安定させるためです。労働者派遣法では「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とする」と定義されており、3年を超える期間で人材が必要な場合は、自社(派遣先)で直接雇用すべきという考えのもと、定められています。

2015年9月の労働者派遣法改正前は、専門性の高い業務である「専門26業種」に従事する派遣スタッフに対しては、派遣可能期間に上限がありませんでした。自社(派遣先)は、上限なく派遣スタッフを受け入れられる一方で、人材派遣会社(派遣元)との契約を満了すれば、契約終了が可能なため派遣スタッフの雇用が安定しにくいことが課題となっていた背景もあります。

自社は人材派遣会社に抵触日の通知義務がある

自社(派遣先)の抵触日は、派遣スタッフ受入時の労働者派遣契約締結の際に、あらかじめ人材派遣会社(派遣元)に対して、通知することが法律で定められています(労働者派遣法第26条第4項)。また、人材派遣会社(派遣元)は、自社(派遣先)から抵触日の通知がない場合は、労働者派遣契約を締結してはならないとされています。

抵触日通知に際して、通知する内容や方法は以下の通りです。

通知する内容 通知の方法 書面などの保存
  1. 事業所の名称
  2. 事業所所在地(住所)
  3. 事業所抵触日
  • 書面交付
  • FAXの送信
  • 電子メールなどの送信
    ※口頭での通知は認められていません。
  • 保存を推奨
    ※行政の定期検査で必要になることが多いため保存をおすすめします。

なお、通知する書面は、「事業所名」「事業所所在地」「事業所抵触日(延長の場合は、延長後の抵触日)」の3つの項目が記載されていれば、どのようなフォーマットでも問題ありません。

【例】抵触日通知書

パーソルテンプスタッフでも抵触日通知書のフォーマットを提供しています。ぜひご活用ください。
>> 抵触日通知書テンプレート

抵触日は「事業所単位」と「個人単位」の2種類がある

抵触日には「事業所単位」と「個人単位」があり、2つの期間制限を受けることになります。(労働者派遣法第40条の2)。この章ではそれぞれの抵触日について詳しく解説します。

事業所単位の抵触日

事業所単位の派遣受け入れ期間制限

同一の事業所において派遣スタッフを受け入れることができるのは原則3年までと定められています。3年を超えて派遣スタッフを受け入れようとする場合(派遣可能期間を延長する場合)は、抵触日の1ヶ月前までに派遣先事業所の過半数労働組合などに意見聴取を行う必要があります。

事業所単位とは、厚生労働省「平成27年労働者派遣法改正法の概要」にて、以下のように定義されています。

  • 工場、事務所、店舗等、場所的に独立していること
  • 経営の単位として人事・経理・指導監督・働き方などがある程度独立していること
  • 施設として一定期間継続するものであること

事業所単位の考え方は、基本的に雇用保険の適用事業所単位と同じです。規模が小さい出張所や支店などで、本社や上部の組織に人事・経理・経営(業務を含む)などの機能がある場合は、本社や上部の組織に包括して一つの事業所として取り扱われます。「本社管轄で運営されている出張所や支店」などがこれにあたります。

個人単位の抵触日

個人単位の派遣受け入れ期間制限
  • ※参照:厚生労働省|パンフレット(派遣先の皆さまへ)

同一の派遣スタッフを自社(派遣先)の同じ組織単位(課など)で受け入れることができる期間は3年までと定められています。個人単位の期間制限には延長の概念はありません。派遣元が変わったとしても、同一の派遣スタッフを3年超えて同一の組織単位で受け入れることはできません。

組織単位とは、厚生労働省「平成27年労働者派遣法改正の概要」にて以下のように定義されています。

  • 業務としての類似性や関連性がある組織
  • 組織の長が業務配分や労務管理上の指揮監督権限を有するもの

また、「課」など、自社(派遣先)の組織の最小単位(係・班・グループ・チームなど)よりも一般に大きな単位が想定されますが、小規模事業所においては組織単位と組織の最小単位が一致する場合もあります。

事業所単位と個人単位の期間制限の関係

事業所単位の期間制限と個人単位の期間制限では、事業所単位の期間制限が優先される点に注意が必要です。

例えば、個人単位の期間制限より事業所単位の期間制限の方が早い場合は、意見聴取を行い、その事業所の派遣可能期間を延長しなければ、個人単位の期間制限に達していない派遣スタッフであっても、事業所の抵触日以降も継続して受け入れることはできません。

ただし、派遣可能期間制限の対象外となる派遣スタッフと派遣業務があるため、次の章で詳しく解説します。

派遣可能期間制限の対象外となる派遣スタッフと派遣業務

この章では、派遣可能期間制限の対象外となる派遣スタッフと派遣業務について解説します。期間制限が設けられないスタッフや業務の場合は、抵触日の人材派遣会社(派遣元)への通知も不要となります。

派遣可能期間制限の対象外となる派遣スタッフ

派遣可能期間の制限を受けない派遣スタッフは以下の通りです。

  • 人材派遣会社(派遣元)で無期雇用されている派遣スタッフ
  • 60歳以上の派遣スタッフ

受け入れる派遣スタッフが無期雇用なのか、60歳以上なのかは人材派遣会社(派遣元)に確認する必要があります。

派遣可能期間制限の対象外となる派遣業務

派遣可能期間の制限を受けない派遣業務は以下の通りです。

  • 日数限定業務
  • 有期プロジェクト業務
  • 産前産後・育児休業・介護休業代替業務

日数限定業務とは、その業務が1ヶ月の間に行われる日数が、自社(派遣先)の社員の所定労働日数の半分以下かつ月10日以下の業務をいいます。

有期プロジェクト業務とは、事業の開始、転換、拡大、縮小または廃止のための業務であり、一定の期間内に完了することが予定されているものを指します。

産前産後・育児休業・介護休業代替業務とは、産前産後休業、育児休業、介護休業などを取得する社員の休業期間を代替する業務(引継ぎも含める)です。

抵触日に違反してしまった場合

抵触日以降も人材を派遣していた場合、人材派遣会社(派遣元)には、「30万円以下の罰金」という罰則がある(労働者派遣法第61条第3号)上に、行政指導を受ける可能性があります。自社(派遣先)に対しても、行政指導が行われ、指導に従わない場合には、企業名が公表される可能性があります。

また、罰則ではありませんが、抵触日以降も派遣スタッフを受け入れていた場合は、自社(派遣先)が派遣スタッフに対して、直接雇用を申し込んだとみなす「労働契約申込みみなし制度」が適用される可能性があります。

労働契約申込みみなし制度については、こちらでさらに詳しく説明しています。
>> 労働契約申込みみなし制度の対象となるのは?ポイントと対策を解説

クーリング期間について

事業所単位・個人単位抵触日には、派遣可能期間までの通算期間がリセットされる「クーリング期間」があります。クーリング期間は事業所単位・個人単位の抵触日、ともに「3ヶ月超」(3ヶ月と1日以上)とされています。

【事業所単位】
派遣可能期間の終了から3ヶ月と1日を超えるクーリング期間が経過すれば、事業所抵触日までの通算期間がリセットされます。次に派遣スタッフを受け入れた日から新たに3年、派遣スタッフの受け入れが可能です。

ただし、派遣可能期間の延長手続きを回避する目的で、クーリング期間を経て派遣スタッフの受け入れを再開するような行為は、法の趣旨に反するとされています。

【個人単位】
派遣可能期間の終了から、3ヶ月と1日を超えるクーリング期間が経過すれば、同一の組織単位で同じ派遣スタッフを新たに3年受け入れることが可能です。

ただし、派遣スタッフが希望しないにもかかわらず、クーリング期間を空けて再度同じ組織単位の業務に派遣することは、派遣スタッフのキャリアアップの観点から望ましくないとされています。

派遣可能期間を延長するための手続き

自社(派遣先)の派遣可能期間を延長するためには、以下のフローに沿って手続きが必要です。

自社(派遣先)の事業所抵触日の1ヶ月前までに、その事業所の過半数労働組合または過半数代表者に書面による意見聴取を行う必要があります。自社(派遣先)に事業所が複数ある場合は、事業所ごとに意見聴取が必要となります。意見聴取の回答が「異議なし」の場合、最大3年まで派遣可能期間を延長できます。

もし、意見聴取の回答が「異議あり」の場合には延長する期間や理由、異議への対応方針などを事業所抵触日の前日までに、過半数労働組合または過半数代表者に説明することで、派遣可能期間の延長ができます。過半数労働組合または過半数代表者の意見を、十分に尊重するよう努めることが重要です。

派遣可能期間の延長が決まった場合、意見聴取を行った書面の保管(3年間)と自社(派遣先)の事業所の社員へ周知が必要です。また、それに合わせて延長された抵触日の人材派遣会社(派遣元)への通知も必要となります。延長後、さらに派遣可能期間を延長する場合も同様の手順で行います。

抵触日についての理解を深め、適切な対応を

自社(派遣先)で派遣スタッフを受け入れる場合「事業所単位の抵触日」と「個人単位の抵触日」の2つの期間制限に留意する必要があります。どちらも派遣可能期間は3年と定められていますが、事業所単位の抵触日は延長可能、個人単位の抵触日は延長不可という大きな違いがあります。

抵触日を超えて派遣スタッフを受け入れていた場合は、行政指導を受け企業名が公表されたり、派遣スタッフに対して直接雇用を申し込んだとみなす「労働契約申込みみなし制度」が適用される可能性があるため留意が必要です。

抵触日の延長手続きや通知義務、派遣スタッフの抵触日の管理など、自社(派遣先)だけで対応するのは不安な点も多いと思います。抵触日に関して不明点がある場合は、人材派遣会社(派遣元)にご相談ください。

よくあるご質問

1.人材派遣の抵触日とは何ですか?

人材派遣の抵触日とは、派遣スタッフを受け入れられる派遣可能期間が満了した翌日のことです。例えば、2023年4月1日にはじめて派遣スタッフを受け入れた場合、3年を過ぎた2026年4月1日が人材派遣の抵触日となります。

2.派遣可能期間制限の対象外となる場合はありますか?

人材派遣会社で無期雇用されている派遣スタッフと60歳以上の派遣スタッフは派遣可能期間制限の対象外となります。また日数限定業務、有期プロジェクト業務、産前産後・育児休業・介護休業代替業務の場合も派遣可能期間制限の対象外です。

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