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【人事ライン】
サントリーホールディングス 辻氏
身近な同僚の役に立ち、貢献できること 

公開日:2023.10.24

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【人事ライン】 サントリーホールディングス 辻氏 身近な同僚の役に立ち、貢献できること

サントリーホールディングス株式会社
ピープル&カルチャー本部 課長
サントリー大学
辻 佳予子 氏

「他の会社の人事ってどうやっているんだろう」「同じような悩みを抱えているのかな」
ちょっと知りたい、知っておきたいさまざまな企業の人事インタビュー『人事ライン』。
今回は、マーケティングのキャリアから教育・育成担当を経て、現在は企業内大学「サントリー大学」の担当をされているサントリーホールディングス株式会社 ピープル&カルチャー本部 課長、サントリー大学 辻 佳予子さんです。
企業内大学での取り組みや40歳を過ぎてマーケティング部門から人事部門への異動の中で、現在感じていることや想いについて伺いました。

― 辻さんの今までのキャリアと、現在のご担当を教えてください。

新卒で加工食品メーカーに入社し、マーケティング部門で商品開発を担当していました。最初の5年間は国内の商品開発を担当し、その後、北米事業が立ち上がった際に公募で手を挙げて、海外向けの商品開発や市場開拓に5年間携わりました。計10年間務めたのち、32歳でサントリーホールディングスに経験者採用という形で入社しました。
最初に配属となったのが、サントリー食品インターナショナルという、「伊右衛門」や「BOSS」などを取り扱っているソフトドリンクの事業会社でした。そこでは果汁飲料や天然水のブランドマネジャーと呼ばれる役割で商品戦略を担当し、「なっちゃん」や「ヨーグリーナ」などドリンクの開発や販促企画をしていました。そこで7年経験した後、産休育休を約2年取得しました。

育休の間に自分のキャリアを考え、あらためて自分の好きなことやこの先やりたいことを棚卸したときに、人材育成の仕事に携わってみたいという気持ちがあり、会社にもそれを伝えたところ、復職したタイミングでブランドマネジャーを育成する仕事を任せていただきました。具体的にはあらたにマーケティング部門に来た人にマーケティングの基礎やコンセプトの研修を行う仕事です。ここでマーケティング職から人材育成の領域にキャリアの幅を拡げ、一昨年、サントリーホールディングスのサントリー大学に課長職として異動し、現在に至ります。
サントリーの国内外すべての社員を合わせると約4万人いるのですが、サントリー大学はその4万人の社員をスコープとしており、海外と国内で計4グループが連携しながら運営しています。現在、私のグループは国内の1万9千人を担当。サントリーホールディングスで直接採用している人の人材育成だけではなく、国内グループ会社、例えばサントリーロジスティクスやサントリーフラワーズなど、グループ会社の人材育成も担当しています。

― 企業内大学を設立し取り組まれているお話をよく耳にするようになりました。サントリー大学は海外も含むたくさんのグループ会社も対象としているのですね。

サントリー大学設立の発端は、グローバル化が背景にありました。現在国内外で270社のグループ会社があるのですが、それぞれの事業はそれぞれの意思決定のもとで自立・自走していきつつ、サントリーとして共通の価値観や理念を皆が持っていることが大切で、創業の精神や理念を伝える場として2015年に設立されました。「やってみなはれ」や「利益三分主義」といった当社の理念がサントリーではたらき続ける求心力になると考えているからです。

もう一つはキャリアオーナーシップと紐づけて自発的な学びを促進していくためです。これからの時代は、自身がありたい姿をしっかり描いて、キャリアや豊かな人生を実現すべく自ら学んでいくことが必要です。そして会社は自ら学ぼうとする人を全力で応援しますというメッセージが企業内大学だと思っています。

人生100年時代、はたらく期間がさらに長くなることが予想されますので、ますます企業内大学の存在意義は大きくなっていきます。サントリーは世の中に先駆けて65歳定年制を策定しました。離職率も低いですし、中長期目線で社員を育て寄り添っていきたいと考えています。

― 企業内大学の課題として、社員への認知や活用の促進が課題との声をお聞きすることがあります。そのような課題に対して取り組まれていることはありますか。

サントリーユニバーシティの略で「SU TIMES(エスユータイムズ)」という名前のメールマガジンを昨年から月1~2回発信しています。締め切りが近づいている人気講座を取り上げたり、講師の方に紹介記事を書いてもらったりしています。発行するとかなり申し込みが増えるので、効果があると思っています。メルマガでは、フックとなる言葉や印象に残る短い言葉を選び、カジュアルに楽しくやってみたくなる語りかけを工夫しています。
また、学びを浸透させ、現場の育成を加速させていくには、マネージャー層の意識改革が必要です。例えば、平日の昼間に開催している応募型の1dayの研修は業務を抜けて受けることになるので、「後ろめたくて参加できない」という声も聞こえてきます。ですので、マネージャーから「成果を上げるためにも研修で学んでおいで」と後押ししていただきたく、マネージャー自身の学ぶ姿勢、育成力も強化していきたいです。

― 現場のマネージャー層がキーであるという言葉はさまざまな施策でよくお聞きします。意識改革するにあたって取り組まれていることがあれば、ご紹介いただけますか。

ちょっと面白い取り組みとしては「突撃!隣のマネージャー」という“隣のマネージャーをのぞく”オンライン講座があります。シリーズでやっているのですが、現役マネージャーを毎回3人ぐらい…生産系、営業系、スタッフ系など幅広い職種からそれぞれ一人ずつ、女性マネージャーもなるべく入るように声かけをして出演してもらっています。
「振り返り面談やキャリアビジョン面談などでメンバーと向き合う際や、日々の業務において、どういった工夫をして成長を促しているか」や会社からもメンバーからも生産性を求められる時代に、「どうやって限られた時間の中で成果を上げていくか」や、ダイバーシティ関連で「LGBTQ+の方にどう寄り添っているか」など、マネージャーが抱えているさまざまな課題に応じたテーマを設定しています。アーカイブも見られるようにしており、結構人気のコンテンツなんですよ。
事前にオンラインで打ち合わせして、「ここを深掘って話してほしい」などのやり取りをした上で、当日は私ともう一人のマネージャーが交代でファシリティターをしています。
マネージャー限定の視聴コンテンツにしているので、心理的安全性を担保した上で「ざっくばらんにぶっちゃけてトークをしてください」と出演するマネージャーにはお願いしています。当日視聴しているマネージャー達にはチャットで質問や感想を書き込んでもらい、その場で登壇者に答えてもらうなど、双方向のコミュニケーションを図っています。
お昼休みや18時など就業時間外に実施するのですが、サントリーらしいのが、この講座のスタートの時に乾杯をするんです。視聴者には、晩ご飯を作りながら、食べながら、カジュアルに聴いてほしいと伝えています。そうすることで学びのハードルを下げ、楽しく気軽に、意識を変えていってくれたらと思っています。

― 社員の皆さまは、属性だけでなく、ライフスタイルや価値観も多様になっていると思うのですが、どのように対応されているのでしょうか。

これまでの自己啓発はeラーニングや通信教育、朝9時に始まり17時半に終わるような1dayの研修がメインで、その中でロジカルシンキングや傾聴力などさまざまなコンテンツを提供していましたが、なかなか利用者が拡がらないという課題がありました。背景としてははたらく環境の違いがあります。私たちのようにオフィスのデスクに座り、一日の大半をパソコンに向かって仕事をしている人もいれば、営業で車を運転する時間が長い人もいます。また自動販売機のルートセールスの方や工場のラインではたらいている方はそもそもパソコンを利用する時間がとても少ないと思います。そのため、イントラの中にあるサントリー大学のプラットフォームも見る機会が少なく、発信してもなかなか知ってもらえないということもありました。そのようなことから、最近は学び方の幅や伝え方を広げていこうと取り組んでいます。

例えば1回あたりの講座の時間も、1dayに加えて3時間でコンパクトに学べるもの、50分でより細かく刻んでPowerPointやWordの操作が学べるものをラインナップに加えました。それから今年導入したのがオーディオブックですね。耳で聴く読書であれば、忙しい社員やパソコンの利用が少ない社員にも活用してもらえるのではないかと取り入れました。
はたらき方の多様性だけではなく、幼いお子さんがいる方や介護をしている方などライフの多様性もあるので、週末や夜の時間にも活用できるなど、それぞれの生活にあった自己啓発がしやすいように意識しています。同じロジカルシンキングを学ぶにしても1Dayタイプの講座でみっちり学ぶこともできれば、3時間で初級編だけ学ぶこともできるし、オーディオブックで本から好きな時間にも学べる、そういう多様な学び方を用意しています。
また、それぞれの状況や求める学びは異なりますので、どのようなコンテンツが欲しいのかアンケートの意見をもとに「財務会計系のコンテンツを増やしてみよう」「マネージャー層の最近の悩みに応じてコミュニケーション系のものを増やしてみよう」などと検討をしたり、階層別の研修などでいろいろな部署から人が集まる機会を利用し、ヒアリングもしています。
特に最近は効率よく短時間で学びたいというタイムパフォーマンスのニーズも多くなってきていますので、集合研修で実施していた座学を、凝縮した動画にして好きなタイミングで視聴できるようにするなど、提供方法を見直しています。

今年のトピックスとしては、ミドルシニア層の活躍支援の一環で「100年キャリア学部」を立ち上げました。主に40歳以上の方がこれからのキャリアを考えたり、幅を広げて新たな学びに挑戦したくなるようなコンテンツを提供しています。具体的には1コマ10分程度のeラーニングで、まずは「人生100年時代にどう向き合っていくか」と「培ったスキルをどう活かしていくか」といったマインドセットを学べるようにしました。また、先輩シニア社員が活躍している様子をインタビュー記事にして掲載することで、ロールモデルのイメージを描いてもらえたらと思っています。やはり自分達の先輩が、どんな風にキャリアの後半を過ごしているのか、頑張っているのかは気になるみたいで、閲覧率も高く人気です。

― 社員個々だけでなく、取り扱うものやサービスの異なるさまざまな事業会社を対象としていると、認知や促進の方法も、用意をするコンテンツも多様にする工夫が必要ですね。

先ほどお話したのは主に多様なはたらき方、生活の仕方に対する、多様な自己啓発施策の取り組みについてですが、集合型の研修についても意識していることがあります。ホールディングスの研修とは別にグループ会社向けの研修があるのですが、そちらの研修設計では、それぞれの個社の悩みや、大切にしている文化や理念を意識して組み立てます。サントリーグループ全体として共通の価値観や理念をしっかり伝えていくことは必要ですが、押し付けにならないように留意しています。

ただ私のグループはメンバーが4人なので、国内だけでも60社以上あるグループ各社全部のことを丁寧に見ることは現実的に難しいです。
そのため、グループ会社とのパイプが強い部門などに課題や情報を吸い上げてもらい、一緒に設計を考えています。
最近は、グループ各社の経営層や現場の育成担当者から積極的な相談が増えてきて、すごくよい傾向だと思ってます。会社や部門ごとに実施している育成施策があるのですが、「うちの部はこういうことで若手の育成に悩んでいるんだけど、いいコンテンツがないだろうか」とか「外部講師を呼んでメンバーに刺激を与えたいから講師を紹介してほしい」というような相談をいただけるようになってきました。全社を挙げて学びの気運が高まっているのを感じます。

― 辻さんご自身のお話を伺います。ずっとマーケティングのキャリアを積まれ、育休中に、復職後は人材育成をやっていきたいと思われたとのことでしたが、背景や理由はどのようなものだったのでしょうか。

私の祖父母、両親が全員学校の先生だったこともあり、小さい頃は先生になりたいと思うこともありました。どこかDNA的に人の育成に携わってみたいという想いが自分の中にあったのかもしれません。また育休中に自分のモチベ―ションを棚卸した時に、営業の人に「ヨーグリーナがあって助かった」「お客さまに喜んでもらえた」と声をかけてもらえることがすごく自分のモチベーションになっていたなと気づきました。商品を創って最終的な消費者の方に喜んでいただくことはすごく楽しくやりがいがあることなのですが、それ以上に一緒に仕事をしている身近な同僚の成果につながるような貢献をできていることがうれしかったんだと、自己分析で分かりました。

また、産休に入る時、上司に「育休中に読んでおいた方がいい本はありますか?」と尋ねたら『LIFE SHIFT』を薦めてくれました。それがきっかけで自分のモチベーションや今後のキャリアを考えることができたので、その時の上司に本当に感謝しています。定期的に行われるキャリア面談でも「Will Can Must」のフレームで考えてみるよう勧めてくれたり、「人事に行ったらどんなことに取り組みたいのか」を具体的に考えるように言われたり。そういう上司の指導があって、異動する前からやりたいことを具体的に描くことができるようになっていました。また、「サントリーのマネージャー層は、キャリア面談をしっかりできるスキルを持った人がまだ少ないと思うから、あなたが人事にいったらマネージャー層のスキルアップにもぜひ取り組んだらいいと思う」と異動後のアドバイスもいただきました。まだまだ着手しきれておらず道のりは長いですが、キャリアの幅を拡げることを後押ししてくれた上司のためにもがんばっていきたいと思っています。

― 長く人事にいる方よりも、経験や知識が少ない部分もあると思います。工夫や課題などがあれば教えてください。

40歳を過ぎてから人事領域の経験がない私に、課長としてこの役目をいただいたということは、そこに意味や期待されていることがあると思っています。マーケティングをずっとやってきた私だからこそできることがあるんじゃないかなと。やってみると意外に活かせることが多いんです。例えば、人事から「これを受けてください」と半強制的に受講をお願いする研修もありますが、自己啓発施策は強制力がないので、「プレミアムモルツ」や「伊右衛門」をお客さまにどうやったら飲んでもらえるかと考えるのと同じように、マーケティングの発想でコンテンツやプロモーションを考えていくことが大事になります。
また“サントリー大学の利用率を上げる“という課題に対しても、「利用がまだ少ないのはそもそも知られていないのか」、「知っているけど、何か利用しにくい障壁があるのか」、「その障壁は時間なのか自己負担の金額なのか」、それとも「上司に遠慮しているのか」。「利用したけど、コンテンツの質に満足せず、離脱されたのか」とか…。マーケティングで、商品の認知率からリピート状況まで消費者分析をするように、社員を顧客と捉えて分析していくと、まだまだやれることがあると感じます。
また、バーチャルな大学であるサントリー大学を普段から目にしてもらうことが大切なので、販促物のように人事施策のシールを作って研修の参加者に配ってみたりもしました。昨日もちょうどサントリー大学の認知促進のための新たなグッズを作ろうということで、「何が一番毎日使うか」とか「もらってうれしいものであることも大事」など、メンバーと一緒に考えていたところなんですよ。

ただ、やはりマーケティングの経験だけで人事の仕事はこなせません。知識や経験が全然足りていないという課題感もすごく持っています。今は、人事領域の中で人材育成という限られた分野しかまだ経験できておらず、採用面接に入らせてもらうこともあるのですが、採用の神髄みたいなことはまだまだわかっていないわけです。人事は幅広く奥が深いので、採用、労務など人事領域の横の幅も拡げていきたいですし、制度変更などを考える際には歴史も知らないと難しいので、これまでの変遷など縦の知識も深めていきたいと感じています。書籍で勉強したり、先輩の話を聞いたり、はたらきながら何とかレベルアップしていきたいと思います。

企業内大学はさまざまな形や手法がありますが、たくさんのグループ会社と人を対象にしているサントリー大学の理念や運営方法など参考にされる方も多いのではないでしょうか。
「人事に行ったら 何をしたいのか、取り組みたいのか」「あなたが人事にいったらそういうマネージャー層のスキルアップにもぜひ取り組んだらいいと思うよ」。以前の上司の言葉がきっかけとなり、育休中にキャリアや自分のモチベーションについて棚卸をし、自ら手を挙げ、マーケティングから人材育成のフィールドにキャリアチェンジをした辻さん。マーケティングの視点や経験を活かし、現場やさまざまな部門と連携しながらサントリー大学をさらに意味のあるものにしていこうと真摯に取り組まれていることや、人事の他領域にも学んでいこうとする姿勢が伝わってきました。

Profile

サントリーホールディングス辻 佳予子 氏

サントリーホールディングス株式会社
ピープル&カルチャー本部 課長
サントリー大学
辻 佳予子 氏

2000年株式会社永谷園入社。国内マーケティング、北米事業に5年ずつ携わる。2010年サントリーホールディングス株式会社入社。ブランド戦略、商品開発を担当したのち、2019年同社戦略企画本部にてブランドマネジャーの育成を担当。マーケティング畑から人材育成領域にキャリアを拡げる。2021年同社ピープル&カルチャー本部サントリー大学にて、新入社員からシニア層まで人材育成に携わる。

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