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【ナレッジインタビュー】
Almoha 唐澤氏 / イーデザイン損害保険 友澤氏
組織・事業成長とカルチャー醸成をかなえる「最高の組織文化のつくり方」

公開日:2023.10.24

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【ナレッジインタビュー】 Almoha 唐澤氏 / イーデザイン損害保険 友澤氏 組織・事業成長とカルチャー醸成をかなえる「最高の組織文化のつくり方」

Almoha 共同創業者 COO
唐澤 俊輔 氏

イーデザイン損害保険株式会社 CMO
パーソルテンプスタッフ株式会社 デジタル戦略アドバイザー
友澤 大輔 氏

今回のナレッジインタビューは、パーソルテンプスタッフ50周年記念 HRナレッジセミナー DAY1で、『組織・事業成長とカルチャー醸成をかなえる「最高の組織文化のつくり方」』の講演をいただいたAlmoha 共同創業者COO唐澤氏と、セッションをご一緒にいただいたイーデザイン損害保険株式会社 CMO友澤氏のイベント後対談です。

友澤氏:今日は講演とセッションをありがとうございました。楽しい時間でした。今日の講演の中で、唐澤さんが思う一番のキーは、どの部分でしょうか。

唐澤氏:私が最も重要と捉えているのは、これからの組織の部分…前例踏襲型と自律変革型の対比の部分です。
伝統的な日本組織がこれまで積み重ねてきたカルチャーと、それと対照的なイノベーションを志向した組織を比較して整理してみたもので、これからはこの転換が欠かせないと思っています。

もう一点挙げるとすると、労働生産性の方程式です。労働生産性は、投下した労働量に対する、生み出した付加価値で決定します。これをマクロで捉えると、DX(デジタルトランスフォーメーション)により効率を高めて労働量を軽減することと、スタートアップなど成長産業を創出して価値を大きく生み出すことが社会として必要となります。これは、国が政策としてDX、スタートアップ、GX(グリーントランスフォーメーション)の3つを成長戦略としていることともつながっています。

友澤氏:唐澤さんも私もマーケティングの領域から人事組織の領域に入りましたよね。マーケティングは、会社の外の人たちに自社の商品を好きになってもらえるメッセージを伝え、不特定多数の人たちを仲間に引き入れ、それが売上につながっていくという業務ですよね。人事も同じで、目の前にいる一番身近な人たちである社員にメッセージを伝え、仲間にし、一番ファンにしないといけないと思うんです。

唐澤氏:私も、経営に近い仕事をしているうちに、気付いたら人事組織の職を担っていましたが、最初はマーケティングとは全く異なる仕事なのだろうなと想像していました。しかし、業務を進めていくうちに、「対象がお客さまか従業員かの違いだけで、やることは一緒だな」ということに気付いて、違和感はあまり感じなくなりました。結局、「幸せにする相手が誰か」という違いだけで、他は本質的には変わらないので、マーケティングの考え方は大いに活用できています。
個人的にも、1億人の顔の見えないお客さまたちの幸せを実現するよりも、数百人の顔の見える仲間の幸せを実現する方が性に合っているなと感じるようになり、今ではマーケティングよりも人事・組織の領域を中心に楽しく仕事させてもらっています。
講演でサービス・プロフィット・チェ-ンについても言及しましたが、顧客満足を向上させる事業の営みと、従業員満足を向上させる組織の営みは、どちらもジャーニーに分解して体験勝ちを高めていくという点で、共通しています。ただ、順番としてはまず仲間とか組織ありきで、その先に顧客の満足があり、結果として売上・利益につながっていくと考えています。だから私は、先行する従業員側を起点に経営を捉えているわけです。

友澤氏: マーケティングで使う言葉はカタカナが多いですよね。「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「パーパス」「ブランド」など、カタカナの言葉ってとても耳障りがよいのですが、難しく捉えてしまう方も多いと思うんです。言葉の意味する本質がわからないと、全く異質に見えてしまうというか。そういうところで、人事の方がアクションのハードルを高く感じてしまうこともあるのではないかなと。だから今日のような話をお伝えするときに、マーケティングと人事をつなぐことができればなと思ったりします。

唐澤氏:カタカナが多いと分かりづらいという意見をもらうことも多いですが、言葉がカタカナか漢字かって、実はあまり関係ないんですよね。そもそも言語には限界があって、日本語だとしても表したいニュアンスが適切に伝えられる言葉があるとは限らないと思うんですよね。たとえば、「バリュー」とカタカナだと分かりづらいと言うけれど、「価値観」と言い換えたらわかるかというと、「価値観」にもいろんな意味合いがあって、個人としての好き嫌いといった意思を示す時もあれば、何らかの明確な判断基準を示す時もあって。
言葉は、英語だとしてもいろんな意味を含むし、日本語だとしてもいろんな意味を含みます。英語で考えられ、英語で言語化された言葉には、無理に日本語にしようとしても適切な言葉がないのでカタカナが残るわけです。たとえば「イノベーション」という言葉がありますが、英語のInnovationは日本語で「革新」などと訳されますが、「革新」という言葉でInnovationが持つ本来の概念を表現しきれないので、カタカナで「イノベーション」として日本で使われています。
ですから、「カタカナ言葉が難しいから止めよう」ということではなく、「その言葉が持つ意味合いが何なのか」を解釈するとか、自分たちにとってはどういう意味を持つのかっていうことの議論の方が大事だと思っています。

友澤氏:VUCA時代と言われて、常に世の中が変わり続け、変革していくということが前提になっている現在でも、前例を粛々と守っている「前例踏襲型」がまだまだあります。これは組織だけではなく、施策や事業もその他のことも「前例を踏襲して何かが生まれていく」という前提に立つのではなく、変化していくことを是として、どのように文化や組織、事業を作るかなのではないかと思うんですよね。
「先が見通せない中でどのように変革を前提にやるのか」を考えると、『アジャイルカルチャーとは何か』のパートで唐澤さんがお話された通りだなと思いました。アジャイルカルチャーの実現において複数の項目がありましたが、何が一番大事なのでしょうか。

唐澤氏:一つ挙げるとすると、自律的であることだと考えています。一人ひとりの社員が自ら考えて行動し、自主的に組織や社会に対して変化を起こし成果を生みだす組織カルチャーを構築することです。それ以外にも、ジョブ型の雇用形態だったり、多様な人材を集めること、市場価値を加味した報酬設計など、必要なことは挙げればキリがありませんが、それらは全て、自律的な組織を構築するための“How”でしかないとすら言えます。

「パーパス」って、組織が存在する究極の目的なので最も大事なようですが、パーパスだけを一義的に目指すと、「売上がどんなに減っても、パーパスに沿っていることの方が大事ですよね」みたいな議論になりがちです。パーパスが概念上は上位にありますが、組織としては同時に事業を成長させ、継続的に利益を上げることも欠かせません。だから、パーパスはある意味、事業の成果を出すためのツールでもと思うんですよね。事業でより生産的に成果を出すためには、共通の目的があった方が判断に迷った時にブレないので、事業のスピードを上げられますからね。
従業員の自律性に任せていくと、どこかで組織の方針と異なる判断がなされる恐れがあるので、パーパスといった共通の目的や、バリューといった共通の判断基準の重要性が増します。ただ、パーパスやバリューの策定と浸透そのものは目的にはなり得なくて、事業の成果を出すこと自体が企業としては求められます。だとすると、そのための組織を自律的に動かすためのレバーがパーパスやバリューなんだと思います。そのレバーをうまく使って事業成長しましょう、と伝えた方が、「パーパスがあれば売上が上がるんですか?」という不毛な議論にはならないのではないかと思います。

友澤氏:旧来の日本型組織では「自律が大事」と言ってもあまり自律にならなかったり、「失敗していいよ」と言うけれども失敗を恐れるようなベースがあるのではないかと思います。そのような状況はどのように打開していけばよいでしょうか。

唐澤氏:「自律的とは何か」「アジャイルとは何か」という言葉の意味合いを組織内外で揃え、期待値を調整することが大事だと思っています。伝統的な日本の組織って、いわゆる減点主義になっていて、ミスすることを避ける傾向が強いです。自律型とかスタートアップのような組織って、その対局にあって、失敗を恐れずに挑戦しながら成果を上げる人材を評価する加点主義なんです。
これが言葉の意味合いにどういう影響を与えるかというと、たとえば「スピーディーにやろう」って言ったら、どちらのタイプの組織でも合意できるんですよ。「スピード早いほうがいい」とは、誰もが思いますよね。しかし、「スピーディー」の意味するところが両者で全く異なったりします。
減点主義の人たちにとってのスピーディーとは、「完璧な物を作りあげた方が、手戻りが少ないから早い」という意味合いだったりします。ソフトウェアでいうと、3年かけて完璧な物を構築してからリリースした方がいいという感覚です。
一方、スタートアップのような加点主義の人たちは「7割でいいから早く出して、フィードバックをもらいながら改善して作っていった方が同じ3年後にいい物になっている」っていう発想なんですよね。減点を恐れるよりも、改善点は常にあるもので、それを踏まえてよりよくしていく方がいいという視点です。
このように、同じスピーディーという言葉で合意しても、全然違う動きを取るんです。そのため、言葉自体ではなく、その言葉の表す意味合いをどこまで共有できるかが大事なのではないかと思います。
単語そのものにはあまり意味がなくて、「私たちの“スピーディー”とは何なのか」ということの意味合いの方が大事。早ければいいということは合意されているので、それはそれで価値があるんですけれども、その言葉の意味合いをどこまで擦り合わせるかの方が大事なのではないかと思います。
こうした議論を通じて、過度な完璧さを求めずに自律的にやってみよう、という一歩を踏み出しやすくなります。そして踏み出してみると、顧客やステークホルダーからさまざまな声が届き、そこから学んで改善を繰り返し、より良いものを自律的に作り提供していくという、アジャイルな組織になっていきます。だから、言葉の意味合いと、なぜそれが必要かをちゃんと腹落ちするところまで議論するということが大事だと思います。

友澤氏:私もそう思います。「自律」「アジャイル」などの言葉って、わかるようでわからないことが多いんです。だから、それをもっと深掘りすることですよね。Yahooにいたときに「爆速」という言葉が使われていていたんです。わかりやすい言葉ではあるのですが、社内では「“爆速”と“稚拙”の違いは何なのか」というような議論をしていました。抽象度の高い言葉が使われることが多いですが、その解釈の仕方について、必ず現場も議論することが大事です。その議論を促すことは経営や組織でやっていかなければいけないと思います。
でも、その議論の解に正しさを要求すると途端にズレてしまうんです。言葉の定義をギチギチに定めたり、トップダウンでやりすぎるとよくないなという気はします。

唐澤氏:正解を求める議論ばかりに終始するのは気をつけたいですね。「アジャイルなんで、まだ10点の段階でもとりあえずリリースしますね」っていう極端な話になることも違うのですが、「じゃあ、どこまでいったらいいんですか」ってことも状況によりますよね。アジャイルというのは、何点ならいいのかといった正解を探す議論や、0か100かの二項対立の議論をすることではありません。何が最適かを議論し、都度模索していく過程に意味があるのだと考えています。
正解を定義するよりも、いろんなやり方を模索しながら、よい事例が出たら表彰などしながら共有して、他のチームにも横展開するなどしながら、自分たちの組織らしい進め方を広げていけるといいですね。そのために、自分たちの組織らしさは何か、自分は何に懸念を感じているのかなど、みんなで腹を割って話せるか、ということが求められてくると思います。

友澤氏:今日もイベントの中でこのような話をして、皆さんから質問がたくさん来て、それについて答えていく…そういうインタラクション(交流、やりとり)が大事ですよね。今日のセミナーを聞いて、自分にとって何が大事だと思うとか、これは違うと思うとか、そういう風に今日の話を皆さんが使ってくれるといいなと思っています。カタカナ言葉を自分で調べてみるとか、そういうことも含めて、深掘ることに意味がありますよね。

友澤氏:さまざまな組織や事業に携わってきた中では、うまくいったことだけでなく、うまくいかなかったこともありますよね。うまくいく時、いかない時をどのように考えていますか。

唐澤氏:やってみながら、いい形になるまでやるという感じで物事を捉えています。何かをやった瞬間は「あれちょっと違ったな」となっても、その後うまくいくまで修正し続けて、成功するまでやり続ければ最終的に何でも成功になるという感覚です。だから、これもどっちが正解とか、0か100かではなくて、度合いもあるしバランスもあるのでそういう感じでみていますね。

友澤氏:何かを推進するときに、経営や意思決定する人たちの見切りが早くピボットしてしまうことがありますよね。すると、経営は適切に意思決定をしているつもりでも、現場にはブレているように見えてしまい、結果うまくいかないということがあります。何かを変えるということは筋肉痛と一緒なので、必ず痛みを伴うんですよね。痛いと言っている人の声を聞いて、痛いからやめておいたほうがよいのではとその度にに変えていると、ブレているように見えてしまう。だから変えるときは、どこまでやり切るのか経営がコミットして、徹底的にやることが必要だと思うんです。

唐澤氏:そうですね。変革を推進するときは、トップがコミットしてないとやり切れないと思います。何かを変えるときは、当然ハレーションが起きて反対意見が出ますからね。反対意見を出す人っていうのは、昔からの立役者だったり、長く一緒に苦楽を共にした人だったりするから、そこからの反感が出るとやっぱり不安になりますよね。それでも変えるんだと腹をくくらないといけないし、くくれずに「みんなの不満も多いから、変えずに戻します」だと、組織は永久に変わらないと思います。
変革を進めるためには、そのミッションを与えられた人もまたいるわけなので、その方々はそこにいる意味がなくなってしまうし、結局どちらを選ぶかということになります。みんなにいい顔はできないんですよ。それをなるべくみんなの声を拾おうとか、なるべくみんなが不満を言わないようにってやると、当然ブレてくるんです。
先ほど、「期待値」と言いましたが「私たちはこういう組織になる」と決めて約束し、その期待値通りの組織の環境を提供する。そのこれからの組織像に賛同する人とは一緒に進めるし、賛同できないという人にはここでバスを降りてもらった方がいい。そこをやりきらずに「まぁいろんな意見もあるからさ」という感じでやると、やっぱりずっと不満がどこかにある感じになってしまうから、ここははっきりする必要があります。これって、どちらが正しいという議論ではなくて、好きか嫌いかという価値観の問題です。この価値観の揃ったメンバーと一緒にスタートするということが、組織カルチャーの変革の第一歩だと思います。

友澤氏:それができるのが人事だし、それをやるのも人事なのだと思います。そして、本当に腹を決めて経営がやりきれるか。やりきれれば、カルチャー変革につながるのではないでしょうか。そのために、こういったことができれば自律型になっていけると思います。変化を前提にした組織をこれからは作っていかなくてはならないですね。

お二人にセミナーでのお話をより深掘っていただいた対談では、言葉の共通認識や本質の理解、また、変えていく、推進していくときに大切なことについてもお話いただきました。

Profile

Almoha 唐澤 俊輔 氏

Almoha 共同創業者 COO
唐澤 俊輔 氏

日本マクドナルドマーケティング部長・社長室長、メルカリ執行役員人事責任者・社長室長、SHOWROOM COO、デジタル庁CCOを歴任し、官民様々な事業・組織の成長を牽引。
現在は、Almohaにて人事システムの開発、かものは代表として経営・組織コンサルティングを行う。デジタル庁シニアエキスパート(組織文化)。スタートアップエコシステム協会理事。グロービス経営大学院客員准教授。『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』著者。

イーデザイン損害保険株式会社 友澤 大輔 氏

イーデザイン損害保険株式会社 CMO
パーソルテンプスタッフ株式会社 デジタル戦略アドバイザー
友澤 大輔 氏

1994年にベネッセコーポレーションに入社。その後、ニフティ、リクルート、楽天などを経て2012年にヤフーに入社し、マーケティングイノベーション室を新設。2018年10月にパーソルホールディングスへ転じ、2019年4月よりグループ全体のデジタル変革を推進するために中期事業計画策定から各社協働PJなどを推進、同社CDO兼グループデジタル変革推進本部本部長。またパーソルテンプスタッフにてデータサイエンスラボ本部長を兼任。
2021年4月に東京海上ホールディングス デジタル戦略部のシニアデジタルエキスパート兼イーデザイン損害保険 CMOに就任。またパーソルテンプスタッフ デジタル戦略アドバイザーをはじめ、さまざまな企業のアドバイザーとして各社の変革を支援している。

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