HRナレッジライン

カテゴリ一覧

【ナレッジコラム】
教えます!2023年度に向けた「人事と採用のセオリー」vol.003
「大退職時代」に負けないリテンション施策

公開日:2023.02.24

スペシャルコンテンツ

【ナレッジコラム】 教えます!2023年度に向けた「人事と採用のセオリー」vol.003 「大退職時代」に負けないリテンション施策

株式会社人材研究所 代表取締役社長
曽和 利光 氏

「大退職時代」に負けないリテンション施策

さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。 株式会社人材研究所 代表取締役社長の曽和 利光氏による「2023年度の人事・採用」に向けたメッセージを4回連載でお届けします。

「大退職時代」と日本の現状

コロナ禍をきっかけとして、アメリカをはじめ、欧州やインドなどにも広がる「大規模な退職者が発生する現象」が注目され、「大退職時代」(The great resignation)と呼ばれるようになりました。例えば、アメリカでは、2021年に自主的に退職をした人は、なんと約4,700万人にものぼります。アメリカの総労働力人口は1億6,000万人強ですから、約3割の人が1年で退職していることになります。

※参考:Harvard Business Review | The Great Resignation Didn’t Start with the Pandemic

同年に厚生労働省の発表した雇用動向調査結果「入職と離職の推移 結果の概要」を見ると、日本の離職者は717.2万人で離職率は13.9%とアメリカの半分以下であり、2014年の離職率15.5%から徐々に減少していることを見れば「大退職時代」は起こっていません。その日本でも各社で離職が問題視されていることを見ると、もし日本にも同等の「大退職」がやってくれば大変なことになりそうです。

離職の原因は何か

「大退職時代」を到来させないためのリテンション(離職防止)施策としてどんなことが考えられるでしょうか。アメリカでの離職理由を見てみますと、理由の上位は「給料の低さや昇進の機会のなさ」(約63%)、「育児の問題」(約48%)、「フレキシブルな勤務体系を選べないこと」(約45%)とのことでした。
これらの理由がすべて日本にも同じような「大退職時代」をもたらすかどうかはわかりませんが、それぞれに思い当たる現象やデータがあり、不気味に思えます。

※参考:Pew Research Center | The Great Resignation: Why workers say they quit jobs in 2021

実質賃金の減少にどう対処するか

まず、「給料の低さ」ということでは、厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和4年11月分結果速報」によると、物価変動の影響を反映した実質賃金は前年比3.8%低下と、8カ月連続の減少となり、2014年5月以来8年6カ月ぶりの大幅なマイナスとなっています。

これに対して岸田首相が「インフレ率を超える賃上げ」を企業に要請する一方、株式会社ファーストリテイリングが2023年3月から、国内の従業員およそ8,400人の年収を、数%~40%ほど引き上げると発表し、話題になっています。これに続く企業が増えていけば、体力的に賃上げができない企業からの離職が増える可能性はあるでしょう。無い袖は振れませんが、それでも現在の社員の報酬水準をどうしていくのかについては各社で議論が必要です。

リモートワークの会社の方が離職率は低い

次に、育児やフレキシブルな働き方という観点についても見てみましょう。HR総研「『若手人材の離職防止』に関するアンケート 結果報告」によれば、離職の原因は上司や同僚との人間関係が多く、彼らをつなぎとめるために会社の求心力を高めようと4割以上の企業が社内コミュニケーションの量を増やそうとしています。例えば、3分の1以上が1on1ミーティングを実施しています。ちなみに業務外の雑談を促進している企業の7割が効果を感じていることは面白い結果です。

一方で、乗り越えるべき壁となっているのが、リモートワークなどのフレキシブルな働き方です。これは意外なことかもしれませんが、出社率が30%未満と低い企業の方が離職率は低いのです。出社率を上げて、対面接触を高めようとするのはもしかするとかえって逆効果の可能性があるということになります。

コミュニケーション量とフレキシブルな働き方を両立させるという難問

つまり、コミュニケーション量が減りがちなリモートワークはフレキシブルな働き方を維持するために継続しつつ、その上で求心力を高めるためのコミュニケーション量も維持する施策が重要ということなのです。これは大変な難問です。

ただ、リモートワークなどでも実施しやすいリテンション施策はたくさんありますので、まずはそれらの導入の検討が必要でしょう。例えば、組織サーベイ(現在3分の1以上の企業が実施)などで社員の状況を把握して、問題の早期発見をできる体制を整えたり、効果があると導入企業(現在5%ほど)の半数以上が述べているキャリアにおけるロールモデルとなる社員の紹介をしたり、導入企業の6割が効果ありとしている待遇の改善(上述の賃上げなども含む)をしたりするなどの施策です。これらをリモートワークで減るコミュニケーション量を埋め合わせるために実施するということです。

加えて、「重要感」の醸成を

他にもできることはあります。HR総研の同調査によれば、ウェルビーイングや健康経営、キャリアパスの明示なども離職率を左右していることから、このような企業の個人に対するそもそもの基本的な姿勢自体も離職を防ぐためには重要なことと考えられます。つまり、会社から大事にしてもらっているという「重要感」を持つことができれば、離職しなくなるのかもしれません。

ただ、この「重要感」は何か個別具体的な施策を行えば機械的に生じるものではなく、本当の本当に企業側が従業員を大切にしているかどうかがポイントです。人は相手が本気で自分のことを重要だと思っているのか、それとも表面的に持ち上げているだけなのかは気付くものです。ですから、結局のところ、離職を防ぐ最大の要因は、経営陣や会社のリーダー層がメンバーや仲間を大切にする文化や風土などをじっくりと浸透させていくことではないでしょうか。そうすれば、どんな外的環境が悪化しようとも、日本には「大退職時代」は訪れないのではないかと思います。

\曽和氏登壇のセミナーレポート無料配布中!/

【HRナレッジセミナー2022 Spring】
組織と自分のマナビ時間

Profile

人材研究所曽和 利光 氏

株式会社人材研究所
代表取締役社長
曽和 利光 氏

株式会社人材研究所代表取締役社長。日本採用力検定協会理事、日本ビジネス心理学会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。リクルート時代に採用・育成・制度・組織開発・メンタルヘルスなど、様々な人事領域の業務を担当し、同社の採用責任者に。ライフネット生命、オープンハウスの人事責任者を経て、2011年人材研究所を創業。実務経験を活かした、リアルで実効性のある人事コンサルティングや研修、採用アウトソーシングなどをこれまで数百社に対して展開。著書に『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社)、『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)など多数

スペシャルコンテンツ一覧を見る

おすすめの記事