28歳で結婚した清宮は、仕事中に車で事故を起こしてしまいます。視界が見えにくかったために起きた事故を機に、「自分の目が見えなくなっている」ことに気づいたのでした。

清宮:自分で調べてみたら、「網膜色素変性症」っていう網膜の難病なんじゃないかと思いました。それで、病院の眼科に行ったら、「その通りです」と言われてしまって……。

広域第一事業本部
北関東・甲信コーディネートセンター
清宮 宏章

瞬く間に視界が失われ、95%もの視野を消失した清宮は、絶望感に包まれました。

清宮:五円玉の穴から覗いた程度の視野になってしまいました。仕事は車に乗ることも多かったので辞めてしまいましたね。その後も渋谷にあるIT関連の会社に転職したんですが、オフィスの入り口にあるセキュリティの電子キーがまったく見えなくて1人じゃ入れないんです。トイレに行くたびに誰かが出てくるのをウロウロしながら待って一緒に入る、みたいなことをやっていたら精神的にもおかしくなってきちゃって。

新たな仕事も1カ月で諦めた清宮は、徐々に自暴自棄になってしまったといいます。

清宮:赤い障害者手帳をもらったんですけど、「もう自分は障害者なのか……」と重い気持ちになりました。「もう何もかも嫌だ」と思って、仕事にも就かずにフラフラ生活していましたね。ただ、昼間に出歩くと近所の人とか世間の目があるので、昼間は家の中でジッとして……。どうしても外に出たい時は、仕事もしてないのにスーツを着て出かけていました。

清宮:夜は知り合いの居酒屋で酒ばかり飲んで、家に帰っては妻に悪態をついて……。そんな滅茶苦茶な生活を繰り返していました。その居酒屋でも、「仕事はどうなの?」ってお店の人に聞かれたら「いやあ順調ですよ」なんて答えてて、だんだん虚しくなっていきましたね。

しかしある日、見かねた奥様が動きました。自らが派遣スタッフとして働いていたテンプスタッフを通じて、清宮に「サンクス・テンプ」を紹介したのです。

清宮:よく分からずにサンクス・テンプ(現:パーソルダイバース)に行った時に、担当の方から「サンクス・テンプに登録している人は、ほとんどが障害を持ちながら働いているんですよ」という話を聞いて、ものすごく驚きました。しかも、障害といっても、手だったり足だったり、知的なものもあったりして、すごく大変そうで……。でも、自分なんて二本足で立って歩き回れるんですよね。「情けねえな」「何をやってるんだ、自分は」ってだんだん思ってきて。

目が覚めるような思いになった清宮は、すぐさまサンクス・テンプに登録をします。すると、「紹介予定派遣としてテンプスタッフで働いてみては?」と勧められたのです。

清宮:せっかく与えられたチャンスだから、やるしかないと思いました。結婚した以上は、妻に苦労させてばかりじゃいけない。もう「嫌だ」とか言ってる場合じゃなかったんですよね。

そうしてテンプスタッフでコーディネーターアシスタントとして働きはじめると、清宮は驚きの連続だったといいます。

清宮:オフィスで働きはじめると、机の角に見やすい反射テープを貼ってくれたり、駅まで腕を組んでサポートしてくれたり、「大丈夫?」っていつも気にかけてくれる営業メンバーばかりで……。皆さん、視覚障害者の人に接したことがあるかのような対応をしてくださるので、本当にもう毎日ありがたい気持ちで一杯になって。

清宮:現場にも営業同行でスタッフフォローとして行くんですけど、スタッフの方も「清宮さん、ここ段差あるよ」とか「こっちこっち、大丈夫?」とか手を差し伸べてくださるんです。「身体、大丈夫?」とか「無理しないでね」とか「わざわざ来てくれなくていいのに」とか、逆にフォローされてしまって……。

そうして働いていくうちに、清宮の中に「ある思い」が芽生えていったといいます。

清宮:自分が今こうして働けているのは、本当に関わってくれる皆さんのおかげだなと。だから、「恩返し」のつもりでスタッフのためにも会社のためにも尽くしていこうと思いました。

「恩返し」を原点として仕事に向き合うようになった清宮は、毎日の気持ちも徐々に変わっていったようです。

清宮:働きはじめて、まず朝起きると「あ、今日も目が見えた」って思うんですよ。「目が見えたから、今日も仕事に行けるぞ」って。もちろん日によって調子の良し悪しはあるんですけど、「毎日同じ時間に行けるところがある」っていうことが嬉しくて嬉しくて、遠足前の小学生みたいな感覚なんです。

仕事ができる喜びを噛み締める清宮。しかし、目に負った障害は回復することはなく、プライベートでも仕事でも、残酷な現実が突きつけられていきます。

清宮:いま、娘が小学校3年生なんですけど、生まれた頃の顔つきはある程度分かっているんですが、今は顔が見えないんです。最近新しくオフィスに入ってきた人達も輪郭ぐらいでしか見えなくなってきていますし、スタッフの方も同様で……。

しかし清宮は、いつしか強力な武器を身につけていたのです。

清宮:目の機能は失いつつあるんですけど、耳がすごいんですよね。

清宮:目を補うかのように耳が良くなってきていて、スタッフの声の抑揚とか、喋っている感じで「なんかおかしいな」っていうのを敏感に察知できるようになっていきました。だから「あれ、今日ちょっとおかしくない」とか「調子悪い?」とか、すぐに感じ取れるんです。これはコーディネーターとしてスタッフに寄り添ううえで、非常にプラスに働いているかなって思います。

そんな清宮に、仕事で大切にしていることを聞いてみました。 

清宮:すべての方にまず寄り添って、耳を傾けて、とことん聴く。そうして、耳を傾けながら、表面上のところではなくて「心の奥でどんなことに困っているのか」を引き出してあげて、一緒に考えて一緒に苦しんで、全力で答えを出していく。そんな動きを大切にしていますね。
どうしてもコーディネーターや営業という職種は、自分で喋りまくってしまうことが見受けられますけど、まずはしっかりと聴くことですよね。
自分はもう目が悪くて、何年後かには完全に失明する可能性もゼロじゃないですし、仕事もどうなるか分かりません。だからこそ、今は1人でも多くの方の話をしっかり聴いてあげたいなと思います。