わたしの生きる道

第38話 人材派遣、なんて便利なシステムなんだろう

帰ると決まってから、PRSA社に臨時社員を派遣していた会社を紹介してもらい、3時間ほど見学した。女性ばかり数人でやっている会社だった。部屋の隅に座って様子を見ていると、いろいろな会社から電話がかかってくる。

電話に出た社員は「どんな技術や専門知識を持った人材がほしいのか」「何人か」「期間は」といったことを聞く。次に登録している人材リストの中から、先方の希望に該当しそうな人に電話して働く意思があるかどうかを確かめる。本人が承諾すれば依頼してきた会社に連絡する。

このシステムなら必要な期間、必要な人数だけ雇えるし、働く方も好きな時間を選んで働ける。知ってみれば簡単だが、思いつきそうでなかなか思いつかない仕組みだ。

ロンドン留学時代、英語の勉強のために読んだ本の中に、人材派遣システムについて書いたものがあった。そのときはぼんやりとしか理解できなかったが、いまこうして派遣の現場を見ていると、すべてがふに落ちた。

「なんて便利なシステムなんだろう。日本にはないやり方だな」と思った。といって日本に戻ってから自分がそんな会社を興そうなどと考えていたわけではない。何となく会社のパンフレットをもらってトランクにしまった。

(日本経済新聞朝刊2013年6月14日掲載の『私の履歴書』より引用)