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"ひと言声かけ"で良質なチームをつくる

公開日:2018.09.10

企業の課題

“ひと言声かけ”は、誰でもいつでも行える身近なコミュニケーション手法です。「絶対に失敗するな」ではなく「失敗してもいいから頑張れ」とポジティブな言い方にするだけで印象は大きく変わります。ほんのひと言が人間関係を劇的に変えることもあるのです。なぜ声かけが大事なのか、効果的な声かけとはどのようなものかなどについて解説します。

なぜ今“ひと言声かけ”が重要なのか

管理職と部下の間で不足する「言葉によるコミュニケーション」

近年の管理職に不足している能力・資質とは、具体的にどのようなものでしょうか。労働政策研究・研修機構の調査で「近年の管理職に不足する能力・資質」(複数回答)について、企業および正社員ミドルマネジャー(課長、部長等管理職と相当の専門職)に聞いたところ、ともに「部下や後継者の指導・育成力(傾聴・対話力)」(企業61.7%、正社員ミドルマネジャー64.9%)が他を大きく引き離し、もっとも多くなっています。企業もマネジャーも、部下との間で傾聴や対話といった言葉によるコミュニケーションが重要であるという認識がありながらも、その能力・資質が不足していると自覚していることがわかります。

近年の管理職に不足している能力・資質(複数回答)
  • (労働政策研究・研修機構「人材マネジメントのあり方に関する調査」2014年を参考に作成)

日々の声かけが対人魅力を高める

声かけがコミュニケーションにおいてどれほど重要なのか。組織学習を研究する北海道大学大学院教授の松尾睦氏が監修した『OJT完全マニュアル 部下を成長させる指導術』で、指導者が対象者からの対人魅力を高める行動のコツをまとめています。「挨拶や日常会話、雑談など会話量を増やして、対象者を気にかけていることを示す」「言葉で褒めたり、励ましたりすることで対象者への好意を示す」といった声かけの行動があることで、対象者からの対人魅力が増すことが指摘されています。

OJTで指導者が対人魅力を高める行動のコツ
コツ 行動の例
普段から自分が対象者の近くにいて、常に気にかけていることを示す 会話の総量を増やす(挨拶、日常会話、雑談)、目を合わせる、席を隣同士にする など
会話の中で対象者との共通項をし、親近感を高める 価値観や考え方で共通点を見つける、行動や経験で共有できる部分を見つける など
積極的に対象者への好意を示す 言葉による働きかけ(修める、認める、励ます、感謝するなど)、
態度や表情による働きかけ(微笑む、うなずく、傾聴する、喜ぶ、拍手するなど)、積極的に自己開示をする(自分の失敗博験を話すなど)、会話で話題になったことをすぐに行動に移す など
  • (松尾睦 監修/ダイヤモンド社人材開発編集部 編『OJT完全マニュアル 部下を成長させる指導術』ダイヤモンド社を参考に作成)

言葉によるコミュニケーションの中でも “ひと言声かけ”は、リアルタイムに自分の気持ちや考えを相手に伝え、目に見えないコミュケーションの壁を取り除くことができる手法です。誰でもいつでも行え、チームワーク構築にも役立ちます。“ひと言声かけ”はトラブル時やひと踏ん張りが必要な場面などでタイムリーに気持ちを伝えられる点において、もっとも強く相手に印象を残せるコミュニケーションといえるでしょう。

人のやる気を引き出す“ひと言声かけ”

“ひと言声かけ”にはどんなものがあるか

普段、会社や仕事の中で行うような“ひと言声かけ”には次のようなものがあります。自分は普段どんな言葉を使っているかを考えてみてください。「挨拶や報連相、自分の気付き」は声かけしていても、「心づかい、感謝・ねぎらい、褒め」は言葉にしていないことがあるかもしれません。

普段行っている“ひと言声かけ”の種類
種類 内容
挨拶 「おはよう」「こんにちは」「さようなら」など、人が会ったとき別れ際に交わす日々の挨拶は、声かけの基本となる。
心づかい 「大丈夫ですか」「トラブルはないですか」など、相手を思いやる気持ちを言葉にする。それによってコミュニケーションが円滑になる。
感謝・ねぎらい 「いつもありがとう」「お疲れ様」「ご苦労さま」「助かるよ」など、相手に対して謝意を表す。
報連相 仕事を進めるうえで必要な「報告・連絡・相談」に関する言葉。
自分で気付いたこと 「知りませんでした」「なるほど、そうだったんですね」など、自分が気付いたことや思ったことを伝える。
褒める 「仕事が速いね」「長っているね」「~に感心したよ」など、具神的に良かった点を言葉にする。褒めは人の気持ちをプラスにする。

ちなみに褒め言葉には主に2つのスタンスがあります。1つ目は「You」のスタンスで相手を認めるもの。「よくやったね」「やればできるじゃないか」など、あなたはこうである、と伝える言い方です。2つ目は「I」のスタンスで、自分がどう思ったかを伝えるもの。「あなたが頑張っている姿を見ていると、自分もやる気が出る」「先日の粘り強い交渉には、自分も驚かされたよ」など、自分が感じたことを正直に伝えます。一般には「You」のスタンスの言葉が多いので、ときどき「I」のスタンスを使うとよいでしょう。

人のやる気を引き出す声かけ

“ひと言声かけ”は人のやる気を引き出したい場面で効果があります。そのポイントとなるのは「事実の受け入れ」「ポジティブな発想への転換」「肯定形での声かけ」「背中の一押し」です。ポジティブな言葉、わかりやすい言葉、相手が言ってほしいと思う言葉、気持ちが伝わる言葉を使うようにすると、相手の心に印象深く響きます。

やる気を引き出す声かけのポイント
ポイント 内容
1.事実の受け入れ 無いものねだりでなく、今あるものでベストを尽くす発想で声をかける。
例「今の状況でどうしたらベストを尽くせるか考えよう」
2.ポジティブな発想への変換 状況・事実は一つでも解釈の仕方はいろいろあるため、場面をポジティブに考えて声をかける。
例「このままじゃ受注できないぞ」→「もう少し頑張れば受注できるぞ」
3.肯定形での声かけ 相手を否定する言い方ではなく、してほしいことを考えて肯定で話す。
例「ミスするな」→「落ち着いて計算して最後は見直そう」
4.背中の一押し 相手への応援の気持ちが伝わるよう、背中を押す言葉を添える。
例「何かあればフォローするよ」「失敗しても大丈夫」
  • (占部正尚『部下のやる気を引き出すワンフレーズの言葉がけ』日本実業出版社を参考に作成)

また、相手のやる気を引き出すには、相手のモチベーションを上げなければなりません。そのためには相手を認める以下の3つの承認が有効です。“ひと言声かけ”が上手い上司の特徴には、「細かなことでも褒める」「ゴール間近など重要なポイントで声をかける」「陰の努力を褒める」「助けが必要な場面では必ず言葉でフォローする」といった点があります。特にタイミングを意識した声かけは有効といえます。

相手のモチベーションを上げる3つの承認
種類 内容
結果承認 「頑張ったね」など、過去に行ったことに対して、その価値を認める。
行動承認 「よくやっているね」など、現在行っていることに対して、その価値を認める
存在承認 「いつもありがとう」など、存在そのものを認める。
  • (占部正尚『部下のやる気を引き出すワンフレーズの言葉がけ』日本実業出版社を参考に作成)

声かけをきっかけに職場の雰囲気を変える

声かけの量と質を見直す

職場のメンバーが声かけの意識を変えることで、意思の疎通が図れ、組織としての一体感が増して、職場の雰囲気も大きく変わっていきます。そこで注意すべきことは声かけの量と質です。声かけの量を増やすコツは、何らかの気付きがあれば意識して言葉にすることです。声かけの質を変えるコツは、共有する目的を前提に前向きな言葉を増やすことです。ほんの少しの違いでも声かけの変化には気付くため、意識的に変えることがポイントになります。

声かけの量を増やすコツ
  • 毎朝、上司・部下の顔を見たら挨拶し、声をかける
  • 気付いたときには即座に感謝やねぎらい、褒める言葉をかける
  • 業績や仕事の内容について、毎日ひと言でも話をする
  • 何か変化を感じたら、そのことをすぐにフィードバックする
  • メールや日報には「読みました」でもいいので何らかの返事をする
  • 帰るときは必ず挨拶をする
声かけの質を変えるコツ
  • 笑顔と明るい声で話す
  • 誰の悪口も言わないように心がける
  • 普段からネガティブな言葉は使わない
  • 仕事を頼むときには理由を明確に説明する
  • ダメ出しではなく、アドバイスを行う
  • 相手に関心を持つ
  • 褒めるときも叱るときも感情で接しない
  • 何事も前向きな話に転換する
  • 常に目的とゴールを共有する

“ひと言声かけ”の最大のメリットは、ごく短いやり取りの中で互いの気持ちが感じられることにあります。仕事が忙しくて時間がないから言葉を交わさないのではなく、時間がないからこそ“ひと言声かけ”を存分に活用すべきでしょう。日々の状況の変化を職場のメンバーが感じ、仕事への意識を共有していくためにも、言葉によるコミュニケーションが欠かせません。コミュニケーション改革の入り口として、“ひと言声かけ”を実践してみてはいかがでしょうか。

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