(情報掲載日:2018年7月9日)


ジョブローテーションは、仕事の効率化や離職の抑制、人材育成、適材適所の実現、社内コミュニケーションの活性化、モチベーション維持など、企業が抱えるさまざまな悩みの対応策となるべき可能性を秘めています。その効果および活用方法について解説します。

●終身雇用が崩れるなか、意義も変化

ジョブローテーションとは、企業の人材育成計画に基づいた戦略的な人事異動全般を指します。この中には社員に異動希望を聞く「自己申告制度」や、企業が必要な部署や職種、役割などの条件を社員に公開して希望を募る「社内公募制度」、社員が自身の経歴や能力・実績を希望部署に売り込む「社内FA制度」なども含まれます。1990年代以前、日本では大企業を中心に定期的な人事異動が人材育成の柱として運用されていました。しかし、終身雇用を前提とした雇用体制が崩れるなかで、従来のジョブローテーションの意義も変化。個人の意向を踏まえた育成を実現すると同時に、企業に最大限の貢献をもたらす育成がその目的となりつつあります。

定期的な人事異動(ジョブローテーション)に関する調査(※1)によれば、「ある」とする企業は全体で 53.1%。規模が大きいほど割合は高くなっており、1000人以上では7割を超えています。定期的な人事異動は今も半数を超える企業で行われており、その意味ではより有効に活用することが必要な制度といえます。
また、人事異動の頻度が何年ごとになることが多いかについて聞いたところ、3年が27.9%ともっとも多く、次いで5年が18.8%となっています。

正社員規模別にみた定期的な人事異動(ジョブローテーション)がある企業の割合

(独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業における転勤の実態に関する調査」:平成29年2月より ※1)

●企業課題に対するジョブローテーションの効果

近年起こりつつあるさまざまな企業課題に対し、ジョブローテーションがもたらす効果が解決に役立つといわれています。期待される主な効果は以下のようなものです。仕事と人の適正な組み合わせが可能となり、業務の効率化が図られます。また、一人の社員がさまざまな部署や仕事を経験することで視野が広がり、人材の高度化も狙えます。働き方改革で仕事の効率化が叫ばれる昨今において、人材を最大限に活かす方策としてジョブローテーションに期待が集まっています。

ジョブローテーションで期待される効果


●ジョブローテーションがもたらすデメリット

一方で、人材を一定期間で動かしていくジョブローテーションには、いくつかのデメリットがあります。ゼネラリスト育成には向いていますが、スペシャリスト育成には不向きであり、また、一時的に業務スキルが落ちるため業務に影響が出ることが考えられます。

ジョブローテーションのデメリット

・習得に時間がかかる技能は習得しづらくなり、スペシャリスト養成が困難になる
・異動した直後は一時的に業務スキルが低下し、業務そのものが滞る可能性がある
・社員に明確なキャリアパスや専門分野がある場合には、異動により社員のモチベーションを下げる可能性がある
・給与体系が職種により異なる場合は、導入そのものが困難である
・仕事が中途半端になってしまうリスクがある


上手に活用するためには、ローテーションの範囲をコントロールしたり、異動時に周囲でサポートを行うなど、デメリットをできる限りカバーする運用の工夫が求められます。

※1:独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業における転勤の実態に関する調査」(平成29年2月)
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_40/pdf/s4_1.pdf

●ジョブローテーションの流れ

一般的なジョブローテーションでは、企業における経営の視点だけでなく、個人に焦点を当てて社員のキャリアパスをヒアリングし、どのように育成するかを設計することが求められます。実際の運用では、選定された社員に異動の目的と期間を伝え、期間内での能力獲得の状況を確認しながら、次なる段階を設計していくことにあります。企業には事業の方向との整合性を確認しながらも、人材の成長に重きを置く姿勢が求められます。

ジョブローテーション実施の流れ

(トーマツ イノベーション『人材育成ハンドブック――いま知っておくべき100のテーマ』ダイヤモンド社を参考に作成))

●よりよい制度にするためのポイント

ジョブローテーションでは、「異動させる本人に何を学ばせたいか」「異動で異動元が失うものは何か」「異動先の部署に何をもたらしてほしいか」の3点を考えておく必要があります。実施の際は、公平性・柔軟性・経済性(実施による企業利益)のバランスも考慮します。戦略的な育成を行うためには人事データを「能力」「人物」の評価に加えて、「職歴」「経験」も詳細にデータベース化しておくべきでしょう。異動させる職場の順序も重要であり、経営層やこれまで高い業績をあげた人などが過去にどのような異動をしていたのか、有効な順序についても研究しておきます。

異動先の部署では、人員が変わることで部署内の仕事を再編成するケースがあります。また、慣れない職場では一時的に業務スキルが落ちるので、異動先では周囲に業務サポートができる人材も必要になります。また、ジョブローテーションをスムーズに行えるようにするには、誰がどの仕事を担当しても可能な状態をつくっておかなければなりません。事前に仕事内容を洗い出して、流れを細分化し把握しておく必要があります

●自己申告、社内公募、社内FAといった制度で注意すべきポイント

自己申告制度、社内公募制度や社内FA制度には、「社員の士気を高める」「人選までのコストや 時間を節約できる」「成功すると社員の忠誠度が向上する」といったメリットがあります。制度を成功させるには以下のようなポイントが守られ、チャレンジする個人や部署がスムーズに意思表示でき、制度がフェアに運用されることが重要です。

自己申告制度、社内公募制度、社内FA制度を成功させるポイント



ジョブローテーションの考え方や手法は時代とともに発展しています。今のジョブローテーションが今後どのように変わっていくのか。新たなタイプのジョブローテーションは現れるのか。そのヒントとなる情報をいくつか紹介します。

●部署でなく「人」に付けるジョブローテーション

ジョブローテーションの対象者を部署ではなく、育成がうまい上司の下に複数の若手を配置する例もあります。そのような上司は、指導はもちろん自身の人脈を若手に伝える特徴があり、新たなネットワークが生まれる点でも価値があります。

●ジョブローテーションが難しい企業における人材育成

持ち株会社化による企業の分業が進んでいたり、サービス業など職務の種類の幅が少ないなど、社内業務にあまり違いがない企業もあります。社内でジョブローテーションの効果を狙いにくい場合には、組織横断型のプロジェクトを順次割り当てるなど、ジョブローテーション的な育成手法を考える必要があります。

●ジョブローテーションへのAI活用

最近は人事データの重要性が指摘されていますが、今後は人事データを活用したジョブローテ―ションが増えると予想されています。すでにジョブローテーションにAIを活用したサービスも現れており、社員の人事データを分析して能力を発揮できる異動先を助言したり、部門ごとに能力を発揮する人材の傾向をみて候補者から最適な人材を選ぶといったことが行われています。今後のこの分野でのAI活用に注目が集まっています。

ジョブローテーションと聞くと、以前は「古い人材育成手法」というイメージがありました。しかし近年、企業に求められる働き方改革における仕事の効率化や長時間労働の削減、休職者への対応といったなかで、その果たす役割からジョブローテーションのイメージは大きく変わりつつあります。労働人口が減りつつあり、人の流動化の推進が叫ばれる現代において、個人の仕事が固定化されることは人材活用の範囲を狭めることにもなりかねません。企業は今後いかにジョブローテーションをうまく活用していくか、その力量が問われています。

“旬”なテーマで人材活用やビジネスに関するお役立ち情報をお届けします。メールマガジンの定期配信をお申込みのお客様は左のボタンからお気軽にどうぞ。

このページのトップへ