(情報掲載日:2018年6月11日)


メンター制度を導入しても、「メンターに指導力がない」「メンターが時間を割けない」「上司が理解不足」「形骸化した」など、導入時や運用で失敗するケースが少なくありません。その背景にはメンター自身の業務の忙しさによる影響や、制度の周知徹底および人材育成体制の不備などが見られます。どのようにすればメンター制度で失敗しないのか、よりよい成果を出す方法について解説します。

●組織のスリム化を契機に導入が進んだメンター制度

メンター制度とは、知識や経験のある先輩社員が新入社員や後輩社員を支援する制度です。支援する側をメンター、支援される側をメンティと呼びます。メンター(Mentor)の語源は、古代ギリシャ時代の叙事詩「オデュッセイア(The Odyssey)」の登場人物「メントール(Mentor)」といわれています。メントールは王の息子の教育を任され、王の遠征中に王子の良き支援者、指導者、理解者となり帝王学を身につけさせました。これに基づき、メンターは人生経験の豊富な人、支援者、指導者、後見人、助言者、教育者といった役割を果たす人を包括的に意味する言葉として用いられています。

企業におけるメンター制度は1980年代に米国で人材育成の手法として制度化され、日本では1990年代のバブル崩壊後、組織のフラット化・スリム化が行われたころに導入が始まっています。組織のスリム化で新人の育成を行う先輩や上司が減り、早期退職者や心に孤立感を持つ社員が増えたことなどから、社内のメンタルヘルスの充実を図るとともにメンター制度が注目されるようになりました。導入企業ではそのメリットとして、「メンティから気軽に相談を持ち掛けられるようになる」「メンター自身にも振り返りや気付きの効果がある」「企業の風土醸成につながる」といった点があげられています。

特に近年、メンター制度は女性社員の活躍推進の手法としても注目されています。厚生労働省は2012年度にポジティブ・アクション展開事業の一環として、「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」(※1)を作成しました。互いに働き方や生き方のお手本となる女性社員のロールモデルを育成し、先輩社員が後輩の課題や悩みの相談にのるメンター制度を導入することによって、女性の活躍を支援する活動を行っています。



●離職防止・教育ノウハウの継承を目的に導入が広がる

新入社員研修に関するアンケート調査(※2)で、新入社員研修を終えて職場に配属されたのち、社員を支援するメンター制度があるかを聞いたところ、1001名以上の企業では72%、301〜1000名では52%、300名以下では40%と一定の支持を受けていることがわかりました。企業規模によって差が見られ、社員数が多いほど支援者を付けやすいといった運用のしやすさがうかがえます。メンター制度が企業で必要とされる理由としては、「気軽に相談できる同期や身近な先輩がいない」「入社3年以内の離職が多く、離職を防ぎたい」「現状において新入社員教育のノウハウが継承されていない」などがあげられています。

新入社員の配属後のメンター制度

(HR総研:ProFuture株式会社「新入社員研修に関するアンケート調査:2017年3月」※2より)

●メンター制度で見られる問題とは

広く企業で活用されているメンター制度ですが、導入後に問題が起きるケースも見られています。傾向としては「メンターの不備」「制度徹底の不備」「人材育成体制の不備」があげられます。忙しい業務の中でメンターとなる先輩社員の負担を配慮したうえで、制度実施に向けた準備が十分にできているかが問われています。

メンター制度を導入するうえでの問題点

・メンターが自身の役割をよくわかっていない
・メンターの指導力が弱い
・メンターが忙しすぎて時間を割けない
・メンターによってメンティへの関与度合いが異なる
・メンティの直属上司(現場管理者)が制度を理解せず、メンターを邪魔にする
・企業に人材の育成風土がなく、制度が形骸化してしまう
・企業が求める人材要件が不明確で育成ができない など


※1:厚生労働省「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000106269.pdf
※2:HR総研:ProFuture株式会社「新入社員研修に関するアンケート調査:2017年3月」
https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=166

●徹底すべきは「社内への周知と関係者の制度理解」

メンター制度を成功させるために必要と思う要件について聞いた調査(※1)によれば、上位は「メンター、メンティに対する事前の説明、研修会の実施」(55.9%)、「会社全体に対して制度の周知」(50.0%)、「直属の上司および周囲の理解」(48.3%)、「メンター、メンティのマッチングの十分な配慮」(45.8%)となっています。制度の周知を十分に図り、メンターおよびメンティへの上司の配慮が求められることがわかります。

メンター制度の成功に向けて必要と思う要件(複数回答)

(厚生労働省「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」※1より)

●制度導入の工程ごとの注意点

メンター制度は導入における工程が明確であり、各々の工程で注意点があります。特に注意が必要なのは、実施される内容についてメンターとメンティおよびその上司の間で意識や認識に相違があることです。各々にとってメリットがあることを理解し、全員が目的意識を持って取り組むことが重要になります。

メンター制度の導入工程における注意点


●動機付けを行い、役割を伝える

メンターが決まったらメンター同士の連帯感や情報交換を促すため、集合研修を行います。研修に参加することが動機付けとなり、メンター自身の不安を解消することにもつながります。伝えるべき内容には以下のようなものがあります。メンター制度やメンタリングについて正しい知識を与え、制度を有意義にするために必要なスキルを身につけさせます。顔を合わせることで横のつながりも生まれ、困ったときに互いに相談するといった効果も期待できます。

事前研修で伝えるべき内容


●自社に合う制度にする工夫と活用

メンター制度では企業ごとに自社に合った手法を考えていかなければなりません。以下は実際に行われている制度の工夫例です。そこには「メンターとメンティのコミュニケーション」「メンターの社内的な位置づけ」「情報交換の手法」「女性支援への配慮」といった工夫が見られます。障害となる点を洗い出し、それを乗り越えるために、全社で取り組みます。また、メンター制度では若手が上位者に教えるといったリバースメンター制度といった活用方法もあります。使い方を考えてみるのもよいでしょう。

事例にみるメンター制度の工夫

・人的ネットワークの構築を目的にメンター制度を導入し、メンター・メンティの合同研修を実施
・メンターは社内公募とし、管理職への登竜門的な位置付けに設定。メンター同士で進め方やアドバイスの視点を共有する懇談会を開くなど連携を強化、育成文化の醸成を図る
・メンターとメンティ専用のクローズドSNSを設置しコミュニケーションを支援。クローズドSNSを通じて人事への報告も行い、人事側では必要があれば面談を行える体制を取っている
・メンター候補のプロフィールをイントラネットに公開し、メンターへの相談を希望する社員が申し込む
・女性活躍推進を継続させるため、女性のメンティが次のメンターになる制度を実施
・現状でまだ女性社員数が少ない企業において、後輩の女性社員を支援することを目的にメンター制度を導入。メンターは経営トップが任命
・ITなど若手が得意な分野について、若手が経営層に指南するリバースメンター制度を導入

企業にはさまざまな人材育成制度がありますが、なかでもメンター制度は社員が広く参加でき、人が人を育てるという意味で、これまで企業が人材育成で重視してきたことがリアルに反映される制度といえます。制度の導入を機に、人を育てることで自分を育てるといった視点を持つ社員が増えれば、自然に人が人を助ける強力な組織になっていくでしょう。全社員が人を育てる経験を積むまでには比較的長い時間が必要になります。人事は理想とする社員同士の関わりをイメージしながら地道に制度を運用し、人が育つことの喜びを共有できるような組織づくりを実践することがよりよい成果につながっていきます。

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