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(情報掲載日:2014年12月10日)

どうする?どうなる!「ニッポンの人材」

企業の年功廃止がもたらす影響とは

VOL.35


大企業が次々と年功廃止を打ち出し、管理職だけでなく一般の従業員の賃金についても年功的要素をなくす改革に踏み切りました。年功廃止のねらいと、今後、会社員の処遇にどのような変化が予想されるかについてご紹介します。

大企業が年功廃止に踏み切る理由とは

●首相が年功型賃金の見直し議論を支持

日本の会社員の働き方をどのように改革するかについて、政府、経済界、労働団体の代表らを集めた会議において本格的な議論が始まっています。10月22日に実施された平成26年第2回「経済の好循環実現に向けた政労使会議」(※1)において、安倍首相は「経済の好循環を拡大するには、賃上げと年功型賃金の見直しの両方の議論が必要である」との認識を示し、「労働生産性に見合った賃金体系への移行という大きな方向性について政労使で共通認識を醸成したい」と強調しました。企業側からは、年功型賃金を廃止した大手電機メーカー2社および自動車メーカーのトップが会議に参加し、自社の賃金制度改革について説明を行いました。


●戦後の経済発展を支えた年功型賃金

年功型賃金とは、年齢や勤続年数に応じて賃金が上がる仕組みであり、ひとつの企業で定年まで勤め上げる終身雇用制と並び、戦後の経済発展を支えた日本型雇用慣行の柱であると言われます。勤続年数の長さで評価されるために企業への帰属意識と定着率が高まり、長く職場を共にした社員間で連帯感が強くなるメリットがある半面、若年層の賃金が抑制されることで、若手社員のモチベーション低下を招くというデメリットが生じることもあります。


●グローバル化の波に対応する

企業が年功廃止に踏み切った背景には、企業活動のグローバル化に伴い、成果主義を拡大して競争力を向上しようとする戦略があると考えられます。売上高における海外比率が高まり、中には海外での売上が全体の5割を超えるグローバル企業も見られます。日本のみならずアメリカやヨーロッパにも本社が設けられ、管理職の数が国内外の日本人と外国人を合わせて数万人という企業も珍しくありません。そうしたグローバル企業が日本に特有な年功型賃金を廃止する理由は、能力に見合う賃金が得られる人事制度を実現すれば、海外の優秀な人材を獲得しやすいからであると考えられます。


●若手社員のモチベーションを上げる

年功型賃金では40代〜50代の中高年層は賃金が高くなり、20代〜30代の若手社員との間に大きな賃金格差が生じます。そのため、目に見える成果と生産性が上がっても、勤続年数を積み重ねなければ賃金が上がらないことに矛盾を感じる若手社員も少なくないようです。年齢や勤続年数にかかわらず成果で処遇する制度になれば、若手社員のモチベーションが上がり、生産性の向上につながるという見方があります。また、中途入社者にとっても、成果主義のほうが年功型賃金よりも公平性、納得性があると考えられます。
国内市場が中心の企業のなかにも、成果主義を拡大する動きが見られます。ある大手外食産業では2015年に新しい人事制度を導入し、店舗の業績などを賃金に反映させて、現場の若手社員のモチベーションを高める方針を打ち出しました。


●適材適所の実現により労働生産性を上げる

欧米の企業では一般的に、職種ごとの仕事内容や責任範囲、賃金が決まっており、その仕事をだれがやっても同じ賃金が支払われる職種別賃金の仕組みになっています。日本企業のようにジョブローテーションで人材を育成するという考え方が主流ではなく、技能職、技術職、専門職、一般職といった職種間の異動や、部署間の異動が社命で行われることはほとんどありません。異動があるとすれば、日本企業のFA制度のように、欠員が生じた部署が社内に募集をかけ、それに対して社員が応募する形式が一般的のようです。
一方、日本の年功型賃金では賃金が仕事ではなく人の「職能」に対して支払われる仕組みで、担当の仕事が変わっても賃金は大きく変わりません。職能は1等級、2等級といった等級に格付けされ、役職や職種にかかわらず、勤続年数に応じて等級が上がる仕組みです。日本でも年功型賃金を廃止して、仕事の成果を反映させる賃金体系に移行し、FA制度を活用することにより、適材適所を実現し、労働生産性の高い組織に変革していくことが期待できるでしょう。また、適材適所で自分の能力を発揮できれば、社員のモチベーション向上も期待できます。

※1 「経済の好循環実現に向けた政労使会議」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/seirousi/

年功廃止後の新たな処遇の方向性

●職責給+成果給で処遇する

年功廃止後の処遇の仕方については様々な選択肢がありますが、先行して年功を廃止した企業の事例からヒントを得ることができるでしょう。1990年代後半に成果主義を導入した企業もありますが、急激な変化は社員を混乱させるとの批判があり、100%成果給とした企業はほとんど見られませんでした。とくに若手社員に対して成果給100%とすることは非現実的でしょう。前述のように多くの日本企業では欧米のような職種別採用ではなく、新規学卒者を一括採用して人事部が配属を決め、計画的なローテ−ションによってバランス良く職務能力を育てて行く方法がとられているため、育成期間中は成果主義にはなじまないと考えられています。
最近、年功型賃金を廃止したいくつかの企業では、従来の職能給に代わるものとして、職責に応じた「職責給」あるいは職務の内容に応じた「職務給」の区分を設け、これに成果に応じた成果給を上乗せする仕組みを採用しています。もしも100%成果給とすると、人によっては収入の大幅な減少があり、雇用不安をもたらすため、このような柔軟な制度変更が試みられていると考えられます。


●ジョブディスクリプションを明確にする必要が生じる

従来の職能から職責、職務といった実際の仕事に応じた処遇へと変えるのであれば、各人の職責、職務の範囲(ジョブサイズ)を定め、ジョブディスクリプション(職務記述書)を明確にする必要があるでしょう。欧米では雇用契約の際にジョブディスクリプションを明示することになっており、明示されていない職務について、社員は行わなくてよいことになっています。
日本でもジョブディスクリプションが明確になり、職責、職務に応じた賃金制度に移行していけば、中途入社による不利が解消され、契約社員、派遣社員、パートタイマーなどの非正規社員と正規社員との間の処遇の均衡化が進むと考えられます。


●職務・職責の等級分けや能力要件の基準が求められる

職務給、職責給ともに仕事の発揮能力に応じた賃金等級が定められます。例えば、同じ事務職でも初級、中級、上級といった等級があり、職責にも会社での役割に応じた等級があります。
年功型賃金の完全廃止を表明したある企業では、管理職のポストを責任の重さなどに応じて7段階の等級に区分して賃金額を設定し、この「職責給」に各人の成果を加味する制度に変え、管理職の給与制度をグローバルで一本化しました。従来は年功に応じた職能給に管理職のポストに応じた職位給を上乗せする制度でしたが、新制度は年功の要素を全く加えないため、勤続年数の短い社員が長い社員よりも高い収入を得る可能性が生じてきます。
職務給の基準を定めるときには、厚生労働省の委託で中央職業能力開発協会が作成した職業能力評価基準(※2)が参考になります。人事、総務、経理、営業といった多種多様な職務をすべてレベル1〜4の4段階に分け、各レベルにおいて求められる能力要件を具体的に定義しています。

※2 中央職業能力開発協会「職業能力評価基準とは」
http://www.hyouka.javada.or.jp/user/outline.html

年功廃止後に会社員の働き方はどう変わるか

●雇用延長後の働き方も職務・職責と成果本位になる

年功型賃金のもとでは中高年の賃金が膨張することを抑えるために、企業は役職定年制を設けるほか、雇用延長時には就業形態をパートタイムや嘱託に変えることで賃金カットを行っています。ただ、同じ60歳であっても、職務遂行能力やモチベーションには差があるため、このような一律の処遇が不満のもとになる場合もあります。他方、雇用延長後も高い成果を上げ続ける人にとっては、職務・職責と成果で評価される賃金体系であれば、納得が得られやすいでしょう。


●企業特殊能力よりも専門的能力が評価される

同じ企業の中での経験が評価される年功型組織においては、社内の特有なルールにのっとった職務遂行能力や、取引先との関係性の歴史などの知識といった企業特殊能力が高く評価されることがあります。しかし、職務・職責と成果に基づく賃金制度になれば、そうした企業特殊能力を発揮する人が必ずしも評価されるとは限らず、外部経営環境の変化に応じてつねに専門的能力を高め、実際に能力発揮して成果を上げる人材のほうがより高い評価を受けるようになると考えられます。


●高い職務遂行能力をもつ人材の流動化が進む

働く側は、評価に勤続年数が反映されないのであれば、自分に合わないと感じられる企業に無理して合わせようとする必要性がなくなります。それにより、転職をためらわなくなる人が増え、外部労働力市場が活性化し、高い職務能力をもつ人材の流動化が進むと考えられます。


●自己責任で能力を開発する傾向が強まる

年功制でなくなると、職能等級の階層別に実施されていた教育よりも、職務・職責に応じた専門教育の必要性が高まります。しかし、専門性が高くなると、企業が専門教育をきめ細かく内製して実施することには限界があるでしょう。中にはさまざまな研修科目を企業が用意し、社員に選択させ、最後まで修了した場合にのみ費用の全額または半額を負担するといったカフェテリア形式で効果を上げる企業もあります。
一方、こうした企業のサポートを受けず、自費で大学院へ進学したり、海外留学するといった人も見られます。働く人の能力開発は従来の企業主導型から自己責任で各自のキャリアプランに基づいて行う傾向が強まっていくと考えられます。

今回の政労使会議で首相が打ち出した賃金体系の改革については、「急激な変革では中高年の人生設計に支障をきたす」として労働側の強い反発もありました。そこで、より穏やかな変革の方向性として、100%成果給ではなく、職務・職責と成果で評価する仕組みを採用する企業が現れてきました。働く人は、かつてのように人生設計を企業任せにするわけにはいかなくなってきています。個人主導で能力開発を行い、自身の能力の発揮と相応な評価を求めて、必要とあれば社内外の転職にチャレンジするような「自立的・自律的なキャリア形成」が、年功型賃金が廃止された後の社会ではごく当たり前になるでしょう。

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