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(情報掲載日:2014年11月10日)

どうする?どうなる!「ニッポンの人材」

動き出したホワイトカラー・エグゼンプション

VOL.34


働いた時間ではなく成果に応じて賃金を払うホワイトカラー・エグゼンプション(WE)の導入の検討を始める企業が現れてきました。政府は2015年に法改正を目指していますが、先取りして準備する企業のねらいや、WEが米国で導入された経緯と現状、導入に向けての課題についてご紹介します。

米国におけるWEの実態と日本の方向性

●米国では1938年からWEがあった

ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)の「エグゼンプション」とは英語で「適用除外」を意味し、米国のホワイトカラーは連邦法の公正労働基準法(Fair Labor Standards Act、以下FLSAと略す)に定められている時間外労働の割増賃金に関する取り決めから除外されています。米国では1労働週に40時間を超えて労働したすべての時間に対して通常賃金率の1.5倍以上の割増手当を当該労働者に支払うことを義務づけています(※1)。
高率の割増手当をつけた目的は、割増手当を支払うよりも新たに1人雇用して2人でそれまでの仕事を分業させようとするためで、いわばワークシェアリングによる雇用創出に重点が置かれています。FLSAは1938年に制定された法律であり、当時は大恐慌後の失業問題が深刻化していたので、大胆な雇用政策の転換が求められたのです。
その点、管理職や専門職などのホワイトカラーは仕事の性質上、他の労働者との代替が難しく、多人数で分業化すると業務効率がかえって低下するのでワークシェアリングには向きません。また、①ホワイトカラーは高額の俸給を得ている、②役職手当などの付加的な給付や昇給などの特権が存在する、③パートタイマーのように時間的基準で仕事を規格化することが難しいという理由から、1.5倍の割増賃金から除外されたと考えられます。


●米国のWEは管理職、運営職、専門職の3類型

日本でも労働基準法の第41条によって管理職が時間外労働の割増賃金の適用除外となっている点は同じですが、米国では管理職以外にもWEの対象となる職務が規定されており、代表的な職務は①管理職エグゼンプト、②運営職エグゼンプト、③専門職エグゼンプトの3類型になります。このほか営業職、事務職の一部の人たちもエグゼンプトに該当します。


米国におけるエグゼンプトの要件
米国におけるエグゼンプトの要件
厚生労働省「諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間規制の適用除外」(※2)をもとに作成

ちなみに運営職に該当する職務の分野としては、税務、金融、経理、予算編成、会計監査、保険、品質管理、仕入れ、調達、宣伝、販売、調査、安全衛生、人事管理、人的資源、福利厚生、労使関係、公共関連、政府関連、コンピューターネットワーク、インターネット及びデータベースの運営、法務及び服務規律などが挙げられています。


●米国のWEは雇用者の約20%を占める

WEの対象となる最低週給は上記のとおり455ドルで、1ドル106円で換算すると月給では20万円弱となります。中には年収10万ドル以上の高額所得者も含まれますが、大半は高額所得者ではないようです。米国の1999年の国勢調査にもとづく集計では、エグゼンプトが雇用者全体に占める割合は21%と見られ、とくに管理職、経営関連職、専門職、コンピュータ・プログラマーに限れば60%にのぼっています(※1)。


賃金・俸給雇用者に占めるエグゼンプトの比率 (単位:千人)
米国におけるエグゼンプトの要件
労働政策研究・研修機構『諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間法制に関する調査研究』
第1章アメリカをもとに作成(※1)

上記の調査から15年が経過した現在では、インフレで給与所得が上昇したにもかかわらず、WEに認定される最低賃金の額が変わっていないために、エグゼンプトが雇用者全体の88%に達したと米政府は発表しています。オバマ大統領は、ホワイトカラーの中には時間外労働の割増賃金を受け取れないために苦しい生活を強いられている人も出てきていると指摘しています。


●経団連が2005年に日本型WEの導入を提言

失業対策が契機になった米国とは異なり、日本ではホワイトカラーの労働生産性の向上と国際競争力の強化を主眼として、産業界でWEの導入が検討されるようになりました。2005年に経団連が「労働基準法の労働時間規制の考え方は、工場内の定型作業従事者等には適合するものの、現在のホワイトカラーの就業実態には必ずしも合致していない」として「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」(※3)を発表しました。
日本の産業の国際競争力を強化するには、ホワイトカラーに適した労働時間制度のあり方が必要であると訴え、その理由として以下の2つの点を挙げています。


日本の産業の国際競争力を強化するためにWEが必要な理由

①ホワイトカラーは「考えること」が1つの重要な仕事で、職場にいる時間だけ仕事をしているわけではないため、現行の労働時間管理のあり方はなじまない
②現行法制下では非効率的に長時間働いた者は時間外割増賃金が支給されるので、効率的に短時間で同じ成果を上げた者よりも、結果としてその報酬が多くなるといった矛盾と不公平感が生じ、モチベーションを下げる原因となっている

日本経済団体連合会「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」(※3)をもとに作成

また、現行制度の中でホワイトカラーの自由裁量をある程度認めている「フレックスタイム制」は、繁閑調整の清算期間が1ヶ月以内の期間とされ、1ヶ月を超える期間については対応できない点に問題があり、「みなし労働時間制」は文字通り一定の時間労働したものと「みなす」ことを目的とした制度であって、労働時間規定の適用を除外するものとはなっていない点に問題があるとしています。「裁量労働制」については手続きの煩雑さ等の課題を挙げたうえで、労働時間の適用除外制度の採用のほうが望ましいとしています。このとき経団連が提言した日本型WEでは、適用対象として下表のような業務、年収を想定しています。


経団連が2005年に提言した日本型WEの適用対象

①現行の専門業務型裁量労働制の対象業務
②新たに法令で定める業務については年収400万円(または全労働者の平均給与所得)以上
③新たに法令で定めた業務でなくても、年収額が700万円(または全労働者の給与所得の上位20%相当額)以上であれば労使協定または労使委員会の決議により追加できる

日本経済団体連合会「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」(※3)をもとに作成

●日本政府は2015年のWE法制化に向けて動き始めた

経団連の提言を受け、政府は2007年に発足した第1次安倍内閣でWEの導入を検討しましたが、年収400万円以上という経団連の案では大半のホワイトカラーが該当するため、労働側から「残業代ゼロで給与が激減する」といった猛反発に遭いました。
それから7年後、第2次安倍内閣の掲げる成長戦略の重要な柱の1つとしてWEの法制化に向けた動きが復活し、2014年4月に安倍首相が時間ではなく成果で評価される「新たな労働時間制度」の仕組みの検討を指示しました。2014年6月に厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会において制度設計に関する議論が始まり、2015年の通常国会における労働基準法の改正案の提出、2016年春の施行が予定されています。

※1 労働政策研究・研修機構『諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間法制に関する調査研究』第1章 アメリカ
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/documents/036_1.pdf

※2 厚生労働省「諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間規制の適用除外」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/05/s0520-7b.html

※3 日本経済団体連合会「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」2005年6月21日
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/042/teigen.pdf

日本でも大手企業がWE導入の検討を開始

●日本型WEの年収の基準は1,000万円?

このような国の動きを先取りして、大手メーカーや総合商社などが日本型WEの検討に向けて動き出しました。導入には労働組合との協議などに時間がかかるため、国の制度設計の完成を待たずに検討を始めたものです。早い段階で具体的な基準を示すことにより、経団連などを通じて企業側の要望を国の制度設計に反映してもらうねらいがあるようです。
新聞で報じられた内容によると、先行して準備を進めている企業では、WEの対象となる層を「1,000万円以上」あるいは「700万円以上」などとしています。
他方、政府は2014年6月に関係閣僚で会談を行い、対象を少なくとも年収1,000万円以上とし、職務範囲が明確で、高い職業能力を持つ人に絞り込むこととしました。国税庁の統計では、年収1,000万円を超える給与所得者は管理職を含め全体の3.8%となっていますが、経団連は「全労働者の10%は適用される制度にすべきだ」と主張しています。


●日本型WEの対象職務とは

いくつかの企業の事例を見ると、WEの対象となる職務は営業、企画、研究開発などとなっており、経験から蓄積される高度な専門知識やスキルが求められ、労働時間で報酬を規定することが難しい性質の職務がWEの対象としてなじみやすいようです。
産業協力会議課題別会合で経営側から出された案では、「職務内容と達成目標が明確で、一定の能力と経験を有する者」、「業務目標達成に向けて、業務遂行方法、労働時間・健康管理等について裁量度が高く、自立的に働く人材が対象」であるとして、「各部門・業務においてイノベーティブな職務・職責を果たす中核・専門的人材」、「将来の経営・上級管理職候補等の人材」を挙げています。
厚生労働省は金融ディーラーやコンサルタントなどの職務を例示していますが、経営側はこのような専門職に限らず、技術職、プロジェクトリーダー、調査担当者など幅広く認めるように求めています。
たとえば調査担当者は、消費者の行動を探るために、勤務時間外の休日や夜間に百貨店やショッピングセンターを視察したり、映画館やライブハウスを訪れたりといった活動を業務として行う場合があります。また、企画書をまとめる際には早朝や夜間の静かなオフィスで集中して取り組んだほうが生産性は高いという声もあり、労働時間に縛られない働き方が求められているようです。

生産性向上に向けた働き方への課題

●労働者側は「残業代ゼロ」への抵抗感が大きい

WEについて本格的な議論が行われている労働政策審議会労働条件分科会において、経営側が対象となる職種を拡大する案を示す一方で、労働者側は「残業代ゼロ」になることを心配しています。
経営側の主な意見としては、「国際競争に勝つには労働生産性を高めることが必要で、残業をしない短時間勤務でも個人の成果を反映した賃金をもらえる働き方ができるようになることが大事である」、「いまの労働時間制度では多く残業した人が成果とは関係なく年収が高いということが起こりえる。新たな労働時間制度を示せば、効率的な働き方を目指している人たちの意欲や能力が発揮される」というものですが、労働者側は「年収要件の1,000万円以上が今後引き下げられる恐れがある」、「WE導入よりも、国際的に見て長い労働時間を国際水準に合わせることが先決である」などと主張しています。


●導入には長時間労働と賃金の減少を防ぐ措置が必要

日本型WEによって「サービス残業が発生する」、「残業代がなくなって賃金が下がる」という批判に対し、政府は「そのようなことは、絶対にあってはならない」とし、①希望しない人には適用しない、②職務の範囲が明確で高い職業能力を持つ人材を対象に絞り込む、③働き方の選択によって賃金が減ることのないように適正な処置を確保するという3つの前提条件を示しています。また、長時間・過重労働の防止については、「労働時間上限」、「年休取得下限」等の量的制限の導入など十分な措置をとることを経営側は求めています (※4)。


●WE以外にも多様な働き方に向けた改革が望まれる

現段階のWE導入案では対象者が多くても10%程度であるため、ホワイトカラー全体の生産性を向上させるには影響力が小さく、不十分であるという見方もあります。厚生労働省では、働き方の自由度を認める裁量労働制の対象を拡大し、手続きを現状よりも簡略化する方針を打ち出しています(※5)。
裁量労働制は一定時間を働くと事前にみなして賃金を計算する仕組みであり、WEのように労働時間と賃金を切り離す制度の1つですが、WEとの違いは勤務が深夜や休日に及ぶ場合はその手当が支給される点であり、より緩やかなWEであると言うことができます。また、介護・子育てと仕事の両立に重きを置く社員にとっては、残業をしなくても評価や収入が下がらない制度が望まれるため、フレックスタイム制をより広く普及させるべきだという意見があります。それ以外の若手社員に対しては、業務に熟達するまでは残業時間が多くなる場合もあり、労働生産性の向上を求めるのが難しいため、従来型の労働時間制度の適用が妥当であると考えられます。


※4 産業競争力会議雇用・人材分科会 主査 長谷川閑史「個人と企業の持続的成長のための働き方改革」2014年5月28日
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai4/siryou5.pdf

※5 厚生労働省第117回労働政策審議会労働条件分科会資料「裁量労働制の新たな枠組み、フレックスタイム制の見直しについて」
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000060727.pdf

日本型WEの真の目的は、労働時間と賃金の仕組みを分けて労働生産性の向上を図り、日本の産業の国際競争力を強化することにあります。日本のホワイトカラー全体の中で、エグゼンプションの対象となるエグゼンプトは当初は限定的であるとされていますが、WEの導入によってホワイトカラーの働き方の多様化は一層進むと考えられます。総合職、一般職といった大きなくくりだけでなく、勤務地や勤務時間、職務の範囲を限定された「限定社員」の導入も見られ、従来の「正社員」は一括りにできないぐらい内容が多様化してきています。企業は多種多様な複線型人事管理が必要になり、働く人は複数のコースの中から自分に合う働き方を選び、その職務の充実のために企業任せではなく自分の意思で能力開発を進めていくようなキャリア設計がますます必要になってきます。WEの導入は、日本人の働き方に対する意識を変える改革のはじめの一歩となりそうです。

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