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(情報掲載日:2013年6月20日)

どうする?どうなる!「ニッポンの人材」

強い現場力を取り戻すための「チームビルディング」

VOL.18


大学生の就職活動をめぐるルールが、首相の要請で変更されることになりました。就職活動(いわゆる就活)の解禁は、現行の「大学3年生の12月」から「大学3年生の3月」に3カ月後ろ倒しになります。しかし、これについては当事者の大学生はもちろん、大学側や企業からも賛否両論あり、不安や戸惑いの声も出ています。新卒採用のルールと大学生の就職をめぐる諸問題点を整理し、今後の「あるべき姿」をさぐってみましょう。

就活解禁を遅らせる第1の目的は、学業への専念

●首相の「ツルの一声」で決定

大学生の就職活動の新ルールは、首相の強い要請で決まりました。4月19日に首相が経団連、経済同友会、日本商工会議所の首脳と会談し、就活の解禁時期を現行の「大学3年生の12月」から「大学3年生の3月」に3カ月遅らせるように要請。経済界側が受け入れを表明し、急転直下で新ルールに向かって動き出しました。今後、経団連が「倫理憲章」で新たな日程を定め、賛同する加盟企業がサインする運びです。2016年卒の学生(2013年6月時点の大学2年生)から、新ルールでの就職活動が始まります。
就職活動を3カ月遅らせるねらいは、学生が学業に専念するための環境を整えることと、欧米などへ留学している学生が不利にならないようにとの配慮も含まれています。学生が安心して留学できるようになれば、企業も世界に通用する人材を確保しやすくなると見られます。

●新ルールでは「3年生の3月解禁」

新ルールでは、就活スケジュールは下図のようになります。新旧でルールを比較してみると、解禁日が3カ月後ろ倒しになったことに加え、解禁後から選考活動開始までの期間が1カ月長くなっていること、また、選考活動が開始になってからの期間が4カ月短くなっていることがわかります。

◆変更後の新就活ルールはこうなる
◆変更後の新就活ルールはこうなる

また、現行のルールについては、以下のURLも参照してみてください。
経団連「採用選考に関する企業の倫理憲章」
http://www.keidanren.or.jp/policy/2012/051.html

●学生1人あたり89.1社に応募する

このように大学生が就職活動に取り組む時間は短くなりますが、その間に「やるべきこと」の作業量が変わらなければ、大学生は「短期決戦」の中で就活に全力投球しなければなりません。現状では、解禁後の活動のプロセスと大学生の活動状況は、下記のようになっています。

◆大学生の就職活動の実態

1)解禁後に公開される求人情報の収集
2)企業のホームページ等で情報提供や会社説明会への申込みをする(平均89.1社)
3)会社説明会への参加(平均56.4社/企業単独26.1社、合同17.5社、学内12.8社)
4)エントリーシート提出(平均23.6社)
5)集団討論(グループディスカッション)(平均4.8社)
6)筆記・WEB試験受験(平均16.0社)
7)面接試験受験(平均11.4社)

株式会社ディスコ「2012年7月1日現在の就職活動状況」
http://www.disc.co.jp/uploads/2012/07/13monitor_2012july.pdf

●採用率1%の狭き門になる大企業もある

機会均等の原則の名のもとで、大学生であればだれでもどの企業にも自由に応募できるので、いきおい1人あたりの応募社数が平均89.1社と多くなり、競争率が激化しているのでしょう。
ある人気企業の例では、プレエントリーの段階で5万人以上が応募し、エントリーシートの提出が1万人以上にのぼったそうです。しかし、1次選考(筆記試験と集団面接)、2次選考(個人面接とグループディスカッション)、役員による最終面接を経て、採用実績はわずか100人、採用率1%の狭き門でした。

●新ルールのメリットとデメリット

「学業に専念させる」という点で、大学、企業、政府の三者で意見が一致し、就活解禁の時期を後ろ倒しにすることになったわけですが、「いいことずくめではない」と心配する声も挙がっています。
「3年生の3月解禁」の新ルールのメリットとデメリットについて、下表のように整理してみました。

◆就職活動を大学3年生の3月まで繰り下げた場合のメリットとデメリット
◆就職活動を大学3年生の3月まで繰り下げた場合のメリットとデメリット

学生にとってのメリットとしては、大学3年生の終わりまで勉強に集中できるほか、夏休みはもちろん、冬休みもインターンシップに使うことができるようになります。また、3年のときに留学していても、3月解禁であれば、帰国した春休みに他の学生とともに就活のスタートをすることができるので、不利にはならないでしょう。
他方、企業にとってのデメリットあるいは懸念材料としては、外資系企業や経団連に加盟しない新興企業などが経団連の倫理憲章に縛られないため、「3月解禁」を守らずにフライングして学生にコンタクトをとり、混乱させるのではないかという声もあります。
そもそも就活のルールは企業間の「紳士協定」であり、首相の要請といえども法的拘束力がないので、「青田買い」をする企業が増えれば台無しになってしまうでしょう。

●短期決戦になれば学生はもっと真剣に企業を選ぶようになる

企業にとっては、なるべく多くの学生と接触し、その中から優秀な学生を選抜し、早期に獲得できることが望ましいわけです。
学生との接点を増やすため、多くの企業はWebサイトを活用した大規模な採用活動を展開してきましたが、これには膨大な作業が伴うために、かかる費用と時間に対する効果を危ぶむ声もあります。
応募してきた学生は、自社の社員になれなくても、企業にとっては将来の有望な顧客になるかもしれないので、丁寧な対応を迫られます。
百分の一とか、数十分の一といった高倍率での「大競争」は、企業にも学生にも負担が大きく、あまり良い方法とは言えません。
今回、新ルールによって就職活動の日程が後ろ倒しになり、その分、「短期決戦」の様相を呈することにより、学生側はもっと真剣に入社したい企業を選ぶようになるのではという見方もあります。そうすれば、あらかじめミスマッチが明らかであるような無益な応募が減り、企業と学生の双方にメリットをもたらすとも考えられます。企業にとっては「辞退者が減る」ということが考えられます。これまでは、学生が早く不安を解消したいがために、「どこでもいいから内定がほしい」と考えがちでした。1社内定しても、ただちに就活を止めるわけではなく、「もっといい会社」の内定を求めます。その結果、企業によっては辞退者の対応に苦慮させられます。もしも学生が応募先を厳選するならば、辞退者が減って、企業の採用コストが抑えられるかもしれません。

●中小企業への影響が懸念される

このように大手企業には就活の新ルールが「吉」と出そうな感がある一方で、中小企業への影響が懸念されています。中小企業では、大手企業の採用活動が一段落した後で活動が本格化します。
就職活動の期間が短くなれば、複数の企業の採用試験の日程が重なることにより、応募者が減る恐れもあり、日程の調整に頭を悩ますことになりそうです。
ただ、早い時期から中小企業もターゲットにして企業研究を進めるような堅実な学生が増えるであろうとの見方もあります。最近では、中小企業の中の有望企業を見極める方法について指南する「就活本」が増えています。
その一方で、第一ラウンドの大企業をめぐる就職競争に敗れ、疲れ切ってしまい、中小企業に目を向ける余裕がないままに卒業時期が迫り、就職そのものを諦めてしまう学生が出て来るのではないかという心配もあります。

●学生の「企業を選ぶ眼力」を進化させる必要がある

要は、学生に「企業を選ぶ眼力」があるかどうかです。経済や経営を専攻する学生さえも、多くは大手有名企業やイメージ戦略に長けた新興企業に目を奪われがちです。
これには親の過干渉も影響しています。「一部上場企業でなければ不安だ」とか、「テレビでコマーシャルをしているような企業でなければダメだ」といった偏った見方で、子どもの志望先を否定することもあるようです。
企業のタイプは、一般消費者を対象とするビジネスを中心に行う「B to C」と企業や官公庁を対象とする「B to B」に分かれますが、親や学生は「B to B」企業に対する知識が乏しく、選ぶのは「B to C」企業に偏っています。
中にはシェアが世界一の製品をもつ企業や最先端の技術力を有している企業もあるのに、成長力のある中小企業に目を向ける学生はわずかです。
そこで、「1、2年生のうちから経済、産業、雇用に関する教育を行うべきだ」という声もあります。その一環として、企業で職場体験ができるインターンシップへの需要が高まることも予想されます。ハウツウの注入にとどまることなく、未来の日本経済を支える人材養成につながるような教育が求められていると言えるでしょう。

自立する力=就職できる力を養成するような大学改革が必要

●「大学全入時代」で就職をめぐる競争が激化

数少ない有望企業の正社員のイスをめぐり、多くの学生が競争をするため、いまの就職状況は「大競争時代」と言われています。均等法前の女子学生就職難の時代や、バブル崩壊後の就職氷河期とも異なる意味で、厳しくなっています。
2012年の大学・短大進学率(同年12月文部科学省発表)は53.6%にのぼり、30年前の1983年(昭和58年)の30.1%と比べると、2倍近い数字になっています。
就職をめぐる大学生の競争が激化する背景には、このような大学進学率の拡大があります。
1990年代以降の規制緩和で、大学や学部の新増設が進み、入学定員が拡大され、1962年に260校だった大学が、1980年507校、2011年には780校と、50年間で3倍に増えました。
また、高校からの推薦入試、書類や面接だけで合否を判定するAO入試など、いわゆる"無試験"で入学できるシステムが拡大し、希望する人はだれでも大学に入れる「大学全入時代」になったと言われます。
また、大学生の数が増えているのに、長引く不況で企業が採用数を抑制し続けるから、人気が集中する大企業ほど狭き門になるわけです。
しかし、多くの学生は、まず募集時期の早い大企業をねらい、いわば「数撃ちゃ当たる」方式で次々と応募した結果、どこからも内定がもらえずに就活が長期化し、中には途中であきらめてしまう学生もいます。

●卒業後未就職者が約8万6,000人!

アベノミクスの影響で景気が上向きになり、大学生の就職内定率が向上したと報道される一方で、未就職者の数は2012年で約8万6,000人にのぼっています。
厚生労働省および文部科学省の合同調査では、今春卒業した大学生の就職率は93.9%(前年比0.3ポイント増)にのぼりましたが、これはモニターになった学生6,250人の抽出調査であるため、全体傾向を反映しているとは限りません。
全数調査である文部科学省の学校基本調査によると、ここ数年、卒業時までに就職できた大学生は6割程度にとどまっています。

文部科学省「学校基本調査(2012年)」より作成
文部科学省「学校基本調査(2012年)」より作成

上記の2012年の「就職者」35万7,000人のうちの「正規の職員等でない者」、「一時的な仕事に就いた者」及び「進学も就職もしていない者」を合算すると、12万8,000人となり、これらの安定的な雇用に就いていない者の卒業者に占める割合は、22.9%となっています。

●就職率で大学間の「格差」が広がっている

学卒未就職者の割合は、大学間の格差が大きくなっています。労働政策研究・研修機構が全国の4年制大学614校の就職部を対象に、2010年3月卒業者に対して行った「大学における未就職卒業者支援に関する調査」によると、未就職者が10%未満の大学が17.9%、10〜30%未満の大学が53.4%、30%以上の大学が27.9%と、相当のばらつきがあります。
30%以上の大学の特徴としては、国公立大学よりも私立大学で多く、とくに比較的設立年次の新しい私立大学で多いという傾向が見られます。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構
独立行政法人 労働政策研究・研修機構
http://www.jil.go.jp/press/documents/20100827_02.pdf

●「就活うつ」で自殺する学生も

中には就職の失敗を気に病んだ末に自殺する学生もいて、その数は増加傾向にあり、ひとつの社会問題ともいえます。
大学とは、豊かな人間形成の場であるはずなのに、ここまで学生を追い込んでしまう就活のシステムに、別のやり方はないのでしょうか。また、失敗すると中々立ち直れない学生が増えていることも問題であり、解決のためには大学教育のあり方を改革することも必要といえます。

警視庁 「自殺の概要資料」各年版
警視庁 「自殺の概要資料」各年版

●大学にきめ細かい対応が求められる

今回の新ルールの導入にあたり、下村博文文部科学相は国公立大学の関係4団体の代表と会い、「学生に不安や混乱が生じないよう、きめ細かく丁寧な対応をお願いしたい」と協力を求めました。
具体的には、以下の4点を強く要請しました。

◆文部科学相が大学側へ求めた4つの要請

・インターンシップなど職業教育の充実
・地域や産業界のニーズを踏まえたカリキュラムの策定
・留学の促進
・その他、主体的な大学改革

大学生の就職の問題を解決するには、就活ルールを変更するだけでは足りないようです。単に活動期間を変えるだけでなく、大学生の就職できる能力(エンプロイアビリティ)の醸成に着眼したカリキュラム変更などの大学改革が必要であるということでしょう。

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