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(情報掲載日:2019年12月11日)


2017年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学の理論の一つ「ナッジ理論」は、世界的に注目されている新しい考え方です。既に、マーケティングや公共政策などの場でも幅広く活用されています。人の思考や行動を上手に円滑に、良い方向へと導くことのできるこの理論についてご紹介します。

●「非」合理的な人間の行動に着目

伝統的な経済学では、人間は合理的に行動すると考えますが、行動経済学では、人間は感情や情報に流されて行動することがあり、決して合理的に行動するとは限らない、と捉えます。従来の経済学の理論では分析し難い人間の行動や現象を、心理学を応用したり人間行動を観察することによって明らかにしようとする新しい経済学が、行動経済学です。
2017年にはアメリカの経済学者、リチャード・セイラー氏がこの研究によってノーベル経済学賞を受賞しました。同氏が提唱した理論の一つがナッジ理論です。

人間が合理的に行動しない場面としては、次のような例があります。メニュー表に、「並1000円」「上2000円」「特上3000円」の3つのみが記載されていたとします。この場合、半分以上の人が真ん中の「上2000円」を選ぶ傾向にあると言われています。
理由は、「一番安い品を選ぶとケチだと思われるのではないか?」という見栄やプライド、「安い品よりは、高い品の方が美味しいはず」という思い込み、「一番高い品は贅沢だと思われるかもしれないし、期待外れの場合は失望感が大きくなる」という世間体を気にする感情や自己防御が働くためです。
こういった心理が生じるために、選択肢が3つある場合、人間は真ん中を選びがちになりますが、決して合理的な選択とは言えません。合理的ではない意思決定や判断によって行動するという人間の行動メカニズムは、マーケティングや広告宣伝活動などに幅広く応用できると注目されています。

●人々の行動に変化を与える「きっかけ」

「ナッジ」(nudge)は英語で、「ちょっと押す」「ひじで人をそっと突くこと」という意味があり、ナッジ理論は、ひじで軽く突くような小さなアプローチやきっかけによって、人間の行動は変わると考える理論です。人間は非合理的に行動する場合があるために、間違った判断を下したり偏った考えを持つ場面も少なくありません。そんな時に、ちょっとした工夫を加えて示すことで、相手に気付きを与えて、より良い選択ができるようにサポートする手法にもなると言えます。

経済政策には、人間の行動は必ずしも理性的ではないと考えて強制的に導く「パターナリズム」、人間の良心を尊重して自由を最大限に重んじる「リバタリアニズム」という二つの考え方があります。
ナッジ理論は、二つの考え方を融合させた「リバタリアン・パターナリズム」で、人間がより良い行動が取れるための選択肢や情報を示して自由に選んでもらう、という考え方が軸になります。重要なポイントは2つ、「相手に強制しないこと」「相手が自分から良い行動をするように促すこと」です。相手が、誰からも強制されずに「自分の意思で選んだ」と感じて、その選択が結果的に本人にとってより良い行動につながっている、という流れになるのが理想的です。

●欧米での活用の広がり

ナッジ理論は、アメリカの企業を中心にマーケティング戦略で利用され世界的にも広まっている他、公共政策への活用も進んでいます。補助金や規制ルールや奨励金といった従来の手法よりも、コストや手間もかからずに効果が得られるためです。

例えば、イギリスでは「あなたの住む地域の多くの人が期限内に納税しています」という内容の文書を送付したところ、納税率が上昇しました。文書では一言も期限内に納税することを強制せずに客観的な情報を与えただけですが、期限内に納税するという良い行動を本人が自由意思で選んだのです。
アメリカでは、カフェテリア形式の食堂で取りやすい位置にサラダなどの健康的なメニューを並べたところ、選ぶ人が以前よりも明らかに増えて健康増進に役立っています。“こちらはヘルシーなメニューです”といった表示をつけなくとも、本人にとって望ましい食事が自主的に選ばれているのです。
人がこちらを見ているようなデザインのポスターを貼ると車の速度違反が防げた、シャッターや壁に子供や赤ちゃんのいる絵を描くと迷惑行為が減った、「AとBどちらがいいか?」という質問を添えてAとBのゴミ箱を投票箱のように置くとポイ捨てが減ったなど、効果が表れている多くの事例が報告されています。

●国内での活用例

国内でもナッジ理論の利用は進んでいます。環境省では、ナッジ理論を含んだ知見に基づく取り組みの実施と普及を目的とした「日本版ナッジ・ユニット」を2017年に発足させました(※1)。競争意識を刺激して省エネ化を促進するために、家族構成などの似た世帯と比べた電気・ガスの使用量の比較データや節電によってどれほど料金が下がるかを記した請求書を送付するといった取り組みも行っています。得をするよりも損を回避したいという心理のほうが強く働くため、「節電をしないといくら損をします」というメッセージはより省エネ行動に繋がりやすいと考えられています。 厚生労働省では、病気の予防と早期治療の推進を目的に、特定健診やがん検診の受診率を高めるための「受診率向上施策ハンドブック」をホームページ上で公開しています(※2)。受診行動を促す案内文を作成するポイントがまとめられていたり、実際に受診率が改善された自治体の事例が掲載されています。
ナッジ理論を働き方改革に利用した例としては、警察庁中部管区警察局の取り組みが参考になります。申請制だった当直後の休暇取得の仕組みを、休暇せずに勤務する場合にのみ申請が必要になるように変えたところ、取得率が大きく改善されました。休暇を取る場合には手続き不要、休暇を取らない場合には手続きが必要という、煩わしさに違いのある選択肢を設定したという小さな工夫が、より良い行動に向かわせたことになります。

※1:環境省「日本版ナッジ・ユニットについて」
http://www.env.go.jp/earth/best.html
※2:厚生労働省「受診率向上施策ハンドブックについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04373.html


ナッジ理論を仕事に活用するための4つのテクニックを、次の表にまとめました。「身近な具体例」を思い浮かべてみるとイメージが湧いて、活用しやすくなります。

自分が望ましい、好ましいと思う方向へ物事を進ませたい時に限らず、相手が選択に困っていたり、間違えそうな時にサポートする時にもナッジ理論は活かせます。自然に、より良く、よりスムーズに導くテクニックを身に付けてみませんか。

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