(情報掲載日:2018年1月10日)


「おもてなし」という言葉が、海外に対して日本らしさを伝えるキーワードとして、よく使われるようになりました。海外観光客を意識したサービスの中でもたびたび耳にするフレーズです。この精神は仕事にも活かせるもので、実際に数々の企業が活用しています。ビジネスパーソンとしても「おもてなし」を日常的に取り入れてみませんか。

●おもてなしの文化

「おもてなし」は、「もてなし」に丁寧語「お」を付けたもので、相手を思って心を込めた対応とその心構えを意味する言葉です。語源としては、人と人の間の良好な関係を取り持つことを意味する「持て(以って)+成す」、表裏のない心で接することを意味する「表裏なし」などの説が伝えられています。室町時代に完成した「茶の湯」が大切にしている、客人を思って場を何気なく演出しお茶を出すといった、相手への気遣いや思いやりの心を表す象徴的な言葉でもあります。

おもてなしは、普段の生活で客人を招き入れる時にだけ意識されてきたのではありません。飲食店や旅館や小売店でお客様に多く接しながら働く人、使う人のことを考えてものづくりをする職人の間でも、仕事を通じて受け継がれてきました。「茶の湯」に限らず、日本の文化として広く伝わってきた精神といえます。


●おもてなしの広がり

現在では、新たな付加価値やより高いサービスを生み出すものとして、ビジネスの世界でおもてなしの注目度が高まっています。高く優れた品質に応えるだけではなく、多様化するニーズに応えていくためです。顧客満足度アップ、リピーター獲得、他社との差別化へとつながる重要な視点になると考えられています。
例えばIT業界では、システムやソフトウェア開発の際にUX(User Experience)を重視するようになりました。これは、機能的な見やすさや操作性ではなく、使う人の感覚的な楽しさや満足を指す用語で、おもてなしの精神に通じる設計上のコンセプトです。

経済産業省でも、サービス業や地域経済の活性化・生産性を高めるためにおもてなしを促進しようと、「おもてなし規格認証制度」を2016年に開始しました(※)。顧客・地域社会・従業員の満足度を高めるための行動リスト30項目を設定し、これをチェックすることでサービスの品質を見える化し、該当項目数により4ランクに分けた「おもてなし規格認証」を認定するというものです。認定マークは店頭や事務所に掲げたり印刷して活用できます。

※:経済産業省「おもてなし規格認証制度」
http://www.meti.go.jp/press/2016/08/20160825001/20160825001.html

●自分の心の持ち方の基本

おもてなしをするにあたっての基本は、「相手に喜びや快適さを感じてもらうために何をすればいいか」を、事前に考えることです。相手の思いや欲求を察知して、目配り・気配り・心配りをしながら、相手のための行動をとるようにします。 その場その時に予想外の状況の変化があった場合でも、その都度適切に判断し相手に対応していく機転も大切です。

ポイントは、相手全員に対して「一律」ではなく、相手全員に対して「個々に」向き合うということです。個々の状況・好み・心情を深く知ろうと心を尽くし、一人ひとりに「あなただけ」のおもてなしを行います。さらに、同じ一人に対しても、時間や場所が変われば、おもてなしの内容も変わってきます。おもてなしは常に一定というわけではないのです。
また、おもてなしのために走り回ったり必死になっているような姿は表に出ないようにします。相手に逆に気遣いをさせてしまわないためです。そのためにも、柔らかさやゆとりが感じられる表情やしぐさを心がけます。

●相手の気持ちへの波及

おもてなしを受けた相手は、自分の抱いていた期待や想像を超えるモノやコトやサービスを知る、あるいは、それに浸ることになります。すると、通常の納得感や安心感以上の感動や心地よさを覚えます。それは表情やふるまいへと連鎖し、感謝・喜びの反応になって、もてなす側に返ってきます。

このように、おもてなしは、相手に何らかのプラスの感情を及ぼして波及し、もてなす側・もてなされる側の双方にとって気持ち良く満ち足りた空間、ひとときを作り出します。そして、その印象はその場だけには終わりません。印象はしばらく残り続けるため、もてなされる側はもてなす側のファンになり、また会いたくなる、関わりたくなるといった気持ちが呼び起こされます。おもてなしは、絆や信頼関係を築くきっかけとなるのです。

●「役割やサービス」との違い

職場全体として、お客様に対するおもてなしを取り入れる時に頭に入れておきたいことは、「役割やサービス」と「おもてなし」は異なるということです。「役割やサービス」は、基本的にできて当たり前の水準であり、「おもてなし」は、「役割やサービス」の先や隙間にある高度な水準のものです。「おもてなし」は、「役割やサービス」の不足・不備を改善するものではなく、新たな付加価値となるものの新たな対価を求めない点が特徴です。

従って、おもてなしを取り入れるにあたっては、おもてなし未満、おもてなしの前段階にあたる「役割やサービス」を明確にすることから始めます。これらがしっかりと行えるようになって初めて、おもてなしのステップに進めるといえます。
具体的には、まず、「役割やサービス」としての共通ルールやマナー、相手に対する姿勢・意識のあり方、提供内容の標準レベル・項目を確認します。次に、それらを職場全体で周知し徹底します。徹底できない場合は、それを課題に捉えて解決策を講じます。課題がクリアできたところで、おもてなしとして「何ができるか」を検討します。

「何ができるか」のポイントは、おもてなしの基本である「相手の喜びや快適さ」にあります。相手のために何ができるか、さまざまなケースを想定して行動アイデアを出し合い、想像されるおもてなしの例を職場内で共有します。この際、些細なものでも数多く出し合うことが重要です。いくつも事前に思い描いておくことが、おもてなしのスムーズな実践につながっていくといえます。
また、最終的にはおもてなしが利益貢献に通じるような視点も、意識しておきます。おもてなしとして何でも取り入れていくと、非効率になるケースも考えられるためです。例えば、お客様のニーズの違いによるサービスの選択と集中を行って、思い切って部分的に省くという決断も時には大切になります。

おもてなしの取り入れ方


●参考になるおもてなし事例

ホテルチェーン、老舗旅館、アミューズメント施設などサービス業で実際に行われている、おもてなしを重視した取り組みは、書籍・新聞・雑誌で数多く紹介されています。そういった成功事例は参考になりますが、サービス業に限らず、一般企業の受付や秘書の行動にも手がかりはあります。例えば、相手の立ち位置に合った道順の伝え方、相手を安心させる表情や立ち振る舞い、タイミングのよいお茶の出し方、穏やかな声のトーンなどからも、おもてなしのエッセンスは学べます。
そのようにして気づいたことを元に、まずは電話の応対、資料の渡し方、企画書のまとめ方など、身近なところから社内の人を相手におもてなしを実践してみてはいかがでしょうか。相手の反応にも変化が見られて手応えを感じることができます。

また、おもてなしというと、それぞれの相手にじっくりと向き合う対応が連想されがちですが、心のぬくもりよりもスピードを相手から求められるような場面は多々あります。そのため、活用できる技術や仕組みを積極的に取り込めば、より賢いおもてなしもできます。例えば、入力処理できる範囲はシステムに任せる、マニュアル化できる部分はまとめるなどして、おもてなしの一部を他に代替させるのです。それによって労働効率、生産性が高まり、時間にゆとりが生まれるため、新たなおもてなしに心を向けることができます。おもてなしの事例を共有する時間に充てれば、おもてなしの全体的な向上も図れます。

おもてなしは、相手との良好な関係を心地よく醸成してくれるものといえます。そして仕事の面でも力を発揮してくれます。日本人が受け継いできたこの精神を、日頃の仕事の中でも活かしてみませんか。

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